カラダよろこぶろぐ

山の記録と日々の話

なめとこ山の鉛の湯

2010-01-08 | イワテケン

スキー場編はこちら

今日の宿は以前から一度入ってみたかった「鉛温泉」。
スキー場からは住宅を抜けて徒歩五分ほどの淵沢川沿いに建つ一軒宿。

 
この総檜造りの古めかしい風情の玄関。ふっとあのフレーズが浮かんでくる。
「鉛の湯の入口になめとこ山の熊の胆あり」



でも私たちが宿泊するのは「湯治部」です。
中では繋がっているのですが、玄関が違います。先ほどの玄関は「旅館部」
「旅館部」と「湯治部」では宿泊料金も違いますが、
「なにもそこまで・・・」と思うくらい差別化されています(笑)
旅館部の宿泊者のための配慮となれば仕方ないのかもしれません。


 
さて、一回坂を上りなおしてこちらが「湯治部」の玄関。ガラス扉に描かれた文字がステキ。
玄関に入ると「ささ、寒かったでしょう。こっちで温まって」と、
宿の方が温かく迎えてくれます。
昔懐かしい「帳場」 中には神棚も手提げ金庫もあってホントに昔のままなのです。



 
館内の案内を丁寧にしてくれる男性達は、この湯と宿を守り続けてきている、
という誇りを持っているのでしょう。
来る人来る人、こんなに丁寧に説明してたら疲れるでしょう、と思うほどです。

案内された部屋は4畳半、自分が子供の頃見たような昭和スタイルの家そのもの。
障子の向こうは木枠の窓だけ、下には淵沢川が流れている。
部屋の中でもとても寒いので、小さなコタツがうれしい。
ストーブは別料金で貸してくれます(ストーブナシでは無理でした)

薄暗い廊下、部屋の番号は手書きのもの。
なんともしみじみと、湯治場、を感じさせてくれる造りです。


 
廊下には暖房器具は一切ないので、部屋を出るとそこは真冬。
それでもこの「ピーン」とした冷たさが、山あいの秘湯気分を高めてくれる。
そう、これを味わいに来たんだよね。そう思うと寒さもまた味わい深い。


 
建物は二階建て。自炊場が1階2階にそれぞれにあり、鍋や食器も自由に使えるようになっていた。
ガスは10円を入れてまわすと5分?使えるというもの。
実際始めて使ったのだけれど、遠い昔にタイムスリップしたようだ。


館内には自炊のための売店が二つある。
地元のおかあさんが座っていて、他愛のない話などしながら買い物が出来る。
日用品、乾燥ラーメンや簡単な野菜、レトルト食品、お酒・お菓子などを置いている。
この日はお正月前だからか?お刺身やなます、昆布巻きなどもあった。
広い館内、湯上りにぷらぷら立ち寄れるのが楽しい。
朝は7:00頃から、夜は7時までと結構長く開いてくれている。

 
温泉は5箇所(うち1つは貸切風呂)あり、湯治部の宿泊客も旅館部の温泉を自由に利用できる。
スキー場で冷えた身体を温めたくて、すぐに1回目の温泉へ。
このガラス窓の内側が一度入ってみたかった、深さ1.25mの立ち湯「白猿の湯」

「その昔、岩窟から出てきた一匹の白猿が、
カツラの木の根元から湧き出す泉で手足の傷を癒しているのを見た。
これが温泉の湧出であることを知り、一族が天然風呂として用いるようになった」
といういわれだそうだ。

ガラガラ、と引き戸をひくと階段、楕円形の湯船が目に飛び込んでくる。
ここは基本的に混浴だが、女性専用時間も設けられている。
熱めのお湯に静かに身を沈めると、圧力がかかって不思議と心地よい。
天井を見上げると建物3階分が吹き抜けになっていてとても広く、
身も心ものびやかになる空間だ。
足元からお湯がこんこんと沸いてくるのが、大地の恵みを感じる。

お湯は全て沸かしもせず、加水もしない源泉そのままの賭け流し、
ちょっと熱めのお湯。
部屋も廊下も寒く、すぐ身体が冷えるので、1日に何度でも入れる。
そこがまた、いい。
温泉ってお湯の質だけじゃなく、その土地の空気感や環境や気温、
景色や湿度も含め、全てを総合して五感で感じるもの。
東京近郊の温泉では絶対に味わえない自然の力を、ここでは感じるのでした。


 
(左:夕食   右:朝食)
食事は「食事なし」から「豪華版」まで色々選べる。
私たちのは標準タイプ。
こちらのお料理は地元岩手や秋田のものしか使用しない、というこだわりよう。
ご飯も地元農家の方が丹誠込めて作ったお米を使用している。
だから、というかどれをとっても美味しい!きちんと素材が生きた手作りの味なのだ。
量は少な目(私達には)でも内容は大満足。

旅館部は施設や部屋がきれいで、暖房設備も整っています。
その分料金も高いですが、秘湯気分を味わうなら断然「湯治部」お勧めです。
負け惜しみのようですが、キレイな宿ならどこにでもあるのです。
この自然の恵みを丸ごと感じるには、やはりこの「湯治部」でしょう。(旅館部特別室以外)
近代的、利便性・・・今の時代に当然のものがここには、ない。
でもその全てに執着しなかった結果、人の心を揺さぶるものだけが残った宿、
と言われる所以を、この湯治部から感じとることができました。

鉛温泉 藤三旅館



「なめとこ山は大きな山だ。淵沢川はなめとこ山から出て来る。
なめとこ山は一年のうち大ていの日はつめたい霧か雲を吸ったり吐いたりしている。
まわりもみんな青黒いなまこや海坊主のような山だ。」宮沢賢治




”モサゲネェ オ静カニナッス”
階段の踊場に置いてあった一枚のメッセージ。
秋の「裏岩手縦走」から私の頭の中に強く焼きついていた、
宮沢賢治の童話のイメージと共に歩いた岩手県の旅の記憶が蘇る。
賢治も幼少の頃、幾度か訪れたと言うこの宿で、
2009年、すべての旅が幕を降ろした。いい旅をさせてもらった一年だったな。


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翌朝、またバスに揺られ花巻へ。義母さんが待ってるから早く帰らなきゃ。

 
花巻では行きたかった「林風舎」に寄ってみたものの、年末で閉館中だった。
駅前にあった「どんぐりと山猫」のオブジェに見送られながら、
また新しい年も岩手の魅力、探しにくるからね、と手を振った。

「よろしい。しずかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、
ばかで、めちゃくちゃで、てんでなってなくて、あたまのつぶれたようなやつが、いちばんえらいのだ。」
宮沢賢治


やっぱり岩手は素敵なところです。


おしまい。



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8 コメント

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よいです~。 (ヒサ)
2010-01-09 18:34:35
cyu2さん、こんばんは。

鉛温泉、いいですねー。
「いい旅、◎気分」か何かで見て、
私もチェックしてたんですよー。
さすが、cyu2さん、セレクトが素晴らしいっ!

売店でお米も売ってるのかなぁ。
自炊だとお米炊けるんでしょうか?
お鍋で炊くのかなぁ?
私の場合は、食事頼んだ方が無難ですね。 

あっ、cyu2さんと一緒に行って、
作ってもらうっていうのはどうでしょう? 

>温泉ってお湯の質だけじゃなく、その土地の空気感や環境や気温、
景色や湿度も含め、全てを総合して五感で感じるもの。
東京近郊の温泉では絶対に味わえない自然の力を、ここでは感じるのでした。

>近代的、利便性・・・今の時代に当然のものがここには、ない。
でもその全てに執着しなかった結果、人の心を揺さぶるものだけが残った宿、
と言われる所以を、この湯治部から感じとることができました。

この部分、好きです。
cyu2さんの感性と表現力が凝縮されてる気がします。
とても素敵な文章です。 

宮沢賢治、
もう一度、読み返したくなる素敵なレポでした。
ありがとうございました。
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懐かしいです (リブル)
2010-01-09 20:33:16
こんにちは。

良い宿に泊まられましたね。鉛温泉、懐かしいです。もう随分昔に旅館部に泊まったことがあります。その時は秋で、真っ赤になったモミジが印象的でした。確かに湯治部に泊まって何泊かしたいと思った覚えがあります。

湯治部のお湯は立って入る深いお湯ですよね。
温泉臭がしっかりあって、それでいてとても柔らかいお湯で、今でも覚えています。

結構大きな旅館ですけど、自分が行った時はとても静かでお風呂に入ってもほとんど入っていませんでした。静養するのにとっても良い宿ですね。山の中なのに夕食にトコブシが出て、とてもびっくりした覚えがあります。

スキーも楽しめて良かったですね。
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儲けた気分^^ (勇気ある撤退)
2010-01-09 22:12:18
あけましておめでとうございます(すみません、今頃^^;)

この岩手の鉛温泉・・・なんとも風情のある温泉場なんですねぇ。
cyu2さんの文章がすばらしく、行った様な気分にさせてくれます。
岩手県は、大昔平泉に行ったくらいで、ほとんど経県値ゼロの県です。
でも、宮沢賢治といい遠野といい、死ぬまでには一度行っておきたい県です。

今年も貴ブログ、楽しみです^^

返信する
あけましておめでとうございます! (こた)
2010-01-10 23:48:41
遅ればせながら・・・あけましておめでとうございます。
ほぼ毎日家にいるくせにすっかりパソコンからは遠ざかってました・・・

cyu2さんはやっぱり精力的にあちこち入ってますね~。
雪だらけですね。
僕はまだこの冬は雪をみてないです。
寒そうで・・・これが年をとるということでしょうか。
まあでも今年もぼちぼちやっていきますので
よろしくお願いします!
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ヒサさん (cyu2)
2010-01-11 12:08:30
こんにちはー。
お返事遅くなってスイマセン。
お米?売ってたかなぁ?多分売っていると思いますが、
私たちも食事付を頼み、酒のつまみ程度を自分達で自炊する程度でした。
自炊場も底冷えのする寒さでしたし。
浴衣でウロウロしてたら、5分で大変です(笑)

>代的、利便性・・・今の時代に当然のものがここには、ない。
でもその全てに執着しなかった結果、人の心を揺さぶるものだけが残った宿、
いや~スイマセン、この部分は宿の紹介分をそのまま使わせてもらったので、私は文章力なんてないですからー

でも、とても大事なことだと思います。
去年行った尾道も、日本全国どこへ行っても同じ風景の町並になってしまうことはとても悲しいこと、
だから、尾道の良さは・・・
結局、そこなんですよねー。
私ももう数年前から、東京に新しいスポットができても興味ないですもん。
どこへ行っても同じテナントで、扱うものも一緒で。
だからこの「心揺さぶるもの」を探しに行っちゃうんですよね
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リブルさん (cyu2)
2010-01-11 12:13:38
こんにちは。お返事遅くなりスイマセン。
さすが!そうでしたか!旅館部泊まられたことあるのですね!
スイマセン~、私も思いいれの強いレポで(笑)
自分の故郷じゃないのに、なんだか岩手県を応援したくなってしまい・・・聞き流しておいて下さい(汗)
リブルさんの入った温泉、日本地図にしてみたらすごそうです!

室内の外のお湯に入った時は硫黄臭があったんです。
源泉がいくつかあるんですかね?
最近ホントに温泉らしい温泉が好みです。
一生のうちに、あといくつ入れるかなぁ~。
今年もお互い、イイお湯にたくさん入れるといいですね♪

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勇気ある撤退さん (cyu2)
2010-01-11 12:17:07
こちらこそご挨拶遅れました!
今年もよろしくお願い致します!!

いえいえ、文章は一部引用しているだけですからー。
でも行った気になってくださって嬉しいです!
今年も「行った気になるレポ」目指して頑張ります!

という私も平泉すら行ったことないんですよー、岩手県。
遠野もないです(涙)
後何年、帰省できるかわからないので、少しずつ責めていかねばデスね!
といいながら、短い連休しか取れないので、
あっちをたてればこっちが・・・うまくいかないモノです。

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こたさん (cyu2)
2010-01-11 12:22:17
いや~嬉しい出来事は人事ながら、見ているだけのこちらでも嬉しいものですね♪
おめでとうございます!!

>寒そうで・・・これが年をとるということでしょうか。

違うと思いますよー、正直な感想ですよ(笑)
精力的に、というのは多分こたさんも年を取れば解ると思いますが、
若いうちは定年くらいの将来なんて遠い未来なきがして、
特に毎日、意識もせず気持ちのまま過ごせるものですが、
先がもうすぐそこに見えてくると、
急に時間が惜しくなるのです。
だから精力的になってしまうんですね~自然に。
だからそれは逆に若い証拠ですヨ。

こちらこそ今年もよろしくお願い致します

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