ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

弘南鉄道大鰐線の廃止を求める声が

2024年03月04日 20時30分00秒 | 国際・政治

 たまたま、仕事の合間にYouTubeで鐵坊主さんの「暇坊主チャンネル」を見て知ったことです。

 このブログでも何度か取り上げた弘南鉄道大鰐線について、弘前市議会で廃止を求める発言が相次いだようです。東奥日報社が2024年2月29日付で「大鰐線廃止求める発言相次ぐ/弘前市議会」(https://www.toonippo.co.jp/articles/-/1732562)として報じていますが、Web会員でないと全文を読めないため、Yahoo! Japan Newsに同日付で掲載された「『弘南線(弘前-黒石)に集中すべき』弘南鉄道大鰐線廃止求める発言相次ぐ 青森・弘前市議会」(https://news.yahoo.co.jp/articles/80d5b4b29c0eba8db53c0a57aa65bebc0ada2945)を参照しましょう。

 別記事で記したように、大鰐線は当初から弘南鉄道の路線であった訳ではなく、弘前電気鉄道という会社が1952年に開業させた路線であり、1960年代には苦境に陥り、廃止の論議が生じました。1970年に弘前電気鉄道は解散し、大鰐線は弘南鉄道に引き継がれ、現在に至っています。詳しいことはわかりませんが、弘南線が黒字を計上した年が多かったのに対し、大鰐線は赤字を計上し続けていたようで、内部補助で存続してきたようなものでした。しかし、弘南線も2017年度に赤字に転落しています。それよりも前、2013年6月下旬に弘南鉄道社長が大鰐線の廃止を表明しました。これは同月の株主総会における議題にあげられていなかったことでしたが、当時から大鰐線の廃止が意識されていたことには注意が必要です。

 さて、弘前市議会に話を移しましょう。2月28日の一般質問で、弘南鉄道が大鰐線を廃止して弘南線の維持に経営資源を集中すべきであるという趣旨の発言が相次ぎました。これは、おそらく、2月27日に弘南鉄道が青森県に対して追加財政支援を要請したことを受けたものと思われます。

 御記憶の方も多いと思われますが、2023年8月に大鰐線で脱線事故が発生し、9月25日には線路の不具合を理由とする弘南線、大鰐線両線の運休が始まりました。弘南線の運休は11月6日まで続きました。一方、大鰐線の津軽大沢駅から中央弘前駅までの区間で運転が再開されたのは11月20日、同線の全線での運転再開は12月8日でした。既にこの頃には大鰐線の存廃問題もかなり議論されてきていたようで、朝日新聞社2023年11月7日付「1カ月以上の全面運休、弘南鉄道が運転再開も課題は山積」(https://www.asahi.com/articles/ASRC67SQXRC6ULUC00R.html)には大鰐線の赤字額が約9700万円であり、「沿線5市町村でつくる活性化支援協議会は、路線存続のため21年度から5年間で同社に約5億1100万円の財政支援をしている。だが、26年度以降も継続するかは、今年度の経営状況などを踏まえ、来春から検討するとしている」、「弘前市の桜田宏市長は10月の定例会見で、整備コストが比較的安いライトレールも例に挙げ、『あらゆる可能性を視野に議論が必要だ』と話した」と書かれています。

 市議会議員の発言には「安全管理体制が危機的状況だ」、「公共交通機関の責務を果たせるだけの体力や組織力があるのか。2路線両方は無理で、選択と集中が必要ではないか」というものがあったようです。一方、市長は、2024年度中に大鰐線の存廃に関する判断が行われることを踏まえて「同社の改善状況を注視し、市民の声を平等に拾い上げた上で、市民の足がどうあるべきか沿線自治体などと協議を重ねたい」、「市民の交通手段である公共交通をどうするのか、という問題だ。今あるものを生かすのか、代替手段があるのか。実現可能性も含めた深い議論が必要だ」などと発言しました。また、これは市議会においてではなく、取材に対しての発言であるようですが、市長は大鰐線の廃線の影響が大きいとも述べたようです。2023年に弘前市民の4000人を対象としたアンケートで、仮に大鰐線が廃止されると高齢者の移動手段がなくなるという回答が87%に達したことが理由となっています。また、大鰐線には弘高下、弘前学院大前、聖愛中高前、義塾高校前といった駅があることからすれば、通学のための手段も問題となるでしょう。のと鉄道能登線が廃止されてバス転換されたことで高校生の通学などに悪影響が出たことも想起しておく必要はあります。

 とは言え、大鰐線の廃止は現実的に最も大きな選択肢であると思われます。この路線は、起点の大鰐駅から義塾高校前駅までJR奥羽本線と完全に並行しており、義塾高校前駅から中央弘前駅まではJR奥羽本線から少し離れた所を走っているものの、並行路線と言えます。また、終点の弘前中央駅は大鰐線のみの駅であり、弘南線の起点でもある弘前駅から1キロメートル以上離れています。弘南鉄道の路線となる前に廃止の議論が出ており、しかもその原因の一つが弘南バスとの競争に敗れたことという歴史を考えると、存続してきたことが一つの驚異とも言えます。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 和歌山県高野町で法定外税の... | トップ | 非常に気になる »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

国際・政治」カテゴリの最新記事