https://news.yahoo.co.jp/articles/aa8a45e8a4d201543093e3ca99b308b2871ec349 3/28(月) 7:30 クーリエ・ジャポン
さかのぼること4年前。元看護師のラドンダ・ヴォートは、患者に投与するための鎮静剤を「自動処方薬調剤システム」から取り出そうとしていた。鎮静剤の「Versed(ヴァースド)」をコンピュータ端末で選択しようとしていたが、誤って強力な筋弛緩剤である「Vecuronium(ベクロニウム)」を選んでしまった。
これに気づかず、筋弛緩剤を投与してしまったところ、患者(75)は呼吸停止に。脳死状態に陥り、まもなく死亡した。
こうした医療過誤が起きた場合、通常は「委員会と民事裁判所によって処理される」と、米メディア「NPR」は述べている。ところが、このケースは民事ではなく、刑事訴訟として扱われる異例の事態に発展してしまった。
この元看護師は、即刻解雇され、看護師免許を剥奪された。そして現在、薬を取り違えてしまった罪ではなく、「患者を殺害した容疑」で裁判にかけられていた。
具体的に問われているのは「障害のある成人を意図的に殺害もしくは虐待した罪」だが、もし殺人罪で有罪判決を受けた場合、最大12年間の懲役に直面する可能性があると報じられていた。
なぜ、ひとりの看護師がこれほど大きな罪に問われているのか。病院に非はなかったのだろうか──。
「NPR」に寄れば、このような医療過誤を「犯罪」とする前例はこれまでなかった。そのため、「恐ろしい前例ができてしまうのではないか」と、全米中の看護師たちがこの裁判を見守っていた。そんな裁判の評決がついに出た。
彼女は、過失致死罪で有罪となった。「殺人」の罪には問われなかったものの、「過失犯」で3-6年、また「過失致死」で1-2年の懲役の評決に直面している。
事件の経緯
報告書によれば、事件の経緯はこうである。
まず前提として、多くの病院で、看護師らは薬を取り出す際に、手動ではなく「自動処方薬調剤システム」を使っている。彼女は鎮静剤の「Versed」を取り出すために、自動調剤システムの検索機能に「VE」と入力した。だが、この検索ではヒットしなかった。なぜなら、この薬品の一般名は「Midazolam(ミダゾラム)」であり、その名で登録されていたからだ。
この時点で、もし彼女が「ミダゾラム」で再検索していれば薬の取り違えは防げたかもしれない。しかし、彼女はその方法に気づかず、代わりに、次の行動に出た。
彼女は「検索範囲の制限を解除」し、再び「VE」と入力。こうして機械が差し出してきたのが、強力な筋弛緩剤(麻痺剤)である「Vecuronium(ベクロニウム)」だった。彼女はまったく異なる薬剤であることに気づかずにこれを選択し、患者の病室へと運んでしまったのだ。
「病院は看護師を身代わりにして使い捨てた」
検察官は、この元看護師が薬を選択し、患者に投与するまでの過程で、「少なくとも5つの警告を無視、もしくは見逃した」と指摘している。
「Vecuronium(ベクロニウム)」を選択する際に、自動調剤システムの画面には「警告のポップアップが出ていたはずだ」。また、彼女が取り出した「ベクロニウム」は粉末だったが、取り出そうとしていた「ミダゾラム」は液状。彼女は「この違いにも気づいていない」。
瓶にも「警告:麻痺剤」とのシールが貼ってあったはず。液体を注射器へ移す際に、なぜ気づかなかったのかと疑問視されており、彼女は「意図的にこれらの警告を見逃したのではないか」と疑われている。
ただし、検察側が主張する殺人容疑のもっとも大きな根拠となっているのは、彼女がシステムの「検索範囲の制限を解除したこと」である。強い薬を取り出すためにそうしたのではないか、と疑う。
彼女は「解除したこと」を認めている。
だが、この「検索範囲の制限解除」は、「医療従事者の間では、ごく普通に行われていたことだ」と主張する。「当時は、解除せずに必要な薬品を取り出すことは、ほとんど不可能だった」と。
彼女の主張に同意を示す医療従事者は少なくない。このシステムに詳しい医療専門家も、「当時は自動薬剤検索に時間がかかってしまう問題があり、検索制限の解除は多くの病院で日常的に行われていた」と、「NPR」に語った。
検索に時間がかかってしまうことは当時、病院側も認識していた。そのため、「もし検索でヒットしなければ、検索制限を解除するようにと、病院側から指示があった」と、彼女は述べていた。
よって、「機械のテクニカルな問題、そして、病院内で行われていたそれへの対処方法に欠陥があったこと」、この二つにより薬を取り違えるミスが起きたのだと、彼女は主張していた。
今月中旬の公判で、検察官は事件が起こったヴァンダービルト大学医療センターに「重い責任がある」と述べた。しかし、起訴されたのは、同病院ではなく、元看護師のヴォートのみ。これに対し、患者の死亡をさせた「薬の取り違え」に対する罪、および刑事責任を、たったひとりの看護師に負わせる是非が問われていた。
彼女の弁護士は、法廷でこう述べた。
「病院側は自分たちの権威と評判を守るために、ひとりの看護師を身代わりにして使い捨てた」
この事件は、全米の看護師にとってまさに「悪夢」。パンデミックでは戦場の最前線に立たされ、労力に見合わぬ低賃金にもかかわらず、ミスを犯せば殺人罪を問われる可能性まで出てきたとあって心中穏やかでない。
今回、起こってしまった医療過誤を正直に報告すると犯罪扱いになってしまうという前例ができたことについて、「(アメリカ)のヘルスケアの現場は永遠に変わってしまった」との声も。アメリカ看護師協会も「危険な前例だ」と述べ、医療現場に今後、悪影響が広がる可能性を示唆している。
感想;
看護師がミスをしないという前提での裁判のようです。
誰でもミスはします。
健康に影響する場合は、ミスを防止する仕組みが必須です。
今回は病院側に重大な責任があります。
つまり、以下の対応をしていません。
1)薬は看護師ではなく、薬をよく知っている薬剤師が看護師に提供する
2)ダブルチェック(薬剤監査)を行う
3)システムに注意すべき薬剤が選択された時は、アラートを発する
日本でもよく似た事故が起き、看護師が刑を受けました。
京都大学付属病院での、滅菌精製水を間違ってエタノールを選択し、患者さんが亡くなりました。
裁判長は、
「容器の表示をきちんと見ていたら防ぐことが出来た」
として看護師に責任を負わせました。
病院には管理責任を。
滅菌精製水とエタノールが隣に置いてあった。
⇒類似のものは離して置くことがミス防止の基本
看護師が看護副師長に口頭で尋ねたら、看護副師長は現物を見ずに「それだ」と答えた。
⇒現物を確認するのが基本
数人の看護師が同じミスをした。
⇒現物の表示を見ることの難しさと思い込みによるミス誘発
滅菌精製水とエタノールはよく似たラベルだった。
⇒エタノールと大きく書くなどの工夫が必要だった。
人はミスをしないとの前提で仕組みを作ったり、人を罰しないのことです。
なぜその人がミスをしたか。
ミスをする背景の問題があったからです。
その背景を追究し改善しないとまたミスが起きます。
m-SHELLモデルで追究します。
もう少し検察や裁判官がミスについて学んで欲しいものです。
失敗から学ぶ
さかのぼること4年前。元看護師のラドンダ・ヴォートは、患者に投与するための鎮静剤を「自動処方薬調剤システム」から取り出そうとしていた。鎮静剤の「Versed(ヴァースド)」をコンピュータ端末で選択しようとしていたが、誤って強力な筋弛緩剤である「Vecuronium(ベクロニウム)」を選んでしまった。
これに気づかず、筋弛緩剤を投与してしまったところ、患者(75)は呼吸停止に。脳死状態に陥り、まもなく死亡した。
こうした医療過誤が起きた場合、通常は「委員会と民事裁判所によって処理される」と、米メディア「NPR」は述べている。ところが、このケースは民事ではなく、刑事訴訟として扱われる異例の事態に発展してしまった。
この元看護師は、即刻解雇され、看護師免許を剥奪された。そして現在、薬を取り違えてしまった罪ではなく、「患者を殺害した容疑」で裁判にかけられていた。
具体的に問われているのは「障害のある成人を意図的に殺害もしくは虐待した罪」だが、もし殺人罪で有罪判決を受けた場合、最大12年間の懲役に直面する可能性があると報じられていた。
なぜ、ひとりの看護師がこれほど大きな罪に問われているのか。病院に非はなかったのだろうか──。
「NPR」に寄れば、このような医療過誤を「犯罪」とする前例はこれまでなかった。そのため、「恐ろしい前例ができてしまうのではないか」と、全米中の看護師たちがこの裁判を見守っていた。そんな裁判の評決がついに出た。
彼女は、過失致死罪で有罪となった。「殺人」の罪には問われなかったものの、「過失犯」で3-6年、また「過失致死」で1-2年の懲役の評決に直面している。
事件の経緯
報告書によれば、事件の経緯はこうである。
まず前提として、多くの病院で、看護師らは薬を取り出す際に、手動ではなく「自動処方薬調剤システム」を使っている。彼女は鎮静剤の「Versed」を取り出すために、自動調剤システムの検索機能に「VE」と入力した。だが、この検索ではヒットしなかった。なぜなら、この薬品の一般名は「Midazolam(ミダゾラム)」であり、その名で登録されていたからだ。
この時点で、もし彼女が「ミダゾラム」で再検索していれば薬の取り違えは防げたかもしれない。しかし、彼女はその方法に気づかず、代わりに、次の行動に出た。
彼女は「検索範囲の制限を解除」し、再び「VE」と入力。こうして機械が差し出してきたのが、強力な筋弛緩剤(麻痺剤)である「Vecuronium(ベクロニウム)」だった。彼女はまったく異なる薬剤であることに気づかずにこれを選択し、患者の病室へと運んでしまったのだ。
「病院は看護師を身代わりにして使い捨てた」
検察官は、この元看護師が薬を選択し、患者に投与するまでの過程で、「少なくとも5つの警告を無視、もしくは見逃した」と指摘している。
「Vecuronium(ベクロニウム)」を選択する際に、自動調剤システムの画面には「警告のポップアップが出ていたはずだ」。また、彼女が取り出した「ベクロニウム」は粉末だったが、取り出そうとしていた「ミダゾラム」は液状。彼女は「この違いにも気づいていない」。
瓶にも「警告:麻痺剤」とのシールが貼ってあったはず。液体を注射器へ移す際に、なぜ気づかなかったのかと疑問視されており、彼女は「意図的にこれらの警告を見逃したのではないか」と疑われている。
ただし、検察側が主張する殺人容疑のもっとも大きな根拠となっているのは、彼女がシステムの「検索範囲の制限を解除したこと」である。強い薬を取り出すためにそうしたのではないか、と疑う。
彼女は「解除したこと」を認めている。
だが、この「検索範囲の制限解除」は、「医療従事者の間では、ごく普通に行われていたことだ」と主張する。「当時は、解除せずに必要な薬品を取り出すことは、ほとんど不可能だった」と。
彼女の主張に同意を示す医療従事者は少なくない。このシステムに詳しい医療専門家も、「当時は自動薬剤検索に時間がかかってしまう問題があり、検索制限の解除は多くの病院で日常的に行われていた」と、「NPR」に語った。
検索に時間がかかってしまうことは当時、病院側も認識していた。そのため、「もし検索でヒットしなければ、検索制限を解除するようにと、病院側から指示があった」と、彼女は述べていた。
よって、「機械のテクニカルな問題、そして、病院内で行われていたそれへの対処方法に欠陥があったこと」、この二つにより薬を取り違えるミスが起きたのだと、彼女は主張していた。
今月中旬の公判で、検察官は事件が起こったヴァンダービルト大学医療センターに「重い責任がある」と述べた。しかし、起訴されたのは、同病院ではなく、元看護師のヴォートのみ。これに対し、患者の死亡をさせた「薬の取り違え」に対する罪、および刑事責任を、たったひとりの看護師に負わせる是非が問われていた。
彼女の弁護士は、法廷でこう述べた。
「病院側は自分たちの権威と評判を守るために、ひとりの看護師を身代わりにして使い捨てた」
この事件は、全米の看護師にとってまさに「悪夢」。パンデミックでは戦場の最前線に立たされ、労力に見合わぬ低賃金にもかかわらず、ミスを犯せば殺人罪を問われる可能性まで出てきたとあって心中穏やかでない。
今回、起こってしまった医療過誤を正直に報告すると犯罪扱いになってしまうという前例ができたことについて、「(アメリカ)のヘルスケアの現場は永遠に変わってしまった」との声も。アメリカ看護師協会も「危険な前例だ」と述べ、医療現場に今後、悪影響が広がる可能性を示唆している。
感想;
看護師がミスをしないという前提での裁判のようです。
誰でもミスはします。
健康に影響する場合は、ミスを防止する仕組みが必須です。
今回は病院側に重大な責任があります。
つまり、以下の対応をしていません。
1)薬は看護師ではなく、薬をよく知っている薬剤師が看護師に提供する
2)ダブルチェック(薬剤監査)を行う
3)システムに注意すべき薬剤が選択された時は、アラートを発する
日本でもよく似た事故が起き、看護師が刑を受けました。
京都大学付属病院での、滅菌精製水を間違ってエタノールを選択し、患者さんが亡くなりました。
裁判長は、
「容器の表示をきちんと見ていたら防ぐことが出来た」
として看護師に責任を負わせました。
病院には管理責任を。
滅菌精製水とエタノールが隣に置いてあった。
⇒類似のものは離して置くことがミス防止の基本
看護師が看護副師長に口頭で尋ねたら、看護副師長は現物を見ずに「それだ」と答えた。
⇒現物を確認するのが基本
数人の看護師が同じミスをした。
⇒現物の表示を見ることの難しさと思い込みによるミス誘発
滅菌精製水とエタノールはよく似たラベルだった。
⇒エタノールと大きく書くなどの工夫が必要だった。
人はミスをしないとの前提で仕組みを作ったり、人を罰しないのことです。
なぜその人がミスをしたか。
ミスをする背景の問題があったからです。
その背景を追究し改善しないとまたミスが起きます。
m-SHELLモデルで追究します。
もう少し検察や裁判官がミスについて学んで欲しいものです。
失敗から学ぶ
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