「第6回日独研究フォーラム」 講師 勝田茅生氏
ヴィクトール・フランクルの『夜と霧』はよく読まれているが、ロゴセラピーはあまり知られていない。
その理由は、ロゴセラピーが難しい。
今日はその基本を説明したい。
「満たされた人生」とは? 一緒に考えてみたい。
財産に恵まれて、社会的事業に成功、たくさんの知人を得て評価される、美貌で、それで満たされるのでしょうか?
貨幣価値や成績評価の量や価値で評価されるものでない。
評価されても、それで人柄がよいとは言えない。
また孤独で空虚な気持ちを持っている人が多い。
自分の空虚感を満たすためにアルコールに逃げる。
精神的な満足とつながらない。
「精神的に満足できる人生を送る」というのはどういうことなのでしょうか?
エゴの領域
エゴを超越する領域
エゴの領域は、心理次元と身体次元⇒二つを心身態とフランクルは呼んだ。
心身態は、私たちを守る働き。
危ないことは本能的に避ける。
得になることは得ようとする。
自分のエゴが満足する。
フランクルは心身態とは違う領域があると、それをフランクルは精神次元と名付けた。
他人も幸せにならないと自分も幸せにならない。
精神次元の中で大切な3つ
①「自己超越」
②「自己距離化」
③「意味の受信」
①「自己超越」
自分のエゴに反抗してこれを飛び越える力
フランクルの体験からその例を
1938年ドイツナチ軍がオーストリアに侵入
自分のクリニックを閉じるしかなかった。
ユダヤ人専用の病院で働き始めた。
フランクルも多くの人と同じように亡命を考えた。
申請したら許可が下りた。
しかし、自分が米国に行ったら、家族は強制収容所へ行かされる。
フランクルは医者だったので、家族は送られるのが猶予されていた。
フランクルはロゴセラピーを取るか両親を取るか迷った。
両親の死を看取りたいと思った。
ホロコーストで亡くなったユダヤ人は600万人と言われているが、フランクルのような自己超越で強制収容所へ行ったのは少なかったかと。
テレ―ジェンシュタットに両親と妻と一緒に入れられた。
辛い収容所生活の中にも必ず何かの「意味」があると信じようとした。
自分でもできる「課題」を見つけようとした。
新しい入所者に「生きる希望をなくさないで」と伝えた。
フランクルはその強い力を自分だけが持っていると思っていなかった。
皆がその力を持っている。それを生かした時に、精神的に満たされる。
心身態で満たされると精神次元で満たされるのは違う。
もう一つの例
マクシミリアン・コルベ神父 1893-1941 日本でも宣教経験がある。
ナチのやり方に反対する皆が強制収容所に入れられた。
逃げようとした10人が餓死刑になった。一人が「妻も子どももいる、助けてくれ」と。コルベ神父は妻も子どももいないからと身代わりを言って、認められた。
コルベ神父は毅然として他の餓死刑の人にも伝えた。皆で聖歌を歌ってしのいだ。
1週間後、コルベ神父を含めまだ4人生きていた。そこでナチスは生きている人に毒薬を注射して殺した。
コルベ神父は自ら手を差し出した。死顔は穏やかで輝いていた。
どんな人間にも「自己超越」の力が備わっている。
「精神的に満たされる」
自分の欲望を犠牲にして、他者のためになることを決意
②「自己距離化」
自分の状況から距離を空ける力
自分の感情から距離を空け、状況を客観的に見る力
フランクルは高校生の時から、フロイトのことを学んでいた。
精神分析による「解釈」の問題
無意識の層の中にある不愉快な思い出を呼び起こし、現在の問題と結びつけようとする試み
フランクルは、フロイトの考えを学ぶにつれ、過去の問題が今の状況に結びつく確証がない。
セラピストの主観性に左右される。
「過剰自己観察」の危険性を感じた。
不愉快な出来事、嫌な思い出などが頭の中に渦を巻き、そればかり考えて暮らすようになる。
そうしている内に当事者は不快なことばかり考えて暮らすようになる。
牛の反すうのように、過去の嫌なことを何度も考え症状が悪化する場合がある。
自分に傷を負わせて人を恨む。
深刻なノリローゼに発展することがある。
何年も精神分析を受けたいた患者がロゴセラピーに辿りついてようやく過去の嫌なことから離れたケースをエリザベス・ルーカス先生(フランクルの一番弟子)から何件も教えてくれた。
働ける人は、過酷な労務が待っていた。
未来の希望が持てない時、どうすれば気持ちを維持できるか考えた。
それが「自己距離化」
自分の感情から距離を空け、状況を客観的に見る力
フランクルは心理学の立ち場から自分を見ようとした。
自分が大きな講堂で、自分がこの体験を講演している姿をイメージした。
まさがそれが実現するとは想像できなかったと話した。
自己距離化の能力を高めることで、その状況を乗り越えることができる。
ウィーン市庁舎の3万人の前でフランクルは講演した。
私の父はテレーゼん、母はアウシュビッツのガス室で、兄はアウシュビッツの炭鉱で、妻は別の収容所で亡くなった。
でも、私には恨むという言葉が出ることは期待しないで欲しい。
ドイツ人の中にもユダヤ人を匿おうとした人がいた。
元ナチスの人が本当に反省したら交流を持つようにした。
③「意味の受信」
「意味」を軸にする生き方
「意味」どこで見つけることが出来るか?
「意味器官」のアンテナが精神次元の中に生まれながらに備わっている。
別の言葉で「良心」
「良心」のアンテナを通じて
「今あなたはどうするのですか」と問われている。
どんな状況に置かれているかによって「状況の意味」が変わる。
それによって「意味の要請」もそれぞれに変わる。
同じ状況の中に複数の人がいれば、そこにいる人それぞれがそれぞれに異なる「状況の意味」をキャッチする。
「価値のある意味を実現しようとのミッション」
本当に「良心」のアンテナで受信できれば、誰もが「それはいい」と。
そのためには、エゴを超えて受け取ることが必要。
質疑応答;
Q 自己超越、自己距離化の力に宗教が役立つのではないか?
カトリックの神父が自己超越できていた。
A 聖職者が皆、上手く自己超越できるかどうか。逆に世の中にこれだけ貧しい人が多いが、あまりその人たちのことを気遣わない聖職者を見かける。
聖職者が自己超越できるとは限らない。やはり訓練する必要がある。
宗教は何かの対象に向かって、生きようとする。それが宗教的な生き方。
ロゴセラピーにはその対象がない。それぞれが自分の置きたいものを対象に置く。
透明のままでよい。
Q カウンセラーをしているが、過去のネガティブな虐めや虐待を扱うのではなく、今何をするかを考えるのか。
学生が過去の虐めを離して涙を流す。それを聴いて共感する。その人に「ミッションを考えましょう」と言っても難しい。二刀流が必要だと思うが。
A クライエントの中には語りたい人もいる。問題がはっきりしている場合はそれを聴くのは良いが、それだけでは過剰観察になってしまう。身体のある部位を治療しても同時にその人の免疫力を高める。生きる力を高める必要もある。
過去だけにかかりきりになっていると、危険性がある。
岩礁の例が良い。セラピーに来る人は潮が引いている。
どうにかして潮を高めることも考える。
柔軟性を持って、相手の状況に応じる。
Q 医師でロゴセラピーを10年学んできたが、自己超越、自己距離化は普通の人間はできない。フランクルの中で、宗教、哲学、心理学を勉強して来られたかと。フランクルにとって何が大きいのか。
今フランクルが生きていたらどう言っただろうか?
A どれもだけど、どれが一番とは言えない。頭で考えたものではなく、もっと温かいもの。人間に元々備わっているという信頼があった。3つを超えるものがロゴセラピーを創ったと思う。
世界情勢を不安に思っている。
やりたいと思ってもできない。できるのはなんだろうか?
先ずは耳を澄ますこと。そのために食べるものも飲むものもない人が多くいる。
私は何ができるか。
困っている人に何ができるだろうか。
知らないでいること自体がエゴのレベルにいる。
自分から飛び込む積極性が必要ではないか。
Q 良心のアンテナ不安定、それを維持するには?
人間には誰にも備わっていると、私は人はいつか裏切ると思うが、どうしてフランクルは無限の信頼を持てたのか?
A 自分のアンテナを自分で磨くしかない。立ち止まって考える習慣を持つ。
自分で考え訓練していくしかない。
裏切る人がいても、私自身は裏切らない人間になるかどうかが大切。
Q NHKEテレの「こころの時代」のフランクル6回を録画して何度も見ている。ロゴセラピーについてもっと学びたい。ロゴセラピーをどうやって学びを深めていくか?
A 日本ロゴセラピーのHP見ていただければ、いろいろな機会がある。
Q 心理と身体を超える
特攻、イスラムのために自爆、オウム真理教イニシエーション
自己超越には危ない点がある。
A どんな時代でも、誰にとっても価値がある。
それぞれはその人たちだけの意味であったのが問題。
普遍的というのは太古の昔から。客観的価値
ご質問の例は主観的な意味で普遍的でない。
Q 高校生だが、私の周りには自分のことだけでいっぱい。そう言う子にはロゴセラピーの意味、勉強より大切かと、気付かせてあげたい。
A それはなかなか難しい。学校から帰ったら塾、良い大学、良い会社と。まるで刑務所にいるよう。
子どもたちの時間のなさ。ドイツは午前中で学校が終わる。
働く人も朝早くから夜遅くまで。
誰もがそれを変えようとしたいと願っているがなかなかできない。
もっと大切なものがある。
それをあなたに考えて欲しい。
皆、狭い主観的な意味に囚われている。
感想;
パワーポイントが言葉よりも画像を活用され、時間をかけられたと思いました。
その画像からのイメージも理解を助けました。
話だけでなく、実際の例でもって説明されたので理解しやすかったです。
最後のスライドが、勝田茅生氏からのメッセージだと思いました。
ロゴセラピー関連の本を読み、それをHP(ロゴセラピー)に挙げています。
自分のために行っています。
それが他の人のためにもなると嬉しいです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます