今ドラマでは宗治の自決が和睦への楔(くさび)となっていた
しかし、その必然性や意義については多面的で複雑な絡みがあった
Ⅰ信長の急死がもたらした状況の変化
【秀吉サイド】
秀吉は明智を撃つのが最優先となり、中国遠征を早く終結しなければならなくなった⇒和睦を急ぐ
信長がいなくなったので、勝利の戦果としての宗治の首の必要性は低くなった
【毛利サイド】
秀吉軍は毛利と明智の挟み撃ち状態になり、大攻勢のチャンス(実際は信長の死を察知していない)
Ⅱ官兵衛・恵瓊の密約
【秀吉サイド・官兵衛】
和睦を成立させるため、毛利の本領安堵を約束する譲歩案を提示
宗治についてまで譲歩するのは、毛利側に異変を察知されてしまう
和睦を成立させるため、恵瓊にだけは信長の死を知らせ、協力を依頼
【毛利サイド・恵瓊】
本能寺の変により、和睦を結ぶ必要はかなり低下した
秀吉を叩くチャンスでさえあるが、恵瓊は秀吉や官兵衛を買っており、できれば戦いたくない
勝利したとしても、かなりの痛手を負うだろう
それよりは、秀吉(官兵衛)と手を組んだほうが得策である
そういうわけで、官兵衛と恵瓊が意気投合
うん、ここまでは納得。
ところが、
「…して、和議を進めるに当たって、高松城の始末はどうする?」
「今一度、織田に寝返るよう、説き伏せるしかありません」
「うむ、そうと決まれば、こうしてはおれぬ。善は急げじゃ!」
えっ?簡単すぎるだろっ。
宗治の性格を考えると、寝返らずに自決を選ぶのは間違いない。
現状において、和睦を結ぶことが最優先であるが、宗治の首は必須ではないはず。
毛利が信長の死を知れば、和睦は成立しないどころか、秀吉軍を殲滅に動く可能性が大。
秀吉と毛利が手を組むことで合意しても、隆景の気持ちや宗治の有能さを思えば、恵瓊が信長の死の秘密保持を条件に宗治助命を要求するのが妥当な流れではないのだろうか?
確かに、「本領安堵」+「宗治助命」となれば、却って≪織田方に、何か異常事態が起こったのか?≫と疑われる危険性はあるが、恵瓊が「善は急げじゃ」と言うのは、急ぎ過ぎである。
恵瓊が「宗治助命」を要求して、
そこで、官兵衛が「毛利に疑われないため」という理由を挙げ、さらに、
「信長の死が毛利に知られてしまう可能性が低くはなく、それゆえ、宗治の死が必要である。
宗治自決という事実が、和睦を結ばせる大きな礎となるはず。
宗治が自決したにも拘わらず、和睦を蹴ってしまったのでは、まさに宗治は“無駄死に”なってしまう。
和睦を決定的なものにするには、宗治の死は必須なのだ」(実際、隆景は「宗治を無駄死にさせるのか?」という官兵衛に言葉が詰まっていた)
『宗治の死は和睦の担保』だったと、ここまで論じて欲しかった。
時系列に従って、こういった会話を見せてしまうのはネタバレになってしまうので、回想シーンにする必要はあると感じるが、本編はこの点に於いて恵瓊の腰(宗治の運命)が軽すぎた。
Ⅲ隆景、恵瓊、官兵衛、三者会談
宗治を見捨てるのか?と問う隆景に対し
恵瓊「宗治の切腹によって、城兵は救われ、和睦も成る。宗治も承知している」と説得。
隆景は恵瓊の言葉に思案に沈むが、和睦の条件が良いことを訝しがる。そこへ、官兵衛が登場し、無益な戦を避けるためと説明、和睦の返答を迫る。
独断で即答はできないという隆景に、
官兵衛「すべては天下のため。宗治は惜しい男であるが、その命こそ織田と毛利両家の和の証となり、この乱世を終わらせるのです」と力説。
恵瓊も「宗治殿は、天下のためなら喜んで死ぬと言うておりました」とダメを押す。
隆景「…………天下のためか……。“乱世を終わらせる”…しかと相違ないな」
官兵衛「この命に代えましても、お約束します」
隆景「相わかった。官兵衛、お主を信じよう」
正論、最小限の(都合の良い)事実を駆使し、巧みに隆景の説得に成功。
官兵衛の言葉はかなりグレーだ。
Ⅳ人質交換の場、隆景、官兵衛を糾弾
毛利の旗を貸してくれという官兵衛の頼みに対し、
「毛利が織田に味方すると、明智に思わせるためか?
謀ったな官兵衛!」
この件(くだり)は、なかなか良かったが、“惜しむらくは視聴者に隆景が明智の使者により、信長の死を知ったこと”を明かさない方が、鮮やかだった。
官兵衛、「味方の利とならぬことを口にしなかっただけ」と開き直る。
追い打ちを掛ければ挟み撃ちになる、羽柴勢も進退窮まると毛利の優位を強調する隆景に対し、
「分からぬかっ!今天下に最も近いのは羽柴秀吉さま(である)!」
と大見得を切り、羽柴と戦うか、手を組んで乱世を終わらせるか、どちらが得策か、どちらを選ぶかを迫る。
前回記事でも述べたが、
隆景「“毛利は天下を望んではならぬ”…それが亡き父の遺訓だ
元より我らには版図を広げる野心はない。
羽柴殿と和議を結び本領が安堵された今、大義なき者に付き世を乱すことは、毛利にとって何の理もない。
行けっ! 一日も早く、明智を討て! わしはお主に懸ける」
かっこいいぞ!隆景。
①毛利の本領安堵を約束した官兵衛を信じた
②宗治の死を経たうえ、和睦が成立した。それを反故にはできない
③秀吉と戦うのは、毛利も打撃を受ける
④毛利の義を重んじる家訓
これらを考慮し、隆景の腹は決まっていたようだ。
吉川元春には②が有効だったようで、ドラマの意図としては①も重要か。
今話は、和睦周辺のそれぞれの思惑が絡み合ったコクのあるストーリーだったが、要らぬシーン(おねのシーン、長政と又兵衛の水飲み場?での奇跡の出会いなど)が多過ぎで、もっと、宗治の処遇に関する密約を掘り下げてほしかった。
しかし、その必然性や意義については多面的で複雑な絡みがあった
Ⅰ信長の急死がもたらした状況の変化
【秀吉サイド】
秀吉は明智を撃つのが最優先となり、中国遠征を早く終結しなければならなくなった⇒和睦を急ぐ
信長がいなくなったので、勝利の戦果としての宗治の首の必要性は低くなった
【毛利サイド】
秀吉軍は毛利と明智の挟み撃ち状態になり、大攻勢のチャンス(実際は信長の死を察知していない)
Ⅱ官兵衛・恵瓊の密約
【秀吉サイド・官兵衛】
和睦を成立させるため、毛利の本領安堵を約束する譲歩案を提示
宗治についてまで譲歩するのは、毛利側に異変を察知されてしまう
和睦を成立させるため、恵瓊にだけは信長の死を知らせ、協力を依頼
【毛利サイド・恵瓊】
本能寺の変により、和睦を結ぶ必要はかなり低下した
秀吉を叩くチャンスでさえあるが、恵瓊は秀吉や官兵衛を買っており、できれば戦いたくない
勝利したとしても、かなりの痛手を負うだろう
それよりは、秀吉(官兵衛)と手を組んだほうが得策である
そういうわけで、官兵衛と恵瓊が意気投合
うん、ここまでは納得。
ところが、
「…して、和議を進めるに当たって、高松城の始末はどうする?」
「今一度、織田に寝返るよう、説き伏せるしかありません」
「うむ、そうと決まれば、こうしてはおれぬ。善は急げじゃ!」
えっ?簡単すぎるだろっ。
宗治の性格を考えると、寝返らずに自決を選ぶのは間違いない。
現状において、和睦を結ぶことが最優先であるが、宗治の首は必須ではないはず。
毛利が信長の死を知れば、和睦は成立しないどころか、秀吉軍を殲滅に動く可能性が大。
秀吉と毛利が手を組むことで合意しても、隆景の気持ちや宗治の有能さを思えば、恵瓊が信長の死の秘密保持を条件に宗治助命を要求するのが妥当な流れではないのだろうか?
確かに、「本領安堵」+「宗治助命」となれば、却って≪織田方に、何か異常事態が起こったのか?≫と疑われる危険性はあるが、恵瓊が「善は急げじゃ」と言うのは、急ぎ過ぎである。
恵瓊が「宗治助命」を要求して、
そこで、官兵衛が「毛利に疑われないため」という理由を挙げ、さらに、
「信長の死が毛利に知られてしまう可能性が低くはなく、それゆえ、宗治の死が必要である。
宗治自決という事実が、和睦を結ばせる大きな礎となるはず。
宗治が自決したにも拘わらず、和睦を蹴ってしまったのでは、まさに宗治は“無駄死に”なってしまう。
和睦を決定的なものにするには、宗治の死は必須なのだ」(実際、隆景は「宗治を無駄死にさせるのか?」という官兵衛に言葉が詰まっていた)
『宗治の死は和睦の担保』だったと、ここまで論じて欲しかった。
時系列に従って、こういった会話を見せてしまうのはネタバレになってしまうので、回想シーンにする必要はあると感じるが、本編はこの点に於いて恵瓊の腰(宗治の運命)が軽すぎた。
Ⅲ隆景、恵瓊、官兵衛、三者会談
宗治を見捨てるのか?と問う隆景に対し
恵瓊「宗治の切腹によって、城兵は救われ、和睦も成る。宗治も承知している」と説得。
隆景は恵瓊の言葉に思案に沈むが、和睦の条件が良いことを訝しがる。そこへ、官兵衛が登場し、無益な戦を避けるためと説明、和睦の返答を迫る。
独断で即答はできないという隆景に、
官兵衛「すべては天下のため。宗治は惜しい男であるが、その命こそ織田と毛利両家の和の証となり、この乱世を終わらせるのです」と力説。
恵瓊も「宗治殿は、天下のためなら喜んで死ぬと言うておりました」とダメを押す。
隆景「…………天下のためか……。“乱世を終わらせる”…しかと相違ないな」
官兵衛「この命に代えましても、お約束します」
隆景「相わかった。官兵衛、お主を信じよう」
正論、最小限の(都合の良い)事実を駆使し、巧みに隆景の説得に成功。
官兵衛の言葉はかなりグレーだ。
Ⅳ人質交換の場、隆景、官兵衛を糾弾
毛利の旗を貸してくれという官兵衛の頼みに対し、
「毛利が織田に味方すると、明智に思わせるためか?
謀ったな官兵衛!」
この件(くだり)は、なかなか良かったが、“惜しむらくは視聴者に隆景が明智の使者により、信長の死を知ったこと”を明かさない方が、鮮やかだった。
官兵衛、「味方の利とならぬことを口にしなかっただけ」と開き直る。
追い打ちを掛ければ挟み撃ちになる、羽柴勢も進退窮まると毛利の優位を強調する隆景に対し、
「分からぬかっ!今天下に最も近いのは羽柴秀吉さま(である)!」
と大見得を切り、羽柴と戦うか、手を組んで乱世を終わらせるか、どちらが得策か、どちらを選ぶかを迫る。
前回記事でも述べたが、
隆景「“毛利は天下を望んではならぬ”…それが亡き父の遺訓だ
元より我らには版図を広げる野心はない。
羽柴殿と和議を結び本領が安堵された今、大義なき者に付き世を乱すことは、毛利にとって何の理もない。
行けっ! 一日も早く、明智を討て! わしはお主に懸ける」
かっこいいぞ!隆景。
①毛利の本領安堵を約束した官兵衛を信じた
②宗治の死を経たうえ、和睦が成立した。それを反故にはできない
③秀吉と戦うのは、毛利も打撃を受ける
④毛利の義を重んじる家訓
これらを考慮し、隆景の腹は決まっていたようだ。
吉川元春には②が有効だったようで、ドラマの意図としては①も重要か。
今話は、和睦周辺のそれぞれの思惑が絡み合ったコクのあるストーリーだったが、要らぬシーン(おねのシーン、長政と又兵衛の水飲み場?での奇跡の出会いなど)が多過ぎで、もっと、宗治の処遇に関する密約を掘り下げてほしかった。