あかざりし そでのなかにや いりにけむ わがたましひの なきここちする
あかざりし 袖の中にや 入りにけむ わが魂の なき心地する
陸奥
いくら語り合っても満ち足りることのないあなたの袖の中に入ってしまったのでしょうか。わたしの魂がなくなってしまったような心地がします。
詞書には「女ともだちと物語して、別れてのちにつかはしける」とあります。初句の「あかざりし」は「飽かざりし」で、満ち足りることがない意。夜通し語り合い、それでも語りつくすことのないまま朝が来て別れたが、それでもまだ名残惜しくて魂が抜け落ちたような思いがするという歌。それだけ聞くと男性から女性への歌かと見まがいますが、作者の陸奥(みちのく)は石見権守橘葛直の娘とされる人物。古今集への入集はこの一首のみです。