漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 483

2024-08-11 05:32:34 | 貫之集

稲刈りほせる

かりてほす やまだのいねの そでひちて うゑしさなへと みえずもあるかな

刈りてほす 山田の稲の 袖ひちて 植ゑし早苗と 見えずもあるかな

 

稲を刈ってほす

刈って干す山田の稲を見ると、これが袖を濡らして植えた早苗だったとはとても見えない変わりようであったよ。

 

 第五句を「みえもするかな」としている写本もあるようです。そちらですと、「あのときの早苗とわかる」の意になりますが、「見えずもあるかな」の方が、時の経過とそれによる稲の成長への驚きが表現されて、詠み手の感動がより伝わるように思えますね。
 この歌は、新古今和歌集(巻第五「秋下」 第460番)に入集しています。


貫之集 482

2024-08-10 04:32:36 | 貫之集

残りの菊

あきさける きくにはあれや かみなづき しぐれぞはなの いろはそめける

秋咲ける 菊にはあれや 神無月 時雨ぞ花の 色はそめける

 

残りの菊

秋に咲く菊であるからもう盛りは過ぎているのであろうが、十月の時雨が残菊の色を美しく染めているよ。

 

 「残菊」は晩秋の季語ですが、すでに十月に入ってなお咲き残る菊を詠んだものですね。


貫之集 481

2024-08-09 05:47:28 | 貫之集

九月暮るる日

くさもきも もみぢちりぬと みるまでに あきのくれぬる けふはきにけり

草も木も 紅葉散りぬと 見るまでに 秋の暮れぬる 今日はきにけり

 

九月が終わる日

草も木も紅葉してすっかり散ってしまったのを見て、秋の終わりを感じる今日という日になってしまったよ。

 

 480 に続いて秋の終わりの歌。


貫之集 480

2024-08-08 04:29:06 | 貫之集

野の花見たる

おくしもや はなのいろごとに そめわきて あきのくれとは ひとにみすらむ

おく霜や 花の色ごとに そめわきて 秋の暮れとは 人に見すらむ

 

野の花を見る

おく霜がそれぞれの花を染め分けて、暮れて行く秋の美しさを人に見せているのであろう。


貫之集 479

2024-08-07 06:54:12 | 貫之集

九月九日

みなひとの おいをとどむと いふきくは ももとせをやる はなにざりける

みな人の 老いをとどむと いふ菊は 百年をやる 花にざりける

 

九月九日

誰の老いをも止めるといわれる菊は、百年の長い期間も生き続ける花であるよ。

 

 菊には不老長寿の効があるとされることを踏まえての詠歌。貫之集にもたびたび出てきますね。第四句「やる」はやりすごす意。