龍の尾亭<survivalではなくlive>版

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岩波文庫『ゲーデル 不完全性定理』林晋/八杉満利子訳・解説

2020年01月22日 16時03分40秒 | メディア日記
あの熱狂はなんだったんだろう、とふと思う事柄は、年齢を経るに従って増えていく。
ゲーデルもアラン・ソーカルもそんなことを思わせる名前だ。

今回のこの本は、有名なゲーデルの不完全性定理について、ヒルベルトの数学論にたいする応答、と捉えてその数学史的な意義を捉え直してくれている一冊だ。
素人にとってはとても有り難い本だった。
私が若い頃、ゲーデルが話題になったことがあって、あの時の印象は、極めてざっくりと
「数学的には証明できないことがあるって証明されたんだって!?」
というものだった。

この本によれば、それは、実際には20世紀前半のヒルベルトという有名な(名前だけは聞いたことがある)数学者の数学論についての応答であって、だから
ゲーデルの「不完全性定理」は、数学的(数学ってどこにあるんだ?という問いは哲学ってどこにあるんだ?という問いと似てるね)不完全性定理(整数論)ではなく、ヒルベルトが数学を基礎づけようとした営みとしての数学論が不完全性だと証明したにすぎない……という、当たり前と言えば当たり前の話。

しかも、ゲーデルはヒルベルトの(数学を形式系としてとらえる)考え方自体の不可能性を証明したつもりはなかったのだとも。

改めて興味が湧いてきた。
数式を理解しようとは思わないけれど、証明と逆説(パラドックス)の関係には惹かれる。

図書館から本を借りると「出会い」が多くなって嬉しい限りだ。数学基礎論の話なんて買っては読まないもんねえ、なかなか。
かつてゲーデルの「不完全性定理」に興味のあった人には圧倒的にお勧めです。



『なめらかな世界と、その敵』は圧倒的な傑作短編集だ。

2020年01月22日 15時42分03秒 | メディア日記
今四編目に突入したところだかが、もはや私の上半期ベストに推していいのではないか、というほどの傑作短編集だ。
一編一編の面白さはもちろんだし、それは読めばほぼ必ず(SF好きなら)分かると思う。

すごいのはこの作者、伴名練が、SF的描写を私たち自身の生きる「環境世界」として描き切っていてしかもその中に、よりよく生きる私たち自身の生を泳がせていくその筆致だ。

SFなんだから現実世界と異なる設定があって!その中で生きる人間を描くのは当たり前だろう、と言われてしまうだろう。
それを承知で反論するなら、その反論は事実の指摘に過ぎない、言っておこう。
ここにあるのは生きられてしまっている私たち自身の経験が賭けられている、その「価値」がSFとして描かれているのだと。それは決してどんな新奇な設定があるのか!というだけの話ではない。
ハードSFにはかつてそういうモノがあった。また他方、設定は空想的だが人間的葛藤の描写はスゴい、という作品も多くある。

そうじゃなくてね。

(腰巻き惹句にもそれに近いコトバが書かれてあるが)SFへの愛が全編に満ち溢れているのだ。

ああ!そう言ってしまうとマニア的な道具立てへのフェティッシュな「愛」を想像されてしまうなあ。

SFはそれ自体が「経験」であり得るのだ、と、この短編集を読むと納得できる。

未読の方は直ちに本屋さんへ。