monologue
夜明けに向けて
 



「BS世界のドキュメンタリー」の「ソウル・ディープ」シリーズの第2回はサム・クック を特集していた。番組は当時、カシアス・クレイと呼ばれていたボクサーが世界ヘビー級チャンピオン、ソニー・リストンを倒した時、盟友サム・クックをリングに呼んでともに喜びを分かち合うシーンから始まった。かれはのちにモハメッド・アリと改名して人種差別撤廃やベトナム戦争反対のために闘うことになる。サム・クックもこの頃から人種差別主義者達に標的と見なされるようになったと思われる。

サム・クックを射殺したハシエンダモーテル( Hacienda Motel)管理人バーサ・フランクリン(Bertha Franklin)に対する審問場面があった。ハシエンダモーテルの所在地はロサンジェルスのサウスセントラルと呼ばれる治安の悪い地区で信号待ちの間に窓ガラスを割られて強盗に遭うという噂があって高級車は近付くのを避ける地区である。普通そんなところに有名歌手サムクックが目立つ愛車フェラーリで行くとは考えられない。審問に臨んだバーサ・フランクリンは意外なことに黒人女性だった。白人女性が黒人の酔っぱらい青年に怯えて射殺したというわけではなかったのである。かの女は表情を隠すためか、濃いサングラスをかけて審問に臨んでいた。その模様を以下に記しておく。
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審問者
"How far was Mr.Cooke away from you when you started shooting?"
「あなたが撃ち始めた時、クック氏はどれほど離れていましたか」
フランクリン
"Not too far, the close range."「あまり離れていません。近距離よ」

審問者
"How many times did you fire with the pistol? "
「何度ピストルで撃ちましたか」

フランクリン
"Tree times."「三度」

審問者
"Did you know Mr. Cooke struck?"
「クック氏にあたったとあなたはわかりましたか」

フランクリン
"Yes, so, he said, Lady you shot me."
「はい、それでかれは、奥さん、あなたはぼくを撃った、と言いましたから」
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 こんな会話のあとバーサ・フランクリンは正当防衛が認められたのであった。それはわたしの目には、人権運動のリ-ダーとして台頭しつつある、サム・クックを他の場所で殺害した実行犯達が初めから正当防衛にする約束でバーサ・フランクリンを脅し金をつかませて行った狂言のような審問に見えた。この証言をしたバーサ・フランクリンが差別を受けてきた黒人女性のひとりであったことは残念だった。サム・クックに限らず黒人初の米国大統領オバマ大統領誕生までには多くの尊い犠牲の血が流れ闇に隠されたのだろう。
fumio

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