苦しみのない人生は、人生の名に値しない。
涙のない人生は、生きるに値しない。
笑顔がなくては生きていけない。
心子はそれらを一心に刻み込んでいったのである。
心子は、小さいけれども、深く重い足あとを、くっきりと、いくつも残していった。
この足あとを誓って消すことなく、いかにたどっていくか、それは僕が与っている務めだと思う。
我々の心神のテーマを見つめ、愛情というものがどんなに大切であるかを知り、実践していくことが、心子の命に応えることになるだろう。
僕の部屋には今、父母の遺影の隣に心子の笑顔が並んでいる。毎朝三人に手を合わせ、お祈りをするのが日課だ。
月に一度、心子の墓前へ会いに行くのも楽しみな習慣になっている。
今は穏やかに、平和に暮らしているだろう心子に、この本を捧げたい。
二〇〇四年十月
稲本 雅之