「境界に生きた心子」を読んでくれた、僕の高校の同級生の友人の人が、
拙著を書くに当たって僕には守秘義務があるのではないか、と言われたそうです。
でも、もちろん僕に守秘義務はないでしょう。
守秘義務というのは、業務上の立場で知り得たことを、その職業の倫理性からいって
他言してはいけない、というものです。
僕は業務で心子と付き合っていたわけではありません。
また、ノンフィクションを書く場合、誰かを批判したり、事実と異なることを書いたりするのでなければ、
当事者や関係者の許可を得る必要も、法的にはないはずです。
ただ道義的には、了承を得ておくほうがベター、ということはあるでしょう。
心子のお母さんに拙著を非常に喜んでもらえたのは、とても幸いなことでした。
でも、もし心子が存命だとすると、彼女にとっては非常に傷つく結果になるかもしれず、
その場合は僕は書けなかったかもしれません。
(書いても罪にはならないと思いますが。)
しかし、著作が仮に誰かの名誉を損ねるとしても、内容が事実であり、
社会に知らせるべき公益性が高ければ、出版は許されます。
(例えば、政治家の犯罪を追及することなど)
拙著の場合は、内容は全て事実のままです。
そして、境界例という、誰もが無関係ではない今日的な心の障害を、
興味本位ではなく、正しく伝えて理解してもらうという、公益性があると考えます。
従って拙著は、守秘義務や遺族の了承に関して問題はない、というよりも、
いつか誰かがきっと書かなければいけないテーマだと、僕は思っています。