過日用事で、心子が住んでいたマンションの近くへ行ったとき、彼女の部屋を外から見てきました。
今は別の人が住んでおり、何事もなかったかのようなたたずまいでした。
それから、マンションのすぐそばにある、心子が通っていた教会にも寄りました。
教会には、彼女が母として慕っていた牧師先生がいます。
アポもなしで失礼しましたが、お邪魔して彼女をしのびました。
心子のことを書いた拙著も、牧師先生にお渡ししました。
心子は僕と付き合っていた年のクリスマスに、教会で洗礼を受けたいと言っていました。
でも12月は教会も行事が詰まっていて、残念ながら先生は洗礼の予定を組めなかったのだと話されました。
心子は生前、先生が自分のことを少しも考えてくれてないと、僕の前でしたたか毒づきました。
信頼している人が応えてくれないと、心子はその揺れ戻しが倍増してしまうのです。
僕はそのとき、牧師先生にまだお会いしたことがありませんでしたが、
彼女の悪口雑言を聞いていると、てっきり先生がひどい人だと思えてしまったのでした。
でも先生のお話を伺うと、ありし日の心子は、随分先生に甘えたり頼ったりしていたようです。
夜8時ごろ教会にやってきて、朝8時まで先生と話をしたり、
教会からマンションまで先生と手をつないで帰ったり、
薬などを買ってきてほしいと頼んで、先生が買いに行かれたり……。
どこまでも愛に飢えていた彼女に、今さらながらいじらしい思いを募らせたのでした。
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