年末年始シリーズ第6弾(しつこくてすみません)
今回は「移民と現代フランス―フランスは「住めば都」か」 集英社新書
去年11月のフランスでの暴動のときに買って「積読」していたものです。
著者も断っているとおり、これは学術書ではなく移民へのインタビューを中心にしたルポルタージュの形式をとっています。
なので、マクロの数字などについては細かく出てはいないのですが、インタビューを通じて移民の抱えている問題がリアリティを持って浮かび上がってきます。
暴動の時には差別と失業問題が主な要因としてあげられていましたが、ご多分に漏れず実態はもっと複雑なようです。
確かに移民への差別はあり、特にアラブ人(「ブール」というアラブの逆さ読みの蔑称で呼ばれる)さらにマグレブ(アルジェリア、チュニジア、モロッコ)人に対する差別が激しいようです。
一方で移民の側にも、伝統的な家族観からくる問題があるということです。
一般に移民一世はフランス語が満足にしゃべれず読み書きもできない事が多く、また、祖国の伝統的な考え方を持ち込んでいるために子供たちとのコミュニケーションのギャップがあります。
特に女子については子守や家事の労働力であり、成人してからは穢れの対象としてみており、初潮以後は外出も容易に許さないくらい家に縛り付けてしまうことで女性の修学・自立を阻んでいるそうです(これは同じように育った母親の側からの圧力が大きい)。
「ちゃんとした服を着て、家も食事もテレビもあり、学校まで行っている、これ以上何が欲しいんだ」というわけです。
反面男子はわがまま放題に育ってしまい、親が教育熱心でない(または費用がない)こととあいまって、非行化しやすいという部分もあるようです。
さらに制度面も経済情勢や世論によって二転三転し、「サン-パピエ(sans papier = without paper)」と呼ばれる正式な滞在許可証のない移民を大量に抱える一方で、新たな移民の受け入れをしようとするなど、一貫しない政策が移民にストレスを与えています。
制度面で象徴的なのは、一夫多妻制に関して。
1993年の法改正で従来の滞在許可証(有効期間10年)を持っている移民はその権利を持続できる事になったが、一夫多妻制の人はその効力を過去に遡ることになろました。
つまり、次回の更新の時には第一夫人しか滞在が認められなくなるわけです。
そのためNGOには一夫多妻制の妻からの相談が多く、特に、夫人同士で「第一夫人」の座を争うというような事が起きているとのことです。
本国では家族や親戚で支えあって生きていた夫人たちが、フランスにおいては相談する人もなく、突然自らの存在を非合法とされてしまう、ということが起きているわけです。
フランスに限らず移民問題を考えたり(また、自らが難民になった場合を考えたり)するのにも参考になると思います。
※ちなみにイスラム教徒の名誉のために言うと、フランスの移民において一夫多妻制は宗教とはほとんど関係がないそうです。一夫多妻はイスラム教徒の多いマグレブからの移民にはほとんどなく、主にブラックアフリカにみられるもので、宗教(霊魂信教、キリスト教、イスラム教、その他)による偏在もないそうです。
さらに、「イスラームとは何か―その宗教・社会・文化 」 講談社現代新書
によれば、イスラム圏で一夫多妻制を取っているのは既婚者の5%未満に過ぎず、一夫多妻制を容認したとされるコーランの個所は
汝らが孤児たちに対し、公正にしてやれそうもないならば、汝らがよいと思う二人、三人、または四人を娶るがよい。
に続いて
だが、公正にしてやれそうにないなら、ただ一人だけ。
とあるそうです。
つまり、「第一、第二・・・」という区別は(イスラム教上は)ないみたいです。