一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

宮崎勤被告の死刑判決について

2006-01-22 | よしなしごと

遅くなりましたが宮崎勤被告への死刑判決について。

※ 意見というよりは制度のおさらいのエントリになってますのであらかじめお断りしておきます。
※※といいながら若干感想を追記したのですが、追記のほうが前提を整理できているのでしたのでそちらを先にしました。その結果ものすごく長くなってしまってます^^;
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(1/22追記)
判決後のテレビや新聞などで、「宮崎被告が心を閉じたままだったのが残念」とか「宮崎被告の心の闇に迫れなかったのは残念」という評論家やドキュメンタリー作家のコメントがありましたが、それを裁判に求めるのはどうなんだろうな、と思いました。

被告人にも人権があり、裁判の結果を有利にするために主張したり自分に不利なことは黙秘できるわけですので。

もっともその発言の背景には「世間」としては、このような異常な犯行を社会常識の枠組みで整理したうえで、安心して日常生活を送りたい、というニーズがあるので、作家やジャーナリストもそれに応え(る商品を供給し)ようということがあると思います。

その整理の仕方としては

A 今回の事件は宮崎勤という「異常者」によって引き起こされた(だから普通の隣人はそういうことはしない)
B ここまで残虐な犯罪者は極刑に処してしかるべきだ

というのが(私自身も含め)一般的なのではないかと思います。

しかしAは宮崎勤を共同体の枠外に位置付けるもので、その被告を共同体の枠内の刑罰で処罰する(B)というのは実は考え方として矛盾しているところがあります。(逆に処罰可能な普通の犯罪者としたら、同様の事件を共同体のリスクとして受け入れなければならなくなるわけです)

つまり実は世間が期待していたのは「異常者だが極刑に処すことが可能」という裁判を期待し、そのために公判上で宮崎被告の異常性(=心の闇)を事実として確かめたかったのではないか、と思います。
またそれは、宮崎勤の部屋に入ったテレビクルーが、部屋にあったビデオをアダルト・ロリコン物を前面に出すように再配置した心理に通じるものではないでしょうか。

でも、「心の闇」の問題は、本当は裁判所に任せるのでなく、私たちひとりひとりが向き合わないといけないんですよね。


心神喪失状態の犯罪がどう処罰されるのかが以下の元のエントリのテーマですが、その前段として改めてこんなことを考えました。

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(以下が元のエントリ)

事件の概略と要点は朝日新聞の記事に要領よく整理されています(末尾に引用しています)。

刑法には精神の障害により事理弁別能力が失われたり、著しく減退している場合には刑事責任を問わない、という規定があります。

(心神喪失及び心神耗弱)
第39条 心神喪失者の行為は、罰しない。
  2   心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

この裁判も最後は宮崎被告が責任能力があったのかどうかということが焦点になったようです。
宮崎被告の精神鑑定は90年、92年の2回行われ、1回目は6人の医師が責任能力あり、という結論、2回目は3人中2人の医師が精神病であり責任能力は限定的、という結論になったのですが、1審2審判決とも2回目の鑑定結果は採用されませんでした(最終的に法的な責任能力の有無については裁判所が決める)。

最高裁判決はここについてはさらっと高裁の判断を維持しています。

「なお,所論にかんがみ記録を調査しても,被告人に責任能力があるとした原判決の認定は,正当として是認することができ,刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。」


私の最初の感想は「16年もかける必要があったのか?」です。

1審は1990.3.30(第1回期日?)~1997.4.14(判決、即日控訴)と7年、2審は1999.12.21(第1回期日?)~2001.6.28(判決)と(間の弁論準備期間?)を入れると4年、今回の最高裁判決まで3年半かかっています。

心神喪失・心神耗弱はもちろん犯行時の精神状態の話ですから、犯行後時間がたってからの精神鑑定では証拠としては弱い(犯行時に比べて治ってるかもしれないし悪化しているかもしれない)わけです。
そうすると、2回の精神鑑定をどう評価するか、ということになると思いますが、その結論までにこのように長期化するような論点があったのでしょうか?

この長期化は宮崎被告にとっても、(もし精神病だとしたら治療も受けられずに16年も収監されているわけで)マイナスなんじゃないか
16年という時間の中で①犯行当初は心神喪失だったがその後自然治癒したらどうなるのか②犯行当初は責任能力があったがその後精神病が発病したらどうなるのか

というあたりが素朴な疑問でした。

①については、精神病などで犯罪を犯した人に対して、心神喪失者等医療観察法(「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」)という大変長い名前の法律があり、重大な他害行為(殺人・強盗・放火・強制わいせつ・強姦・傷害の中の一部)を行った者が、心神喪失又は心神耗弱を理由として、不起訴又は無罪若しくは執行猶予付の判決を受けた場合に、「行為をおこなった際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するために」この法律による医療を受けさせるという制度になっています。

これにより、釈放された時点で検察官が必要があると判断した場合は強制入院等で医療を受けさせることができます。

※ただし、刑法学者の中山研一先生のblogによると、この法律の目的が「精神病の治療」なのか、「再犯のおそれ」がなくなるまで退院させない(こうなると判断のリスクを医師が負うことになる)ことなのかは議論があるようです。


②については、刑事訴訟法で

第479条 死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によつて執行を停止する。
3 前二項の規定により死刑の執行を停止した場合には、心神喪失の状態が回復した後又は出産の後に法務大臣の命令がなければ、執行することはできない。

と、刑の執行停止がうたわれています。


ということで、制度的には(死刑制度の是非や「心神耗弱」でも死刑は執行されてしまうことの是非は置いておくと)漏れがないようになっているようです。

もっとも、心神喪失者等医療観察法の施行は平成17年だったので、それまでは①の問題は残っていたのかもしれませんね。


いずれにしても、長引いた論点がどこにあったのかについては興味がありますし、単に弁護団の引き伸ばしや裁判所の判断に時間がかかった、というのであれば、宮崎被告本人にとってもよくなかったような感じがします。


(参考)

宮崎勤被告に死刑 連続幼女殺害事件で最高裁が上告棄却(2006年01月17日13時40分 朝日新聞)から

 東京や埼玉で88年から89年にかけて、女児4人を誘拐して殺したとして殺人などの罪に問われた宮崎勤被告(43)=一、二審で死刑=に対し、最高裁第三小法廷(藤田宙靖(ときやす)裁判長)は17日、上告を棄却する判決を言い渡した。10日以内に判決訂正の申し立てがない場合、死刑判決が確定する。幼い子が標的にされ、被害者宅に遺骨が届けられるなどした衝撃的な事件は、発生から17年を経てようやく終結する。
 藤田裁判長は法廷で「責任能力を認めた二審判決は、正当として是認できる。性的欲求を満たすために4人の女児を殺害したもので、非道な動機に酌量の余地はなく、社会に与えた影響も大きい」と理由を述べた。最高裁は法律審のため、被告本人は出廷しなかった。
 単なる人格の偏りなのか、精神的な病気なのか――。宮崎被告が4人を誘拐して殺害した事実にはほぼ争いはなく、16年近くに及ぶ公判の争点は、宮崎被告の事件当時の責任能力の有無に集中した。
 
上告審で弁護側は、二審段階でわかった東京拘置所での向精神薬の投与の経緯や幻聴の症状などから「統合失調症などの慢性的精神疾患であることは明らか」と主張。「二審判決を破棄しなければ著しく正義に反する」として、審理を高裁に差し戻して改めて精神鑑定し、責任能力を調べるよう訴えた。
 一方、検察側は「責任能力があるとした鑑定は十分な根拠に基づき、合理的だ。精神病とした鑑定は、公判での供述をそのまま犯行時の体験とする立場に立っており、到底採用しがたい」などと述べた。
 精神状態に注目が集まったのは、被告が法廷で「ネズミ人間がでてきた」など不可解な発言を繰り返すようになってからだ。
 
一審段階の鑑定は、責任能力を完全に認めるものから限定的とするものまで3通りに分かれた。
 
まず、90年から6人の医師による鑑定が行われた。1年半かけ、「人格障害によるもので、病気ではない」と結論づけた。のちに一、二審判決が依拠したのはこの最初の鑑定だった。
 
2度目の鑑定は弁護側の要請で、92年から3人の医師により行われた。うち2人は「多重人格など解離症を主体とする反応性精神病で、責任能力は限定的」と判定。(1)被告本人(2)衝動的な殺人者(3)冷静な人物(4)犯行声明を送った「今田勇子」――の4人格があると分析した。
 
もう1人は「統合失調症で心神耗弱にあたる」と判断。「高校卒業後に潜在的に発症し、性的欲求と収集欲求から犯行に及んだ」とした。しかし、こうした2回目の鑑定結果はいずれも採用されなかった。二審段階では、新たな鑑定は行われなかった。

コメント (2)
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