一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

内田センセイと柴田センセイの対談

2006-09-21 | 乱読日記
<追記あり>

昨日は内田樹センセイと柴田元幸センセイの対談を聞いてきました。

主催はDHCだったんですが文化・出版局の方が「当社は最近は化粧品や栄養補助食品で有名になっちゃいましたが、元はこっちが主だったんですよね」というの予想通りのネタ(もともとは翻訳サービスの会社で、社名の由来も「大学翻訳センター」の頭文字からDHCとした)を前振りにしてスタート。


今回両名の実物にお目にかかる、というのも大きな目的だったのですが、柴田先生は小柄で飄々とした雰囲気(七分丈の幅広のデニムのパンツが、これに幅広の帽子をかぶっていたらスナフキンだなぁと)。大きい目を開いて首をちょいと傾げながら話されます。
内田先生は、予想通り(予想よりちょっと)バイタル強めな風貌。自ら座持ちがいいとおっしゃる通り、話し出すと止まらない感じ。目が充血していたのはご多忙のせいでしょうか。

対談自体はぶっつけ本番の面白さが出て、内田先生が暴走するのを柴田先生が冷静にフォローしながら自分のネタに引き戻すという掛け合いを堪能しました(椅子が固くてお尻が疲れたけど)

ちょいとさわりを。

1 reader friendly

内田センセイも元は翻訳をやっていた(学生時代から技術図書の翻訳などを大量に粉あいていたらしい)ということで、まずはこの話。
お二人とも翻訳の要諦は"reader friendly"にあり、という。
柴田センセイが「読者を威嚇しない翻訳」「『これを読んでわからない私が悪い』と思わせない翻訳」を心掛けている由

内田センセイは技術図書(プラント輸出の一式書類とか)の翻訳のときには、著者の「念」がこめられているところをしっかり訳して、あとは日本語で読んで意味が通じることが大事(そもそも原文自体にすべてが書いてあるわけではないし、読む人も技術的知識があるのだから判らないところは自分で補うだろう)という極意(?)を披露されてました。


2 息遣いと肺活量

柴田センセイは「読んでいるときの快感を伝える」ために翻訳作業にスピードを重視しているそうです。原文の息遣いを伝えるには翻訳作業のテンポも大事。
村上春樹氏の翻訳の手伝いをしていて感心するのは、村上氏が"ready to be corrected"なところ。難解な部分の誤訳を指摘すると、嫌な顔もせずにその場で村上調の見事な文章に書き直してしまうとか。
「私、昔中日の松本って投手が好きだったんですけど、松本-木俣のバッテリーのときは試合が1時間半くらいで終わっちゃうんですよね。なにしろ振りかぶってからキャッチャーのサインを確認していきなり投げちゃう」
という例えが個人的には一番ウケました(松本投手というのは今の山本昌の大先輩の「大柄、技巧派、独特なフォーム」の左腕です。でも会場のほとんどの人(若者と女性で9割くらい)は知らなかったようですが)

内田センセイは、レヴィナスの一文が非常に長く(1ページ以上にわたることもある)文の途中で考えが変転し最後には違った結論になることもしばしばである文章を前にして、「著者の思考過程に付き合う肺活量を求められる文章だ」と感じたそうです。


3 「従たるもの」の快感

内田センセイはレヴィナスの著書を翻訳するときにレヴィナス師が「向こうから呼びかけてくる」のに呼応して「先生の声を聞いてくれ」という思いで翻訳をする。「連綿と続く知的伝統の末端に連なるという喜び」を感じるとおっしゃってます(その後「師弟関係」論から「スターウォーズ」と「姿三四郎」、スピルバーグが師と仰ぐ黒澤明との関係にまで話が展開するのですが省略)

柴田センセイも、「作者が答えを持っている」「テクストを通じて作者を理解する」という考えには組しないが、「作者を通じてテクストを理解する」という方法は有効だとおっしゃいます。「知り合いの書く文章の方が深く理解できますよね。」
翻訳には作者と読者の間に割ってはいって三角関係を作るのでなく、テクストに作者の息遣いを伝えるという「「従」になることの代えがたい快感」があるとおっしゃいます。
(「最近小説を書かれている動機は?」という質問に「編集者はエッセイを書けというんだけど、最近仕事ばっかりで私生活がつまらないので仕方ないので妄想を書いただけです」)



詳しい内容はblogで紹介されるか、雑誌記事になるかするでしょうから(DHCのカタログに叶姉妹の隣に載せたりはしないと思います。あ、もう叶姉妹じゃないか?)そちらをごらんくださいませ。


<追記>
実はbunさんもこのセミナーに参加されていたとのこと。
お見かけしていれば麻布十番界隈でご一献とおさそいしたかったのですが残念でした。

bunさんも後日講演内容をアップされるとのことですので、私のエントリの浅薄さがついに露見するかと冷や汗ものでもあります(^^;
コメント (2)
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