一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

評議 その3 (模擬裁判体験記18)

2007-12-20 | よしなしごと

つぎの論点は被告人が犯行当時心神耗弱の状態だったか否か(=責任を問えるかどうか)。

刑法では

第39条  心神喪失者の行為は、罰しない。
  2    心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

とあります。

更に裁判長の方から解説資料が配られます。

人を罪に問うにはその人に責任能力が必要で、責任能力とは「物事の善い悪いを判断し、その判断にしたがって行動をコントロールする能力」をいう。その責任に問題がなければ完全な責任能力を負わせることができるが、責任能力が著しく減退している状態(=心神耗弱)の場合は罪を減軽することになります。

本件では飲酒の影響が論点になっていますが、通常の酔い(性格が表面に出た結果言動や行動が多少乱暴になるようなもの)なのか心神耗弱と言えるかのような異常な酔い(人が変わってしまい、普段からは理解できないような行動を取るレベル)なのかを判断してもらうことになる、という説明がありました。

(※)模擬裁判終了後の意見交換で、弁護側から裁判所の出した心神耗弱の説明資料は心神喪失も含めて段階的に表現しないと「心神耗弱はきわめて例外的」という印象を与えたのではないか、という指摘がありましたが、本件については後述の通りそこまでの影響はなかったように思います。


今回はこの論点については裁判員はそろって弁護側の主張に否定的でした。

・被告人の証言でも志村を脅そうとした、といっており、そのために包丁が有効という判断をしている。
・タオルで巻いてズボンに突っ込んで隠し持っていた
・加東証言や通りがかった会社員の目撃証言でも酩酊しているようには見えなかった
・警察官によるアルコール呼気検査でも数値は高くなかった
・被告人の記憶も犯行直前までが鮮明で犯行自体の記憶だけないというのも不自然

などが理由です。

個人的には今回被告人と志村がともにやった「包丁をタオル巻いてズボンに突っ込んで隠し持つ」という行為が包丁の持ち運び方としてポピュラーだったということをはじめて知りました。
そして、飲酒で判断能力を失いながらもそういう行為をしている、という主張には無理があるんじゃないかなと思いました(正気でなければ歩きながら自分の脚か尻を切ってしまいそうです)。


いずれにしろ、裁判員全員の同意として、被告人の「心神耗弱」の主張は認められませんでした。


ということで、「殺人未遂が成立し心神耗弱は認められない」というところまで意見がまとまりました。

つぎは量刑に移ります。



休憩時間中に、裁判員の中のOLの女性から余談ですけど、といって「宴会でのセクハラも泥酔しているのであれば心神耗弱になっちゃうんですか?」という質問が出されました。

裁判官からは、個別判断なのでしょうが、普段から思っていたことがタガがはずれただけでは心神耗弱とは言えないんでしょう、などという話が出ました。
つまり酒のせいにする、というのはいかん、ということですね。

ちなみに刑法では原因において自由な行為の法理というものがあり、自ら心神喪失・心神耗弱の状態になり犯罪を引き起こした場合は」その結果について完全な責任を負う、とされています。
後輩で酒席になると「私は飲んだら飲まれますよ」といっていつも自分から飲んだ上に速攻で酔っ払っていた奴がいたのですが(まあ、タチは悪くなかったのでいいのですが)、そういうのは自己責任、ということです。

身に覚えのある方はご注意ください(笑)


(つづく)

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鉄の結束

2007-12-20 | M&A

新日鉄・住金・神鋼、相互の株式追加取得発表
(2007年12月19日 14:26 日本経済新聞)  

新日本製鉄と住友金属工業、神戸製鋼所の3社は19日、相互に出資比率を高めて提携関係を強化すると正式発表した。新日鉄と住金は相互に1000億円程度の株式を追加取得する。新日鉄と神戸鋼、住金と神戸鋼ではそれぞれ150億円の株式を追加取得する。19年度末までに株式市場で実施する予定。基幹生産設備で相互補完を推進して競争力を高める一方、M&A(合併・買収)で成長する鉄鋼世界最大手のアルセロール・ミタル(ルクセンブルク)に対抗する。
 
株式追加取得後は、新日鉄による住金への出資比率が9.4%(従来は5.01%)、住金による新日鉄への同比率は4.1%(同1.81%)へそれぞれ上昇する見通し。  

ちょうど12月5日の商事法務に長島大野常松法律事務所の藤縄弁護士が「検証・日本の企業買収ルール」という寄稿をされています。
その中で、経産省と法務省による買収防衛策指針が提案したライツプラン型防衛策が予想外に普及しない理由として以下の二点をあげています。  

日本の企業経営者の間に、買収防衛策指針の背景にある「企業価値が上がるのであれば買収提案を受け入れるべし」という規範意識簡単には育たない  

買収防衛策指針が提示したライツプラン型防衛策の設計思想と防衛策をめぐる司法判断との間の溝が埋まらず、(※)多くの実務化がライツプラン型防衛策の法的な有効性について確信がもてない

(※)「裁判所からの「株主意思の尊重」と「買収者の損失補償」という二つのメッセージは、日本のライツプラン型防衛策が参考にした米国のライツプランの①株主に対する信任義務に基づき取締役が買収の適否を一時的に判断する、②買収者に甚大な損害が生じることを抑止力として買収行動を停止させるという基本設計を否定するものである。  

ことの2つを上げています。 

そしてこの論文の目的は公開買付制度の見直しや種類株式の上場などを提言するものですが

自社が敵対的買収の標的になる可能性がゼロとは断言できない中で、株主総会での支持さえ得れば買収防衛が可能であるというのであれば、安定株主工作に手を染めるという誘惑は絶ち難いものがある。  

と、持ち合いの弊害にも警鐘を鳴らしています。  


藤縄弁護士の指摘は正鵠をついていて、しかも方向性としては正しいとは思うのですが、とはいえ本音ベースでは「アルセロール・ミタルに(事業上)対抗する」以上に「アルセロール・ミタル(からの買収)に対抗する」ことを意識せざるを得ないというのも現実なわけです。  


ところで3社の時価総額は、新日鉄4兆2000億円、住金2兆1000億円、神戸製鋼所1兆円、合計で7兆3000億です。
ミタル・スチールのアルセロールの買収資金269億ユーロ(1ユーロ=163円で4兆3000億)という規模を考えると、あまり3社が実質的な提携を進めて、ちびくろサンボのバターになってしまったトラとか溶鉱炉に放り込んだ鉄同様混然一体となってしまうと逆に「まとめて買っちゃえ」という気にさせてしまうかもしれませんね。

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