著者の村田良平氏は外務事務次官、駐米大使などを歴任した人で、副題にあるように、本書を脱稿し、出版を待つ間にこの3月に逝去されています。
「まえがき」で、現在の50歳以下の世代が、戦争や戦後のアメリカによる占領についての基礎的な知識を持っていないという問題意識の元、本書のテーマをつぎのように記しています。
①中学・高校でもしっかり教えていない70年以上前のあの戦争を考える重要な視点、②米軍による六年間以上にわたる占領が、日本に今なお及ぼしている影響、③冷戦中の日本外交、とりわけ重要だった米国との安全保障関係及び経済関係、及びこれらが冷戦終了以後日本にとっていかに変貌してきたか、④約30年位前から再び近隣の中国、韓国からの干渉が始まった「日本の過去の問題」に関する日本の対応振り、そして⑤目を将来に向けて考察すべき国家的課題の諸点、を中心テーマとして、本書を纏めました。
著者の「思い」が前面に出ているところは本書の評価の分かれ目になると思いますが、戦争に至るまで、そして戦後の米国による占領政策から日米安保、その変質に至るまで、網羅的に触れていて参考になります。
内容自体は「右・左」「親米・反米」というようなステレオタイプな切り口で切れる他の論者と共通するところもあるのですが、背景にある著者のリアリスティックな眼差しは、歴史の見方を一歩広げてくれます。
たとえば
日本は外国に侵されたことがなかった国だっただけに完敗のショックは大きく、議員も官僚もメディアも、「平和」という呪文を唱える傾向は今日まで続いている。異常現象である。日本は、原子爆弾の被爆体験はあるが、平和主義を他国以上に語る資格がある訳ではない。また、「平和」なる概念は決して一義的に明瞭でなく、憲法になじまない。戦争は今後も相手国の出方による相互作用として起こり得ると認識すべきものである。
一つは「平和主義」というものがあると信じる人が外務省にすらいることだ。私は平和とは一つの状態であり、それ自体に特別の価値はなく、一般論としてはその反対概念たる戦争より望ましいと思うだけである。日本国憲法が定めていると称される平和主義は、私に言わせれば、一つは大国米国の保護下の現実からの逃避である。
読んでいて、これはちょっと、と思うところも多いのですが、著者自身は政治的主張を抜きに真摯に議論をしている姿勢が伝わってくるので、僕の見方自身著者の言うところの戦後教育のバイアスがかかっているのかと考えながら読むという体験も(「戦後教育に洗脳されている」というのは一つのマジックワードでズルだとは思いますが)なかなか面白いです。
いいとこどりしたり、逆に全否定されたりしそうな本ですが、著者の持つ広い視座に敬意を持って読むべき本だと思います。