(最近少ない)タイトル以上に内容が充実している本です。
著者は企業不祥事のときの第三者委員会のメンバーなどにしばしば登場する國廣正弁護士。
前著に『なぜ、企業不祥事はなくならないのか』というタイトルの本があり、それとの連続性(柳の下?)を考えてなのでしょうか。
ただ内容はサブタイトルの「"法令遵守"を超えるコンプライアンスの実務」というほうが近いです(これも郷原氏の『「法令遵守」が会社をほろぼす』を横目で意識している感もありますが。)。
本書はコンプライアンス、特にリスクマネジメントを中心とした実務の勘所を網羅的に押さえているので、実務に携わる人だけでなく一般知識としても役に立つ内容になってます。
コンプライアンス(逆に言えば企業不祥事)のブームにのって出版されたビジネス本の悪い例にありがちな、事例紹介に大半を割いて考察が少なかったりすることもなく、また、タイトルはコンプライアンス全般についてなのに著者の得意な部分だけ深く掘り下げてあって他は簡単にしか触れていない、ということもなく、事例と論点をバランスよく取り上げています。
各章の冒頭にある解説からポイントを抜き出すと以下のようになります。
第1章
法律論のみにとらわれたコンプライアンスの問題性を明らかにする。
第2章
メリハリのないモグラ叩き的コンプライアンス施策がリスク管理として機能しないことを検証する。
第3章
従来型の形式を重視するコンプライアンス施策では新しい型の不祥事には有効に対応できない現実を示す。
第4章
コンプライアンスの実現のためには、経営者から現場の社員まで「自分の頭で考える」ことが必要であることを示す。
第5章
危機管理の三つの基本(隠さない、決断する、説明する)を示した上で、危機管理実務の最前線を明らかにする。
第6章
企業の社会的責任(CSR)の観点から、企業は消費者とどう向き合うかを考える。
第7章
不祥事によりクライシスに陥った企業の経営者のあり方について、経営責任とは何かという切り口と、原因究明のための外部委員会である「第三者委員会」と経営者の関係という切り口から考える。
もうわかってるよ、という方も会社の中でわかっていない人にどう説明するかのヒントになるかもしれません。 小難しい法律論や海外直輸入の概念も出てきませんし、すっと頭に入ってくる良書だと思います。
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