枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

うさぎのダンス・11

2023年02月07日 | Weblog
 ふみこは大きな袋に容れられて、手加減なく振り回されているように思えたが砂時計は放さなかった。リョウの手を右手に掴んでいるものの、目まぐるしく彩が換わるので気分は最悪に耳の鼓膜が鳴り止まない。時間を翔けてだとは知っているが、一体どこに向かうのか。気を失う寸前、ふみこは叫んだ。おばあちゃん!

 ふみこの頬を誰かが軽く打つ、眼の中にぼんやりと見える顔は祖母ではない。「気がついたか?草刈りしとったら目の前に現れるから、もうちょっとで首刎ねるとこだ」リョウは、と思わず辺りを見回すふみこに老婆は言った。「童か、心配いらんでな」老婆は、刈った草を見遣り顎をしゃくる。リョウは寝息を立てている。

 ふみこはリョウが居ることにほっとしたが、老婆を誰か知らない。「おめさ、名は何という」「ふみこ…こっちはリョウさん」その途端に老婆の顔が驚きに変っていく。「リョウさんてか、もしや神隠しになっておる薬問屋の坊やさんでねぇのか」ふみこはぽかんとしたまま、ことばが何も出て来ない。ここはどこなのかも。

 老婆は思うところがあったようで、眠っているリョウとふみこをその場に坂を駆け下りて行く。そうして若い者と年寄りの男を連れて、戻って来た。「坊ちゃま、よくぞご無事で」年寄りの男は鼻水を啜り上げ、リョウを若い者に抱かせると足早に離れて行った。ふみこは咄嗟のことに、草の上から動けずで見送るしかない。

 ふみこに、老婆は腰を下ろして静かに話しかけた。リョウは薬問屋の次男坊で、ねえやが目を離した隙に居なくなったそうだ。何日も経つが姿を見かけないので、これはてっきり神隠しの仕業となり無事を祈願していたところという。老婆はまさと言い薬種問屋の下働きで、ふみこには遠縁の娘でふみとするよう言い聞かせた。
コメント
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