リョウには苦手な生き物がいて、見つけると踵を返してふみこの後ろに隠れる。「リョウさん、あれは悪させんで怖がらんでもええ」リョウはふみこの背中から、片目を覗かせせ「知ってる、好きになれないだけだよ」ふみこはからかい半分で「まるで蛙みたいじゃ、リョウさん」途端に険しい顔で口を引き結ぶ。
その数日後、山に草刈りに行こうとするふみこをリョウが止める。「そんでもクロやメイが待っとるから」ふみこは納屋の住人に、牛にはクロと山羊にはメイとつけていた。そこにまさ婆が坂道を下って来て、背中に負い篭で現れた。「遅れたわ、まさ婆すまんなぁ」「今日は三隣亡じゃ、山に足を入れたらいけん」
リョウは眉間に皺を寄せ「僕が作ってあげた暦を、ちゃんと見てなかったでしょう」へそを曲げる機嫌の悪いリョウに、ふみこは夕方まで口をきいてもらえなかった。ふみこは自分よりも歳下であるのと、身分が違うことも忘れて小さく息を吐いた。心の中にリョウへの想いが、育ちつつなのを気づかぬままにだが。
夏も過ぎ秋が来ると冬は足早に訪れて、まさ婆から言われる仕事に精出すふみこだった。夏の間に洗い張りをした折、まさ婆がふみこに合うようにと背丈を計り縫う手ほどきをされた。綿の肌触りがなんとも温かさで、肌着も譲り受けて一緒に渡された。ふみこはうれしさに戸惑いつつ、まさ婆に何度も頭を下げた。
リョウが学校に行く用意もされているようで、時々母屋から使いが来る。爺やはこわごわに声をかけ、リョウは素直そのものでふみこにだけ分る合図を送る。その片目を瞑る仕草のなんとも可愛らしさに、胸が早鐘のようになることもあった。まさ婆が織ってくれた布を断ち、ふみこは一針を一心に縫うのに集中した。
その数日後、山に草刈りに行こうとするふみこをリョウが止める。「そんでもクロやメイが待っとるから」ふみこは納屋の住人に、牛にはクロと山羊にはメイとつけていた。そこにまさ婆が坂道を下って来て、背中に負い篭で現れた。「遅れたわ、まさ婆すまんなぁ」「今日は三隣亡じゃ、山に足を入れたらいけん」
リョウは眉間に皺を寄せ「僕が作ってあげた暦を、ちゃんと見てなかったでしょう」へそを曲げる機嫌の悪いリョウに、ふみこは夕方まで口をきいてもらえなかった。ふみこは自分よりも歳下であるのと、身分が違うことも忘れて小さく息を吐いた。心の中にリョウへの想いが、育ちつつなのを気づかぬままにだが。
夏も過ぎ秋が来ると冬は足早に訪れて、まさ婆から言われる仕事に精出すふみこだった。夏の間に洗い張りをした折、まさ婆がふみこに合うようにと背丈を計り縫う手ほどきをされた。綿の肌触りがなんとも温かさで、肌着も譲り受けて一緒に渡された。ふみこはうれしさに戸惑いつつ、まさ婆に何度も頭を下げた。
リョウが学校に行く用意もされているようで、時々母屋から使いが来る。爺やはこわごわに声をかけ、リョウは素直そのものでふみこにだけ分る合図を送る。その片目を瞑る仕草のなんとも可愛らしさに、胸が早鐘のようになることもあった。まさ婆が織ってくれた布を断ち、ふみこは一針を一心に縫うのに集中した。