枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

うさぎのダンス・12

2023年02月08日 | Weblog
 ふみこは草刈りを終えたまさ婆に連れられて、薬種問屋の裏口に回る。まさ婆は刈って来た草を母屋から可なり離れた納屋に運び込み、動物の鳴き声から山羊や牛もいるようだった。ふみこはまさ婆に手招きされ、井戸端の水で手足を洗い布を借りて拭いた。そこに先程の年寄りが現れ、付いて来るよう促し母屋に向う。

 母屋の庭に来ると「おくさま、連れて参りました」部屋の障子が一面開いて、髪を丸く結ったおくさまらしき人が見えた。ふみこをじっと見るばかりで、何も言わない。「爺や、明日からまさのところに置きましょう」「仔細、承知してございます」爺やは丁寧に頭を下げ、ふみこにも同じようにさせた。お腹空いたな。

 まさ婆が夕餉の支度をしていた。ふみこに竈の下を焚き付けるよう言うが、やったことがないので立ったままでいた。「こりゃてえへんなおなごだな、こげな歳まで何してただ?」まさ婆は松葉や枯れ枝の細い木を入れて真ん中に隙間を作り、七輪から薪の燃えさしで火をつけた。ふみこは、祖母を思い出し頷いていた。

 朝の暗い内からには眠くもあったが、竈のご飯炊きも覚えればできた。ふみこは、まさ婆と一緒なのも良かった。母屋の方には一切行かずで、リョウのことが気にはなるものの用事はいくらでもある。草刈は背負い篭で山に出掛け、家畜の世話も手が抜けない。米の研ぎ方や草刈りの手順もいつしか覚え、眠くても起きる。

 ふみこぉ!どこにおるん?竈に火を熾し、味噌を甕から取ろうとした時だった。リョウの泣き叫ぶ声がして、小さな足音が板の間を駆けて近づいて来た。仔犬のような塊が、ふみこの胸に飛び込んで来たのにびっくりした。爺やが息を切らせて追って来たが、リョウはあかんべぇ~をしてふみこにしがみついて離れない。
コメント (2)
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