梅が咲き始め桜に桃が綻びて来るのは、冬の寒さがあればこそとふみこは早朝の空気を吸い込んだ。明日からはリョウの通う尋常高等小学校に、ふみこもお供で行く言いつけだ。リョウはその前から母屋に移り、神妙な面差しで大人しくしている。妙に大人びた顔つきが、ふみこから急速に離れて行くようにも感じる。
ふみこの日常は相変わらずで、リョウに付いて行くからといって仕事が減るものでもない。まさ婆のことを思えばふみこの方が身体は軽いのもあり、一つでも多くして出かけられる。時間にぎりぎりまでを働き、小さな手鏡を覗き見てふみこは着替え支度する。リョウが数日前に渡してくれた物で、苦心が見てとれた。
リョウは少しはにかみながら、懐から手鏡を出しふみこに差し出した。渡される時に触れたリョウの手の温かさは、ふみこの胸の奥底まで沁みた。「あたし、リョウさんに何も…」「僕からふみこへのお礼だよ、受け取ってね」リョウのやさしさに、ふみこは視界がぼやけてきてしまい堪らなくて思わず背中を向けた。
学校には歩いて行くので、リョウの後をふみこはつかず離れずで送る。下校時間までが長いので一旦帰って来て、その時間には門の側に立ち待つ。雨の降りそうな日には道がぬかるむため早目に出掛け、リョウの姿に駆け寄るふみこだ。帰り道ではリョウが学校でのことを話すので、その度に新鮮な気持ちで耳を傾ける。
ふみこはリョウの話を聞き逃すまいと、真剣そのものになる。まさ婆にはふみこからが多くだが、時折リョウが離れに来てかみ砕くようにしてくれる。まさ婆には、字が読めるのが何よりもうれしいものか土に木切れで何度もなぞる。ふみこはここでの暮らしをたのしみ、リョウと一緒なのも心の片隅に安心が膨らむ。
ふみこの日常は相変わらずで、リョウに付いて行くからといって仕事が減るものでもない。まさ婆のことを思えばふみこの方が身体は軽いのもあり、一つでも多くして出かけられる。時間にぎりぎりまでを働き、小さな手鏡を覗き見てふみこは着替え支度する。リョウが数日前に渡してくれた物で、苦心が見てとれた。
リョウは少しはにかみながら、懐から手鏡を出しふみこに差し出した。渡される時に触れたリョウの手の温かさは、ふみこの胸の奥底まで沁みた。「あたし、リョウさんに何も…」「僕からふみこへのお礼だよ、受け取ってね」リョウのやさしさに、ふみこは視界がぼやけてきてしまい堪らなくて思わず背中を向けた。
学校には歩いて行くので、リョウの後をふみこはつかず離れずで送る。下校時間までが長いので一旦帰って来て、その時間には門の側に立ち待つ。雨の降りそうな日には道がぬかるむため早目に出掛け、リョウの姿に駆け寄るふみこだ。帰り道ではリョウが学校でのことを話すので、その度に新鮮な気持ちで耳を傾ける。
ふみこはリョウの話を聞き逃すまいと、真剣そのものになる。まさ婆にはふみこからが多くだが、時折リョウが離れに来てかみ砕くようにしてくれる。まさ婆には、字が読めるのが何よりもうれしいものか土に木切れで何度もなぞる。ふみこはここでの暮らしをたのしみ、リョウと一緒なのも心の片隅に安心が膨らむ。