枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

うさぎのダンス・8

2023年02月01日 | Weblog
 リョウの部屋は、入り口などないのに壁が左右に開いた。うわあっ!ふみこは素っ頓狂な声をあげて、後ろに引いてしまう。どうしたの?これはセンサー感知の自動ドアだよ、びっくりさせた。ふみこは、口をきつく引き結んだまま頭を上下にした。リョウには何でもないことだろうが、何もかも初めてで気味悪い。

 部屋には何も無かった。ところがふみこが考えると、途端に椅子やテーブルが現れて来るではないか。あ・頭がクラクラしてきた、月世界てなんちゅうとこなんだろう。ふみこは、幻かとそっと触ってみたが消えることはない。きっとどこかに仕掛けがしてあり、本物が出るんだな。あはは、ふみこはおもしろいね。

 リョウ、今なんて言ったの?あたししゃべってないのになんで分かる。ふみこは思わずリョウの腕を掴んだ。痛いよ…これはねテレパス、心に思い浮かべると相手に伝わるんだよ。リョウの言うことは、ふみこの理解度を遥かに超えていた。めまいまで起きそう、お腹が空いているんでしょ直ぐ食事の用意をさせよう。

 何だか誤魔化された気もしたが、その誘惑には勝てないふみこだった。スープが来た、これ何?リョウがにっこりして僕のする通りにしてごらん。次々に運ばれる料理だが、幾ら食べてもお腹におさまる。最後に出たのは、甘く香りのやさしい飲み物だ。これはね、月のしずくを溜めておいて淹れる枇杷茶なんだよ。

 ふみこの身体の中に、じんわりと沁み込んでいくのが分る。こんなおいしいのって初めてだ!おばあちゃんが沸かしているのは、石垣に植えている番茶だ。それだって、こんなにおいしいと思ったことはない。あたし、そろそろ帰えらな。リョウが途端に泣きべそをかき、ねえもう少しだけいてよ!いいよね・ふみこ。
コメント (11)
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