宙に浮かぶ顔は、ふみこの知らない人だった。それなのに懐かしさと感情の波に揺れる心があり止まらない。意志の強そうでありながら気持ちを押し込めての眼差しに、にっこりとした時のやさしさが翔けていく。誰なの?あたしに何か言いたいの?何を伝えたいのだろう、ふみこは思い出そうとするが激しい痛みに苛まれる。
リョウがいないの、あたしの腕から取り上げて連れていくなんて。あの時に、ふみこの心は鏡と同時に砕け散り元に戻らない。ふみこの去るのを見ていたまさ婆は道を歩いているその姿が、急に失せたのに腰がぬけた。あの二人が何処から来て何処に往ったのかと、不思議な思いでいたがその途端に二人との記憶が消え去った。
ようこさん、誰かが呼ぶのだが…それはあたしの名まえじゃないわ。まちこでもなくひろこなどでもない、あたしはあたしなのに誰も気づかない。ふみこは時を翔け続けていたのだが、転生を繰り返しては蘇るので自分がもはや誰なのかが判らなくなった。夜のしじまに観える数多の星に眼をやれば、懐かしい響きが聴え来る。
ふみこは、姿も名まえも異なりながら時を彷徨い翔け続けていた。心の奥底に誰かを捜すという想いだけがあり、感情を表には出さない無表情な者でしかない。何もかもが無意味で、呼吸をするのさえ煩強く思え自分を消したくて堪らなかった。学校に通うのも誰かと仲良くしようとも考えず、祖母だけが唯一の依代だった。
その祖母も、ふみこが二十歳の時に彼岸に旅立った。「ばばは、あちらからのお迎えで逝くが…おまえのことが気がかりじゃ」ふみこは訝し気に祖母を見た。「おまえの捜しておる方はな、離れた処に居るけども一緒にはなれん」何を言うとん?さがしておる方って誰のこと?記憶の断片が薄れて散らばり、頭の芯が痺れていく。
旧暦 針供養・こと始め 小潮・上弦
リョウがいないの、あたしの腕から取り上げて連れていくなんて。あの時に、ふみこの心は鏡と同時に砕け散り元に戻らない。ふみこの去るのを見ていたまさ婆は道を歩いているその姿が、急に失せたのに腰がぬけた。あの二人が何処から来て何処に往ったのかと、不思議な思いでいたがその途端に二人との記憶が消え去った。
ようこさん、誰かが呼ぶのだが…それはあたしの名まえじゃないわ。まちこでもなくひろこなどでもない、あたしはあたしなのに誰も気づかない。ふみこは時を翔け続けていたのだが、転生を繰り返しては蘇るので自分がもはや誰なのかが判らなくなった。夜のしじまに観える数多の星に眼をやれば、懐かしい響きが聴え来る。
ふみこは、姿も名まえも異なりながら時を彷徨い翔け続けていた。心の奥底に誰かを捜すという想いだけがあり、感情を表には出さない無表情な者でしかない。何もかもが無意味で、呼吸をするのさえ煩強く思え自分を消したくて堪らなかった。学校に通うのも誰かと仲良くしようとも考えず、祖母だけが唯一の依代だった。
その祖母も、ふみこが二十歳の時に彼岸に旅立った。「ばばは、あちらからのお迎えで逝くが…おまえのことが気がかりじゃ」ふみこは訝し気に祖母を見た。「おまえの捜しておる方はな、離れた処に居るけども一緒にはなれん」何を言うとん?さがしておる方って誰のこと?記憶の断片が薄れて散らばり、頭の芯が痺れていく。
旧暦 針供養・こと始め 小潮・上弦