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枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

うさぎのダンス・16

2023年02月17日 | Weblog
 ふみこにとリョウが渡してくれた物は硫黄ではなく燐で、何かに擦りつけて発火させる。ふみこはその中から1本を取り出してじっと見ていたが、心に浮かんだ言葉を呟いた。辺りがぼうっと明るくなり、リョウが見開いた眼で「何をしたの?」と聞いた。ふみこは火が点くように思ったのだが、何が起きたのだろう。

 細い枝先で炎が立っている「リョウさん、これどこから?どうやって作った」「まさ婆の息子が炭焼きをしているでしょ、あそこの土だよ」リョウはふみこが眠ってなので、山まで行き材料を取って来たものだ。ふみこは今更に、リョウが難しい知識を知っているのに驚いた。「ふみこ、火をどうやって点けたの?」

 どうやって?ふみこは何気なく、心に思い浮かべただけだが自分でも分からない。「マッチは擦らにゃいけん、それがないから」「ふ~ん。念じたんだね、ふみこは」リョウは、ふみこ自身も知らない力があるのかもと見つめた。ふみこはその視線に目をしばたたかせて「やっちゃいけなかったんじゃ、ごめんなさい」

 ふみこもリョウも、まさ婆が居てくれるから大いに助かってはいた。薬種問屋というのも人の出入りはあるが、店でのことに限られていた。母屋には、リョウの母親が居るだけで店は若主人と爺やに雇い人の数人だけだ。ふみこはまさ婆のやることを見て覚え、台所の手伝いをしたり掃除や洗濯をしていればよかった。

 夏の時期には陽が早いし、沈むのも遅いので洗濯物は何杯も盥でする。布団の表を剥いでの洗い張りも、面白い位に乾いていく。ふみこは、元の時代にいたらしなかったであろう働きを独楽鼠のように動いた。リョウはふみこの眼の端にいつもいて、時に宙を見つめていたり図面を引いている姿に惹きつけられてしまう。
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