バックへ行くと、つばめ君が台車を見回していた。
つばめ君と一緒になるのは、久しぶりである。
「あっ、こんにちは。これ、定番商品ですよね?」
つばめ君は、そう言うと、一台の台車を指した。
「はい・・・定番です」
ほんとは、そんなことは、どうでもいい?ことのように思える。
「では、行ってきます!」
「はい」
真面目一筋で感心な つばめ君は、私より先に台車を引っ張って、 戦場・・・じゃなかった売り場へ突進していった。
ぼけら~としてばかりも いられない。
私も続いて、雑貨の台車を引っ張った。
売り場へ到着。
つばめ君が洗剤類を荷出ししている。
私はトイレットペーパー類を荷出しする。
それにしても、重いわ、これ。
何度もバックと売り場を往復し、テイッシュー類ばかり,大きな箱の補充をした。
いつもは、向こうから私に声をかけてくることなど、めったにない つばめ君が、何か言いたげなのに気付いた。
「あの~。もし、補充しにくかったら、遠慮せずに、僕の台車、勝手に のけていいですよ」
つばめ君の言葉に はっとして、目の前を見た。
私が補充しようとしている商品の真横に、つばめ君使用中の台車がで~ん。
うん、確かに仕事は しにくい。
「大丈夫です、もうすぐ、終わりますから」
私が そういうと、つばめ君は、(ほんとかね・・・?) という ちょっと心配したような表情を見せた。
プラットホームは、ほぼ、からになり、雑貨の荷出しは終了。
私はバックへ戻るとダンボール箱をつぶしていた。
なんだか今日は、夢遊病者のように、ふらふ~らとしている。
フランクフルトの屋敷内を夜中に歩き回るハイジのような気分である。
そんな時、めずらしく、店長が声をかけてきた。
「鈴木さん、次は何をしようと思っているのですか?」
次は何を・・・・? こんな質問は、新人の時、何をしたらいいのか分からなくて、
「出すもの、ありますか?」
と、店長や副店長に いちいち聞いていた頃 以来である。
「カップラーメンの補充をしようと思っていますが・・・何か?」
「そうですか、いや、手があいたら・・・でいいです」
うつろな目をした私に店長も、ちょっとビビッタかもしれない。
カップラーメンを補充していると、高田さんが話しかけてきたので、 事の成り行きを説明した。
「気にしなさんな! 誰だって、二度や三度は失敗するよ。
この逆もあるしね。たとえば、10つ発注したつもりが、発注単位を間違えて10箱・・・全部で400入荷されたとか・・・」
慰めてくれて、ありがとうございます。
酒担当の川石さんも、
「西村君から話は聞いたけど・・・」
と、声をかけてきてくれた。
「副店長に明日、報告しなきゃいけないけど、言い方があるからねえ。本人から話を聞いておかないと・・・」
日曜日、私は早番、副店長は遅番で、会わないのだ。
「副店長に謝っておいて下さい」
と、言うと、
「気にせんでええ!」
と、三回繰り返す川石さんだった。
補充を終えた私は、店長の元へ行った。
「ああ」
店長は、そういうと、周囲を見回した。
「じゃ、これ、片付けて。台車二台を一台に、まとめられるよね?」
「はい」
片付け・・・?
補充した後、いつも私が自分でやっている事である。
片付けが終わると、再び店長の元へ・・・。
ほんとは、片付け以外に やって欲しいことがあるのでは? と、思ったからだ。
「そう・・・ですねえ」
店長は、ちょっと考え、
「そうだ、あれを・・・」
今度は私を売り場へ引率した。
そこには餅が並んでいる。
「丸と四角の餅があるので、それぞれ一箱ずつ箱を開けて、中身を出して下さい」
落ちついた今なら、店長の意図が分かるのだが、 その時は・・・。
自分がハイジ化しているとは、知る由もなかったのである!
まだまだ続く・・・。