成人の日。掃除当番だった私は、女子更衣室の掃除を7時半に始めた。日曜日は、朝出勤のスタッフが多く、混雑するので、皆が出勤し始める前に掃除だけでも終わらせておくのだ。掃除が終わった頃、調味担当矢木さんと、竹輪担当花岡さんがやってきた。
「おはようございます。ちょっと、お湯を沸かしてきますね」
「もう、グロッサリーの当番? あれ、私、いつが当番だったっけ? 先月、忘れたからね~、当番!」
私が2つのポットの湯を沸かして、更衣室に戻ると、矢木さんが ほうきを持って立っていた。
「あっ、もう、終わりましたよ、掃除は。掃わいて、モップも・・・」
「早いね。私は掃くか、モップか、どっちかしかしないよ」
と、矢木さん。
「私は両方します」
と、花岡さん。
二人で政治討論・・・じゃなかった掃除討論が始まった。
主婦の流儀が、それぞれあるらしい。
あっぱれである!
いつぞやは、『湯を沸かすべき人は、お昼にカップラーメンを食べる人である!』という論争が巻き起こった。
掃除終了後、自分の名前を記入する用紙が女子更衣室の隣の壁に貼ってあるのだが、
誰かが「南副店長の名前を書いておこうか?」
と言った。(私では、ありません!!)
しかし、『女子更衣室に、どうやって南副店長が入室したのかって話になるよ』 と、誰となく言い、この悪戯?は、取りやめたのだった。
今朝は、社員は西村チーフしかいない。カトちゃんが成人式出席の為、
「俺、今朝、助っ人っす。5時までですよ!ホントはB番(遅番2時出勤)だったんですけど」
風邪を引いてから、かれこれ1ヶ月以上が経過したハマグリ君が言った。
鮮魚、巻き寿司担当の奈々ちゃん(注意50代)が呆れたようにハマグリ君に向って言った。
「あんた、いつまで風邪引いてるんね。ちゃんと寝ないからよ!」
「昨日は、ちゃんと寝たっすよ」
「ほんとね?じゃあ、何でいつまでも、治らんのね?」
私は、つい横から口を挟んだ。
「彼は賢いからですよ!ほら、よく馬鹿は風邪引かないって言うじゃないですか。グロッサリーは、賢い人から順に風邪を引いてるし。(カトちゃんに、末永さんに、南副店長に・・・)賢いから長引くんじゃないですか?」
「う~ん、う~~ん・・・」
なんと、奈々ちゃんは、ハマグリ君の顔をまじまじと見つめたまま、真剣に悩み始めた。
これって、どういうこと・・・だろう?
さて・・・。
年末に確保しておいた在庫を倉庫へ取りに行きたいが、一人では行けないので、矢木さんに調味の在庫を取りに行く必要があるかどうか、聞いてみた。
「うん、行くいく!でも、セきゅうりティー??とやらで、30秒以内に操作しないと、ブザーが鳴り響くんだって?私、したことないんよ」
「ああ、そうでしたね。私も無いです。やり方、習ってないし。岸辺さんがブザーを鳴らしちゃったって話を聞きましたけど。じゃあ、チーフにお願いしてみましょうか?」
チーフは即、OK してくれた。
早速、矢木さんに伝えると、
「そお?チーフが全部、在庫を取ってきてくれるって?」
「ち・・・違います。 一人で全部取ってくるなんて、言ってませんでしたよ。
いっ・・・一緒に行きましょう・・・って 」
最初から、期待大の矢木さん。ハマグリ君も引き連れて、長台車を引っ張り、4人で倉庫までお出かけした。
ぴゅ~~~。北風が ひときわ肌に冷たい。今日は強風注意報が出ている。
ゴロゴロと台車を引っ張ること、約、1分。とうとう、セキュリティ~の扉の前に到着した。
30秒が勝負という。
世紀の一瞬だ。
開けゴマ!
チーフが 関わると、30秒どころか、わずか1秒で事は完了し、
アブラカタブら~の呪文も必要なく、ぎいーっ!!という鈍い音を立てながらも、扉は難なく開いた。
「よし!調味と乾物は、全部、持って行こう!」
台車1台では足りず、2台の台車を二人一組で運び出すことになった。
最初は、ハマグリ君が台車を一人で引っ張っていたが、思うように前へ進まないようだ。
「矢木さん、ハマグリ君と、先に行って!」
チーフの指示で、ひと足先にハマグリ矢木組が出発した。
私はカップラーメンの箱を台車に積んでいたが、遠くから、矢木さんの きゃ~だの、ひい~だのという悲鳴が聞こえてくる。
天候不良で、苦戦を強いられているようである。
私達も遅れて出発したが、段差に台車が引っかかり、カップラーメンが一箱ポロリ、と落っこちた。
「ああ、これは駄目だったね」
と、いいながら、チーフは箱を拾い上げ、片手で台車を引っ張り、もう片方の手で「どんべえ一箱」を掴んだ。
ところが、次の段差では、同じく台車が引っかかった上、カーブを上手く曲がりきれず、しかも強風に あおられ、
「ぎゃ~っ!!! 」
私は全く可愛げのないドラ猫のような声を発した。
「バタバタバターっ!!!」
という音を立て、台車は倒れ、四方八方へと カップラーメンが飛んでいった。
「良かった。車が通ってなくて・・・」
と、西村チーフ。
散らばったカップラーメンの箱たちを拾い上げ、台車に積み、次なる難関は
急坂だ・・・ と、思っていたら、後ろから西村チーフが ものすごい力で押し、
私もラーメンと一緒に長台車に乗っかった方が いいのでは?と思った程だった。
恐れ入ります、チーフ様。
こうして逆風の最中の大冒険は幕を閉じたのである!
完