昨年、月イチという驚異的ペースで個展やライブドローイングをつづけていた石狩市の藤谷さん。
さすがにことしは、3月の「札幌美術展」でドローイングを発表したほかは、じっくりと制作に取り組んでおり、本格的な発表は半年ぶりとなった。
ひとことでいうと
「こんなの見たことない!」
というドローイングが並んでいる。
少なくても、一昨年の個展にくらべると格段の進歩である。
藤谷さんの絵を、単純なパフォーマンスとか、即興性に依存した見世物的なものと片づけている人がもしいたら、今すぐに認識を改めたほうがよい。
今回の出品作で用いている画材はペンと筆。
「筆を使ったところ、味をしめたというか、これで線をひくことにはまっちゃいまして。でも、やってることはドローイングにかわりないんです」
ライブドローイングではあまり筆は使っていなかった。
肥痩(ひそう)のある筆の線が黒々と躍り、背景には丸ペンによるおそろしく細い線の集積が明暗を表現している。
この対照が、作品をダイナミックなものにしているといえるかもしれない。
筆の導入は、これまで抽象的なモティーフの画面に、具象的なものを導き入れる契機にもなったようだ。
たとえば、最新作「浮き世崩し」は、現代の百鬼夜行とでも形容したくなるような化け物の氾濫する作品だ。
しかし、藤谷さんの場合は水木しげるや江戸期の妖怪の絵などとは異なり、描かれている化け物のようすは、はっきりしない。どこからどこまでがひとりの化け物なのかも不分明だ。
ことばで形容するのがむつかしいが、それでも、なにか不気味なものが描かれているのは間違いない。その意味では、非常に独創的な画面と言えるだろう。
カメラで撮るのはむずかしい精緻さなので、実物をみてほしいと思う。
なお、比較的はやい時期の7点は、一昨年の個展を思わせるような、都市の風景を題材にした小品である。
ただし、一昨年では、ただ写実的に描いていただけなのに対し、今回は、平凡な風景のどこかに底知れぬ裂け目がのぞいているようだ。
日常と隣り合わせの恐怖。それは、通り魔事件などが突然起こるわたしたちの日常でもある。「白昼の惨劇」という形容のよく似合う作品だと思う。
最近の作品は
「見てびっくりしてほしい」
という作者の意向で、あえて画像は掲載しない。
なにが描いてあるかわからないのに、怖い。
「正体の分からないものが最も恐ろしい」
とは、「脂肪の塊」「女の一生」で知られるフランスの作家モーパッサンのことばだ。
まさに藤谷さんの絵にぴったりのことばだと思う。
筆を使ったということで、あるいは東洋的、日本的なものへの回帰ととらえられないこともない。
しかし、輪郭線で対象を明確に描く浮世絵などとは、はっきりと違うと思う。(この段落は26日追記)
出品作は次のとおり。
胎動する電柱
底なしの防風林
脈打つ舗装道路
アンニュイタウン
ショッピングモール・フィクション
かまいたち
白銀の花魁
ぬ
ガポペギュ・クォックォーッ
猥雑なダンサー
歌舞く面
絶対を穿つ
みかけはこわいがあんがいそのめはやさすい
顔
ターミナル
その曲り角・暗躍
浮き世崩し
白昼の修羅
刺すYou
衛星を打ち落とせ!
コンクリートを切り刻んでいく漢
悠長な先駆け
抜刀寸前のブラックダンス
08年6月20日(金)-29日(日)11:00-19:00
GALLERY 門馬ANNEX(中央区旭ヶ丘2)
・地下鉄東西線「円山公園」からジェイアール北海道バス「循環円10 ロープウェイ線」に乗り継ぎ、「旭丘高校前」降車、徒歩3分
・地下鉄東西線「円山公園」からジェイアール北海道バス「円13 旭山公園線」に乗り継ぎ、「界川(さかいがわ)」降車、徒歩7分
・地下鉄東西線「円山公園」からジェイアール北海道バス「円11 西25丁目線」の乗り継ぎ、終点「啓明ターミナル」から徒歩8分。「啓明ターミナル」には、「51、52、53啓明線」も行きます。
■藤谷康晴ライブドローイング “無言の警告” (07年11月)
■07年9月のライブドローイング「黒くぬれ!」
■07年8月のライブドローイング
■07年7月のライブドローイング・個展
■07年4月のライブドローイング
■藤谷康晴ライブドローイング-呼吸する部屋-(07年3月)
■藤谷康晴個展 CONCRETE FICTION (07年2-3月)
■個展「路上でお茶を」(07年1-2月)
今週末まで行けないのですが、非常に”そそる”紹介でした。実物を見るのが楽しみです。
ホントに見てびっくりしました!
是非、多くのヒトに観てもらいたいと思いました。
コメントありがとうございます。
藤谷さんの今回の絵は
「こんなの見たことない」
としか言いようがないです。
既成の美術に当てはめようとしても徒労に終わるでしょう。
すこし文章に手を入れました。
パレロワイヤル→大同→門馬アネックス
のポタリングで訪れました。
丁度本館でのイベントが終わり、
お客さんがどっとアネックスに。
あのアネックスに10人以上のお客さんが!!
まあ藤谷さんの絵には興味がなかった様で。
藤谷さんの絵には、いつもモノクロならではの
無限性を感じさせられます。
色がないということは、その分可能性が広がる
そんなことを感じました。
と思います。
行きづらいなあという印象がありましたが、さいきん、啓明ターミナルから歩いて7、8分ということがわかり、行き方の幅が広がりました。
ただ、中国領事館のあたりを歩くと、警察官がたくさん立っていて、べつにこちらは悪いことしてないのですが、どうもあずましくないです。