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2011年の東日本大震災を機に帯広へと拠点を移した現代美術家の白濱雅也さんは、その後、おなじ十勝の豊頃町十弗に移り、古い民家を改装して「ArtLabo 北舟」をスタートさせた。
この、道内屈指の「到達困難ギャラリー(笑)」に、7月末にようやく行くことができた。
白濱さんは作家だが、展覧会オルガナイザーとしての活躍もめざましい。
ことし3月、本郷新記念札幌彫刻美術館で開いた「Post 3.11 in Sapporo 〜沈み行く記憶の淵で」は白眉の企画だったが、道外の中堅作家もどんどん呼んでくるのが特徴で、彼のおかげで北海道のアートファンはいろいろな作家の作品を見る機会が格段に増えているのだから、これは感謝するしかない。
今回のテーマは理想郷の風景。
白濱さんは最近、風景について考察したり、展覧会を企画したりしている。
筆者としても「風景」は非常に興味のあるテーマで、最近も松田政男や港千尋の本を読んだりしたが、考察を深めたり、文章をものしたりする時間がなかなかない。
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出品作家は、白濱さんのほか、箱山直子(横浜)、畑江俊明(札幌)、林雅子(東京)、藤沢彦次郎(同)の各氏。
「風景」をめぐり、まったく異なるアプローチをしているのがおもしろい。
箱山さんは5人の中で唯一の写真。
団地の庭や菜園を撮った、横位置のカラー作品が並んでいる。
雑然としているのかあるいは美しいのか、また、パーソナルなものなのか集団的な作業の結果なのか、はっきりしないのがおもしろい。
団地をとりまく風景は、とりわけ日本的なものといえるのかもしれない。
林雅子さんは、早大で文化人類学を学び、その後に絵画の道に進んだ、ちょっとユニークな経歴の持ち主。
ご本人のサイトには
とある。
自然そのものを描くのではなく、いったん再構成して、その中にひそむ規則性や法則などを抽出しようとしているようだ。
この、どこかドイツロマン派的なアプローチは、ともするとロジャー・ディーンのレコードジャケットなどを思わせるので、ああ、白濱さんは好きだよな~、と思う。
(そういう片付け方はあんまり良くないですけど)
藤沢彦次郎さんは、暗闇に光が明滅する風景のような小品。
夜の都市のような、どこか甘やかで、おしゃれな感じが漂う。
あるいは、ノスタルジックとかメルヘン的という解釈もできるだろう。
白濱さんは、若い頃はまだ日本経済が活気に満ちていたので、世代的に、こういう感覚に自然と惹かれるものがあるのかもしれない(また、安直な片付け方だよな…)。
もっとも、筆者はその半面、どこか孤独でさびしげな感覚も伝わってくるように思った。
都会の夜といえば、華やかではあるが、エドワード・ホッパーの絵のような一面も持ち合わせている。
華やかさと寂しさは、裏表なのだ。
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2階に上ると、白濱さんの絵が目に入る。
今回は、ほかの人に「あなたの理想郷の風景を教えてください」と問いかけ、その言葉をもとに、白濱さんが絵を描いたもの。
たとえば、森の中に一軒家があり、庭のテーブルにはアコーディオンと本が置いてある―という言葉から、このような絵になったのだろうけど、当然のことながらことばとイメージの間には「ずれ」があるわけで、おそらくその「ずれ」が絵のおもしろみになっているのではないだろうか。
つぎの画像も白濱さん。
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近年めざましい勢いで制作と発表を続け、金属による立体から絵画へと活動の範囲を広げている畑江俊明さんの絵も2階に展示されている。
今回の出品作はすべて正方形で、黒い明確な輪郭線で明快な色面を区切った、シンプルな絵柄だ。デザイナーらしい、構図の巧みさが光る。
画像は右から
「草原の家 meadow house」
「風の丘に on a windy hill」
「朝日の丘 sunrise hill」
「岬へ続く道 the way to the fort」。
ほかに
「森へ続く道 road to the forest」
「飛行機雲の下で under the contrail」
「海に浮かぶ月 moon floating on the sea」
「氷の海辺 ice seaside」
「夕陽の街 sunset city」
「浮かれ街あたり at a joy place」
「十字路で at the crossroad」
「階段の上に在る家 house on the stairs」
というわけで、家やマチを描いた絵も多い。
会場で配っていた小冊子には、それぞれの作品に短い詩のようなテキストが附され、印刷されていた。
たとえば「草原の家」には
「風の丘に」には
グラデーションのない明るい色の組み合わせは、だれの胸の奥にもある理想郷の風景のようでもある。
そうはいっても、こういうくせのない美しさから逸脱していく風景もまた、人の心のなかにはあるのだろう。
もっとも、この会場のある十弗地区は、十勝らしく小麦やイモの畑がどこまでも広がり、風景についてのちまちました議論など吹き飛んでしまいそうなおおらかな美に満ちているのだった。
たぶん、こういうところで考える風景論と、都市の人間が考察する風景論とでは、根本のところが違うのではないかという気がしてくる。
なお、下の方に、十弗駅からの所要時間を書いておいたが、筆者はレンタカーで行った。
案の定、広大な畑作地帯の中で道に迷い、白濱さんに迎えに来てもらった。お手数をおかけしました。
十弗から池田までは車で10分ほどと近い。池田は特急も止まるし、駅前にタクシーもとまっているだろうから、ここを拠点にしたほうが分かりやすいかもしれない。
最近、JR北海道は普通列車の本数を減らしており、特急の止まらない駅を含む旅程を組むのが難しくなってきている。
2019年7月13日(土)~9月2日(月)の土日月、午前11時~午後5時
ArtLabo 北舟(十勝管内豊頃町十弗357)
□白濱さん公式サイトhttps://ameblo.jp/shirahamamasaya/
□Art Labo 北舟/NorthernArk https://mmfalabo.exblog.jp/
□ツイッター@shirahamamasaya
■Retro Machinism_暖かな機械 (2019)
■Post 3.11 in Sapporo 〜沈み行く記憶の淵で (2019)
■ 塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展 (2018)
■(4)ゲストハウス×ギャラリープロジェクト Sapporo ARTrip「アートは旅の入り口」―最終日に行った会場のこと
■裏物語 ヘンゼルとグレーテル ー帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト
■「北風太陽神」ー防風林アートプロジェクト
□林雅子 http://www.masakohayashi.info/
□ワークショップ・マスタード
■New Point vol.15 (2019)=畑江さん出品、画像なし
■つながろう2018 TIME AXIS 時間軸
■畑江俊明個展 on the line, at the surface 線と面の上での[デキゴト] (2018年3月)
■畑江俊明個展 swinging with…/揺れるモノたちと… (2017年3月)
■つながろう2016 Hard/Soft
■Six in October (2013)
・JR根室線「十弗駅」から約3.3キロ、徒歩42分
この、道内屈指の「到達困難ギャラリー(笑)」に、7月末にようやく行くことができた。
白濱さんは作家だが、展覧会オルガナイザーとしての活躍もめざましい。
ことし3月、本郷新記念札幌彫刻美術館で開いた「Post 3.11 in Sapporo 〜沈み行く記憶の淵で」は白眉の企画だったが、道外の中堅作家もどんどん呼んでくるのが特徴で、彼のおかげで北海道のアートファンはいろいろな作家の作品を見る機会が格段に増えているのだから、これは感謝するしかない。
今回のテーマは理想郷の風景。
白濱さんは最近、風景について考察したり、展覧会を企画したりしている。
筆者としても「風景」は非常に興味のあるテーマで、最近も松田政男や港千尋の本を読んだりしたが、考察を深めたり、文章をものしたりする時間がなかなかない。
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出品作家は、白濱さんのほか、箱山直子(横浜)、畑江俊明(札幌)、林雅子(東京)、藤沢彦次郎(同)の各氏。
「風景」をめぐり、まったく異なるアプローチをしているのがおもしろい。
箱山さんは5人の中で唯一の写真。
団地の庭や菜園を撮った、横位置のカラー作品が並んでいる。
雑然としているのかあるいは美しいのか、また、パーソナルなものなのか集団的な作業の結果なのか、はっきりしないのがおもしろい。
団地をとりまく風景は、とりわけ日本的なものといえるのかもしれない。
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ご本人のサイトには
近年の作品では、天体、地形、岩石、鉱物、植物等に関連する造形や公式、図形といった 表象を再構成し、人的作為を超えた普遍的な法則性及びそれらの有機的な繋がりを浮かび上がらせることを試みている。
とある。
自然そのものを描くのではなく、いったん再構成して、その中にひそむ規則性や法則などを抽出しようとしているようだ。
この、どこかドイツロマン派的なアプローチは、ともするとロジャー・ディーンのレコードジャケットなどを思わせるので、ああ、白濱さんは好きだよな~、と思う。
(そういう片付け方はあんまり良くないですけど)
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夜の都市のような、どこか甘やかで、おしゃれな感じが漂う。
あるいは、ノスタルジックとかメルヘン的という解釈もできるだろう。
白濱さんは、若い頃はまだ日本経済が活気に満ちていたので、世代的に、こういう感覚に自然と惹かれるものがあるのかもしれない(また、安直な片付け方だよな…)。
もっとも、筆者はその半面、どこか孤独でさびしげな感覚も伝わってくるように思った。
都会の夜といえば、華やかではあるが、エドワード・ホッパーの絵のような一面も持ち合わせている。
華やかさと寂しさは、裏表なのだ。
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2階に上ると、白濱さんの絵が目に入る。
今回は、ほかの人に「あなたの理想郷の風景を教えてください」と問いかけ、その言葉をもとに、白濱さんが絵を描いたもの。
たとえば、森の中に一軒家があり、庭のテーブルにはアコーディオンと本が置いてある―という言葉から、このような絵になったのだろうけど、当然のことながらことばとイメージの間には「ずれ」があるわけで、おそらくその「ずれ」が絵のおもしろみになっているのではないだろうか。
つぎの画像も白濱さん。
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今回の出品作はすべて正方形で、黒い明確な輪郭線で明快な色面を区切った、シンプルな絵柄だ。デザイナーらしい、構図の巧みさが光る。
画像は右から
「草原の家 meadow house」
「風の丘に on a windy hill」
「朝日の丘 sunrise hill」
「岬へ続く道 the way to the fort」。
ほかに
「森へ続く道 road to the forest」
「飛行機雲の下で under the contrail」
「海に浮かぶ月 moon floating on the sea」
「氷の海辺 ice seaside」
「夕陽の街 sunset city」
「浮かれ街あたり at a joy place」
「十字路で at the crossroad」
「階段の上に在る家 house on the stairs」
というわけで、家やマチを描いた絵も多い。
会場で配っていた小冊子には、それぞれの作品に短い詩のようなテキストが附され、印刷されていた。
たとえば「草原の家」には
昔、旅をしていた頃
北海道と似た風景に出会うと、ほっとした。
緑の濃さが、そう思わせたような気がする。
風の香りさえ、何だか懐かしいのだ。
「風の丘に」には
風の激しい夜、目を覚まし灯りを点ける。
しばし、外の風景を見渡し
また眠りに落ちる。
朝、目を覚ますと
風はまだ、吹き荒んでいる。
グラデーションのない明るい色の組み合わせは、だれの胸の奥にもある理想郷の風景のようでもある。
そうはいっても、こういうくせのない美しさから逸脱していく風景もまた、人の心のなかにはあるのだろう。
もっとも、この会場のある十弗地区は、十勝らしく小麦やイモの畑がどこまでも広がり、風景についてのちまちました議論など吹き飛んでしまいそうなおおらかな美に満ちているのだった。
たぶん、こういうところで考える風景論と、都市の人間が考察する風景論とでは、根本のところが違うのではないかという気がしてくる。
なお、下の方に、十弗駅からの所要時間を書いておいたが、筆者はレンタカーで行った。
案の定、広大な畑作地帯の中で道に迷い、白濱さんに迎えに来てもらった。お手数をおかけしました。
十弗から池田までは車で10分ほどと近い。池田は特急も止まるし、駅前にタクシーもとまっているだろうから、ここを拠点にしたほうが分かりやすいかもしれない。
最近、JR北海道は普通列車の本数を減らしており、特急の止まらない駅を含む旅程を組むのが難しくなってきている。
2019年7月13日(土)~9月2日(月)の土日月、午前11時~午後5時
ArtLabo 北舟(十勝管内豊頃町十弗357)
□白濱さん公式サイトhttps://ameblo.jp/shirahamamasaya/
□Art Labo 北舟/NorthernArk https://mmfalabo.exblog.jp/
□ツイッター@shirahamamasaya
■Retro Machinism_暖かな機械 (2019)
■Post 3.11 in Sapporo 〜沈み行く記憶の淵で (2019)
■ 塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展 (2018)
■(4)ゲストハウス×ギャラリープロジェクト Sapporo ARTrip「アートは旅の入り口」―最終日に行った会場のこと
■裏物語 ヘンゼルとグレーテル ー帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト
■「北風太陽神」ー防風林アートプロジェクト
□林雅子 http://www.masakohayashi.info/
□ワークショップ・マスタード
■New Point vol.15 (2019)=畑江さん出品、画像なし
■つながろう2018 TIME AXIS 時間軸
■畑江俊明個展 on the line, at the surface 線と面の上での[デキゴト] (2018年3月)
■畑江俊明個展 swinging with…/揺れるモノたちと… (2017年3月)
■つながろう2016 Hard/Soft
■Six in October (2013)
・JR根室線「十弗駅」から約3.3キロ、徒歩42分