なぜ各大学に写真部・サークルがあるのか。
或る大学写真部の出身でいまはカメラマンとして活動している男性の答えは、明快だった。
「暗室が必要だったから」
デジタルカメラ自体は20世紀末から普及が始まっていたが、道内でプロやセミプロ級のカメラがいっせいにフィルムから置き換わったのは2005年前後である。
大学写真部も例外ではない。
2003年ごろはモノクロフィルムが多かったが、その5年後にはほとんどデジタルに置き換わっていた。
つまり、それまではずっとモノクロフィルムを使っていたので、暗室は欠かせなかったのだ。
ではなぜ、カラーのリバーサルフィルムやポジフィルムではなく、モノクロフィルムが主流だったのか。
当時(いまから20年近く前)の学生の答えも明確だった。
「安いから」
カラーフィルムよりモノクロフィルムのほうが安価だったし、モノクロは自前で現像や焼き付けができた。
フォトレタッチソフトのない時代、暗室で露出不足をカバーしたり、画面の明るさを修整したりするのは、普通のことだった。
カラーは、処理を専門店に頼まなくてはならない。普通のサイズにプリントするならそうでもないが、写真展に陳列するような大きなサイズにプリントしようとすると、かなり高くつく。
自前でプリントする暗室を持たない社会人アマチュアはともかく、学生は、キャンパス内に部室があり、暗室が備えられていることが多かった。必然的に、学生の手がける写真はモノクロが中心になったのだ。
逆に言うと、デジタル化が進むと、写真をやるのに写真部に集まる必要性がなくなるということでもある。
同時に、貸しギャラリーを借りてプリントを数点並べるという発表方法にこだわる意味も薄れる。個人でインスタグラムなどで発表してもかまわないからだ。
そして、これは個人的な見方の話になってしまうが、筆者は1990年代半ばから21世紀初めの数年はかなり熱心に大学写真部の展示を見ていたが、ゼロ年代半ばからはすこし遠ざかってしまった。
ひとことでいうと、かつてほどのおもしろさを感じられなくなってしまったのだ。
それは、モノクロフィルムが減ってデジタルが全盛期を迎えたのと、時期的に一致する。
もちろん、おもしろい写真を撮る人がいないわけではない。
ただ、学生が趣味でやっていることに対して、構図が悪いとか、ありきたりの題材だとか、ケチをつけるのも意味は無いと思うから、そんなことはわざわざ言わない。
そんなわけで今回、北大写真部が札幌市資料館のミニギャラリー全6室を借り切って開いた展覧会も、それほど期待しないで出かけたのだが、思いのほか楽しかった。
6室のうち1室はOB・OG展で、ここは技術的な水準が高い。三浦さんはモノクロプリントだと思うが、古い窓とそのむこうに見える冬の森をとらえて間然するところがない。
上幌加内駅(深名線)の跡やキハ22系ディーゼルカーなどをカラー6枚でとらえた平田さんの作品は、おもしろがって撮っている廃墟系の写真とは違い、北海道の地方に抱く愛惜の情が伝わってくる(念のために言っておきますが、廃墟系がおしなべてダメだということではありません)。
次の部屋は鉄道写真が集まっていた。
ここも粒ぞろいで、信州赤沢森林鉄道が観光用とはいえ現役で走っているとは知らなかったし、水田やディーゼルカーのある風景を超望遠でとらえた「描」シリーズ、大阪環状線や奈良線、和田岬線などでなお頑張って走る旧型国電をとらえた11枚組み「国電を追って」などがおもしろい。筆者が若い頃は、103系などはふつうに山手線を走っていたものだが(ただし、この展示では、そういう専門用語はいっさい使っていない)…。
鉄道写真の良さは、車輛や駅だけでなく、いろんな風景や人々の営みまでがフレームに収まることだと思う。
このほかの部屋もそれぞれ「フィルム展」「ゆかし」などと、テーマを設定していた。
目を引いたのが、Yuki L. Nissato さんの「顕現/到来」と題したカラー写真。いわゆる、風景と星空を1枚におさめた「星景写真」。一般的に「星景写真」は、夜空には雲がかからず星がはっきりと見える作品が良いとされていると思うのだが、この写真は流れる雲のすき間から夏の銀河やいるか座が見え、大地や防風林とのコラボがむしろダイナミックに感じられる。神々しささえ感じる風景だ。
もうひとつ。横井さんの「北のバルコニーより」。八角形あずまやが緑の果樹園らしき林の中にたっている、なんということのない風景スナップなのだが、とても幸福さが感じられる。自分でも理由がよくわからないが…。
身も蓋もないことをいえば、数が多ければ良い作品も多くなるし、バラエティーにも富むということはいえる。
ただし、それだけではなく、北大写真部の場合は、テーマなどをよく考えて撮影している人が、他の大学よりも多いように感じる写真展だった。
2018年2月14日(水)~18日(日)午前9時~午後7時
札幌市資料館(中央区大通西13)
□北海道大学写真部 http://www.geocities.jp/hokudai_photo/index.html
■「4人展」北大写真部2006年修了生 (2007)
■原田玄輝・斎藤市輔・宮本朋美写真展(07年3月)
■北海道大学写真部展(06年6月)
■05年11月の4人展(画像あり)
■Third-EX(04年4月)
■齊藤市輔写真展・原田玄輝写真展(04年3月、画像あり)
■Sスクール写真展(04年1-2月)
■-北大の情景- 北海道大学写真部写真展(03年11月)
■北海道大学写真部写真展(03年9月)
■北海道大学写真部・水産学部写真部 新歓合同展(03年5月)
■写真展「三月4人展」(03年3月)
■加藤・斎藤・原田 3人展(02年11月)
■写真展EX(02年4月)
或る大学写真部の出身でいまはカメラマンとして活動している男性の答えは、明快だった。
「暗室が必要だったから」
デジタルカメラ自体は20世紀末から普及が始まっていたが、道内でプロやセミプロ級のカメラがいっせいにフィルムから置き換わったのは2005年前後である。
大学写真部も例外ではない。
2003年ごろはモノクロフィルムが多かったが、その5年後にはほとんどデジタルに置き換わっていた。
つまり、それまではずっとモノクロフィルムを使っていたので、暗室は欠かせなかったのだ。
ではなぜ、カラーのリバーサルフィルムやポジフィルムではなく、モノクロフィルムが主流だったのか。
当時(いまから20年近く前)の学生の答えも明確だった。
「安いから」
カラーフィルムよりモノクロフィルムのほうが安価だったし、モノクロは自前で現像や焼き付けができた。
フォトレタッチソフトのない時代、暗室で露出不足をカバーしたり、画面の明るさを修整したりするのは、普通のことだった。
カラーは、処理を専門店に頼まなくてはならない。普通のサイズにプリントするならそうでもないが、写真展に陳列するような大きなサイズにプリントしようとすると、かなり高くつく。
自前でプリントする暗室を持たない社会人アマチュアはともかく、学生は、キャンパス内に部室があり、暗室が備えられていることが多かった。必然的に、学生の手がける写真はモノクロが中心になったのだ。
逆に言うと、デジタル化が進むと、写真をやるのに写真部に集まる必要性がなくなるということでもある。
同時に、貸しギャラリーを借りてプリントを数点並べるという発表方法にこだわる意味も薄れる。個人でインスタグラムなどで発表してもかまわないからだ。
そして、これは個人的な見方の話になってしまうが、筆者は1990年代半ばから21世紀初めの数年はかなり熱心に大学写真部の展示を見ていたが、ゼロ年代半ばからはすこし遠ざかってしまった。
ひとことでいうと、かつてほどのおもしろさを感じられなくなってしまったのだ。
それは、モノクロフィルムが減ってデジタルが全盛期を迎えたのと、時期的に一致する。
もちろん、おもしろい写真を撮る人がいないわけではない。
ただ、学生が趣味でやっていることに対して、構図が悪いとか、ありきたりの題材だとか、ケチをつけるのも意味は無いと思うから、そんなことはわざわざ言わない。
そんなわけで今回、北大写真部が札幌市資料館のミニギャラリー全6室を借り切って開いた展覧会も、それほど期待しないで出かけたのだが、思いのほか楽しかった。
6室のうち1室はOB・OG展で、ここは技術的な水準が高い。三浦さんはモノクロプリントだと思うが、古い窓とそのむこうに見える冬の森をとらえて間然するところがない。
上幌加内駅(深名線)の跡やキハ22系ディーゼルカーなどをカラー6枚でとらえた平田さんの作品は、おもしろがって撮っている廃墟系の写真とは違い、北海道の地方に抱く愛惜の情が伝わってくる(念のために言っておきますが、廃墟系がおしなべてダメだということではありません)。
次の部屋は鉄道写真が集まっていた。
ここも粒ぞろいで、信州赤沢森林鉄道が観光用とはいえ現役で走っているとは知らなかったし、水田やディーゼルカーのある風景を超望遠でとらえた「描」シリーズ、大阪環状線や奈良線、和田岬線などでなお頑張って走る旧型国電をとらえた11枚組み「国電を追って」などがおもしろい。筆者が若い頃は、103系などはふつうに山手線を走っていたものだが(ただし、この展示では、そういう専門用語はいっさい使っていない)…。
鉄道写真の良さは、車輛や駅だけでなく、いろんな風景や人々の営みまでがフレームに収まることだと思う。
このほかの部屋もそれぞれ「フィルム展」「ゆかし」などと、テーマを設定していた。
目を引いたのが、Yuki L. Nissato さんの「顕現/到来」と題したカラー写真。いわゆる、風景と星空を1枚におさめた「星景写真」。一般的に「星景写真」は、夜空には雲がかからず星がはっきりと見える作品が良いとされていると思うのだが、この写真は流れる雲のすき間から夏の銀河やいるか座が見え、大地や防風林とのコラボがむしろダイナミックに感じられる。神々しささえ感じる風景だ。
もうひとつ。横井さんの「北のバルコニーより」。八角形あずまやが緑の果樹園らしき林の中にたっている、なんということのない風景スナップなのだが、とても幸福さが感じられる。自分でも理由がよくわからないが…。
身も蓋もないことをいえば、数が多ければ良い作品も多くなるし、バラエティーにも富むということはいえる。
ただし、それだけではなく、北大写真部の場合は、テーマなどをよく考えて撮影している人が、他の大学よりも多いように感じる写真展だった。
2018年2月14日(水)~18日(日)午前9時~午後7時
札幌市資料館(中央区大通西13)
□北海道大学写真部 http://www.geocities.jp/hokudai_photo/index.html
■「4人展」北大写真部2006年修了生 (2007)
■原田玄輝・斎藤市輔・宮本朋美写真展(07年3月)
■北海道大学写真部展(06年6月)
■05年11月の4人展(画像あり)
■Third-EX(04年4月)
■齊藤市輔写真展・原田玄輝写真展(04年3月、画像あり)
■Sスクール写真展(04年1-2月)
■-北大の情景- 北海道大学写真部写真展(03年11月)
■北海道大学写真部写真展(03年9月)
■北海道大学写真部・水産学部写真部 新歓合同展(03年5月)
■写真展「三月4人展」(03年3月)
■加藤・斎藤・原田 3人展(02年11月)
■写真展EX(02年4月)