美術館や博物館に行くのが好きな人は多いでしょうが、それはみな、展示されている物に興味があるからだと思っていました。でも、こんな楽しみ方もあるんですね。
ミュージアムショップなどで販売している数々のグッズを、長く愛好・研究している北海道在住の大澤夏美さんによる初の著書は、全国各地の美術館、資料館、博物館、水族館、動物園、昆虫館、文学館など49の施設のユニークなグッズを紹介した楽しい一冊。ただのカタログではなく、各館の担当者などへのインタビューが12編もあり、著者とグッズ担当者の熱意がぐいぐいと伝わってきます。
道内からは、知床国立公園知床羅臼ビジターセンターと渡辺淳一文学館、北海道大学総合博物館の3カ所が紹介されていますが、インタビューされているのはアーティゾン美術館や地質標本館(茨城県つくば市)など道外の施設ばかり。大澤さんはもちろん展示も見ているのでしょうが、これだけの施設を回ってグッズをさがし、買い求めているということには、驚くばかりです。しかも、いわゆる「美術館」は3分の1程度で、カバーしている範囲の広さもすごいです。
この熱さは、いったい何に由来するんでしょうかね。
ベタなまとめ方になってしまいますが、これは
「愛」
としか言いようがないのではないかと思うんです。
「はじめに」からして大澤さんの意気込みはびしばしと感じます。
「ミュージアムグッズやショップは、博物館のエンドロールだ」
「ミュージアムグッズはただの雑貨ではありません。博物館での思い出を持ち帰るための大切なツールであり、博物館の社会教育施設としての使命を伝える手段でもあります」
そして、その「愛」は、たとえば中津市歴史博物館(大分市)の「石垣琥珀糖」をめぐる開発秘話からも分かるとおり、大澤さんだけではなくミュージアム側の人々の愛でもあるんですよね。すんでのところで取り壊されるところだったお城の石垣と、こだわりの菓子を完成させるまでの苦労をめぐるインタビューなどには、感心させられっぱなしです。
インタビューに登場するのは、学芸員(キュレーター)ではない人が多いのですが、研究に忙しいはずのキュレーターさんたちがグッズ開発・販売には意外と協力的という面も浮かび上がってきます。
美術館のショップに行っても図録やポストカード、複製あたりを見てオシマイという筆者のような人間にとっては
「へ~、こんなケッタイなグッズがあるのか」
と、とにかく興味深い一冊でした。
絶賛ですが、ちょっと気になったこと。
国立科学博物館(東京・上野公園)の「豆皿 トロートン天体望遠鏡」の文中で「星座の和名」とありますが、「和名」というより中国伝来ではないかと思います。野尻抱影氏らの研究によると、星の和名はたくさん採集されていますが、星と星をつないでなにかの形に見立てるという独自の星座の文化は、日本ではあまりみられないようです。手元に本がないので違ったらごめんなさいですが、ここに載っている星座らしき漢字の名前は、司馬遷「史記」に拠るのではないでしょうか。
もうひとつ。これは、大澤さんのせいではないのですが、新宿区立漱石山房記念館が出している活版印刷メモ帳にはいささか驚きました。グッズそのものはすてきなのですが、表紙に印刷されている「夢十夜」の文章の漢字が新旧混在しているのです。正字(旧字体)が多いなかで、「花」「遠」「顔」は戦後の新字体で印字されています。印刷屋さんが漢字を知らないのは仕方ないとはいえ、文学館はきちんとチェックしてほしかったです。
2021年7月24日発行、140ページ。
国書刊行会。
定価1800円(税込み1980円)。
帯には藤原みなみさんの言葉が書いてあります。
サイト「百物気」 http://momonoke.wpblog.jp/
Twitter @momonokeMuseum
Instagram momonoke.museum/
https://www.kokusho.co.jp/np/index.html
ミュージアムショップなどで販売している数々のグッズを、長く愛好・研究している北海道在住の大澤夏美さんによる初の著書は、全国各地の美術館、資料館、博物館、水族館、動物園、昆虫館、文学館など49の施設のユニークなグッズを紹介した楽しい一冊。ただのカタログではなく、各館の担当者などへのインタビューが12編もあり、著者とグッズ担当者の熱意がぐいぐいと伝わってきます。
道内からは、知床国立公園知床羅臼ビジターセンターと渡辺淳一文学館、北海道大学総合博物館の3カ所が紹介されていますが、インタビューされているのはアーティゾン美術館や地質標本館(茨城県つくば市)など道外の施設ばかり。大澤さんはもちろん展示も見ているのでしょうが、これだけの施設を回ってグッズをさがし、買い求めているということには、驚くばかりです。しかも、いわゆる「美術館」は3分の1程度で、カバーしている範囲の広さもすごいです。
この熱さは、いったい何に由来するんでしょうかね。
ベタなまとめ方になってしまいますが、これは
「愛」
としか言いようがないのではないかと思うんです。
「はじめに」からして大澤さんの意気込みはびしばしと感じます。
「ミュージアムグッズやショップは、博物館のエンドロールだ」
「ミュージアムグッズはただの雑貨ではありません。博物館での思い出を持ち帰るための大切なツールであり、博物館の社会教育施設としての使命を伝える手段でもあります」
そして、その「愛」は、たとえば中津市歴史博物館(大分市)の「石垣琥珀糖」をめぐる開発秘話からも分かるとおり、大澤さんだけではなくミュージアム側の人々の愛でもあるんですよね。すんでのところで取り壊されるところだったお城の石垣と、こだわりの菓子を完成させるまでの苦労をめぐるインタビューなどには、感心させられっぱなしです。
インタビューに登場するのは、学芸員(キュレーター)ではない人が多いのですが、研究に忙しいはずのキュレーターさんたちがグッズ開発・販売には意外と協力的という面も浮かび上がってきます。
美術館のショップに行っても図録やポストカード、複製あたりを見てオシマイという筆者のような人間にとっては
「へ~、こんなケッタイなグッズがあるのか」
と、とにかく興味深い一冊でした。
絶賛ですが、ちょっと気になったこと。
国立科学博物館(東京・上野公園)の「豆皿 トロートン天体望遠鏡」の文中で「星座の和名」とありますが、「和名」というより中国伝来ではないかと思います。野尻抱影氏らの研究によると、星の和名はたくさん採集されていますが、星と星をつないでなにかの形に見立てるという独自の星座の文化は、日本ではあまりみられないようです。手元に本がないので違ったらごめんなさいですが、ここに載っている星座らしき漢字の名前は、司馬遷「史記」に拠るのではないでしょうか。
もうひとつ。これは、大澤さんのせいではないのですが、新宿区立漱石山房記念館が出している活版印刷メモ帳にはいささか驚きました。グッズそのものはすてきなのですが、表紙に印刷されている「夢十夜」の文章の漢字が新旧混在しているのです。正字(旧字体)が多いなかで、「花」「遠」「顔」は戦後の新字体で印字されています。印刷屋さんが漢字を知らないのは仕方ないとはいえ、文学館はきちんとチェックしてほしかったです。
2021年7月24日発行、140ページ。
国書刊行会。
定価1800円(税込み1980円)。
帯には藤原みなみさんの言葉が書いてあります。
サイト「百物気」 http://momonoke.wpblog.jp/
Twitter @momonokeMuseum
Instagram momonoke.museum/
https://www.kokusho.co.jp/np/index.html