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■長坂有希「カムイワッカへ、そして私たちの始まりへ」 (2018年10月6~27日、札幌)

2018年10月27日 14時19分27秒 | 展覧会の紹介-現代美術
Aki Nagasaka “To the Kamuy-Wakka, To the Spring of Eukaryotes”

 カムイワッカは、知床半島にある滝の名。
 「知床」の語源がアイヌ語の「地の果て」だと言われているとおり、ものすごく行きづらいところである。

 筆者はその手前の知床五湖までしか行ったことはないが、オホーツク管内斜里町の市街地(ここも確かに遠いが、列車や車などでふつうに到達できる)から車で30分余り走って、ようやく知床観光の拠点である斜里町ウトロ地区に着き、そこをさらに超えて半島の先を目指すと、空気感が一変したことをいまでもよく覚えている。
 あまり客観性のない話かもしれないが、ウトロの先は、人間の領地ではなく、神や大自然の領分であり、気軽に侵犯してはいけないような、そんな峻厳な気持ちになってくるのだ。
 もちろん、ウトロから先にも舗装道路は走っている。しかし、平地のほとんどない谷間やがけの間を、なんとか通っているという感じのところが少なくない。
 知床自然センターの駐車場などあちこちに野生のシカが歩き回っているし、クマを目撃することもある。

 地図を見ると、カムイワッカの滝の附近が、自動車で行くことができる限界で、そこから先は普通の人が立ち入ることの難しい秘境が広がっている。

 今回の発表は、生物がいないとされてきたカムイワッカの滝に、実は原始的な生物がすんでいることを知った作者が、滝を目指して冬に訪れた際の映像と、化石や、生物をいれたフラスコとからなる、シンプルなもの。
 映像は、現地の大自然に色フィルターをつけたような写真が5枚ほど混じるが、それ以外は、えんえんと藍色に白く細い線が走るだけの、テレビ放送終了後のノイズにも似た画面が続き、それに日本語の字幕と英語の音声が重なる。したがって「美術展」というよりは、テキスト(文章)で人に伝えようとする表現だということができる。
 急いで付け加えるが、美術的な要素がほとんどないからだめだというつもりはない。むしろ、何十億年にもおよぶ生命のつながりに、あらためて思いをいたさせるという意味で、すぐれたテキストだといえるだろう。形式としては、書簡文のように、女性が西洋人の友人に呼びかけるかたちをとっている。

 作者は、生命の遠い起源をさかのぼることで、「私」の起源をも突き止めようとしているのかもしれない。

 そして、起源を探るのに、知床というのは、なんとふさわしい土地なのだろうと思う。


 最終日、トークイベントがあるそうです。詳しくは、CAI02のサイトをご覧ください。



2018年10月6日(土) ~27日(土)午後1~7時
CAI02 (札幌市中央区大通西5 昭和ビル地下2階)

www.akinagasaka.net




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