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北海道教職員美術展は、公立学校共済組合北海道支部などが主催して毎年開かれている展覧会で、絵画、彫刻、工芸、写真、書の5部門を有しています。
開始当初は丸井今井札幌本店を会場にしていたそうですが、その後、道立近代美術館にうつり、現在は札幌市民ギャラリーと、移動展1カ所というパターンになっています。
ピーク時の1990年には5部門あわせて335点の入賞・入選作があったそうですが、この数年は減少がいちじるしく、今回は計159点にとどまりました。サイズも小さいものが目立ちます。
会場で関係者の方とお話ししましたが、やはり芸術の授業時間数が減って先生の数自体が少なくなっているのが大きいとのこと。また
「昔みたいに、美術準備室で、授業のないときにじぶんの作品を制作できるような雰囲気ではない」
とのことで、世の中のせちがらい風潮は、どうやら学校現場にも及んでいるようです。
それでも筆者が足を運ぶのは、審査する側の「招待出品」がなかなか見ごたえがあるからです。すでに、写真と書をのぞく3部門は、審査される側よりする側の作品のほうが多くなっています。
まず絵画。
一般公募は、やや持ち直し、昨年の倍にあたる20点が入賞・入選しました。ただ、小品が多く、ちょっとさびしい感じは否めません。
冒頭の画像は、特選に輝いた川畑摩沙子さん(網走管内小清水町小清水中)の「遥か」。緑なす丘が連なるかなた、オレンジ色の空に、けわしい岩山がそびえたっています。
全体的に、オレンジ色が下地に塗られているようで、あたたかみを帯びています。針葉樹の林の濃い緑や広葉樹の緑も美しいです。その中で、岩山は、地平から離れて浮かんでいるように見え、講評にあるとおり、なにか精神的なものすら感じさせます。全体から受ける印象はやわらかいのに、構図的には、どこかフリードリヒのような、ドイツ・ロマン主義的な峻厳さがあるように感じられるのです。
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上の画像、右端は石川孝司さん(北見市立東陵中)「冬の駅」。
網走市の釧網線にある藻琴駅がモティーフです。この近辺にあるいくつかの駅は、オホーツク海に最も近い駅舎として知られ、併設の喫茶店からは流氷が望まれることもあるそうですが、石川さんはかなり以前からこれらの駅をじっくり写生しています。
この絵も、とりたてて目立つ特徴があるとはいえないのですが、その「じっくり」ぶりというか、作者のあたたかなまなざしが伝わってくるようで、好感が持てました。
もう1点、一般入選で気になったのが、橋本高士さん(北見市立上常呂中)「サンテグジュペリに捧ぐ」。
フランスとおぼしき外国の冬の街路がモティーフで、前景の右側には、1人乗りの小型機と、それにもたれかかって立つ男性が描かれています。彼が、「星の王子さま」「夜間飛行」で知られるフランスの作家で、飛行機の操縦中に地中海で消息を絶ったサンテグジュペリなのでしょうか。左の建物の壁には、「星の王子さま」の表紙の絵もあしらわれています(この絵はサンテグジュペリ自らの手になるものです)。
全体的な色調が薄いことは、むしろこの絵の魅力だと思いますが、塗りが薄くてアタリの線が見えているのは残念でした。
奥に見えるのは、招待作品の、板谷諭使さん(東川養護学校)「月の光を浴びながら」。
全道展会員でもある板谷さんは毎年、ふしぎなムードの絵を出品しています。
今回は、月明かりの浅瀬が舞台。背後には、茶色い鯨の尾が天を指し、右側には女性を乗せた白馬がたたずんでいます。手前には小さな舟が浮かび、馬の左右には、紫の小さな炎を頂上につけた細いたいまつが立っています。
前景左には、白いワンピースのような服を着た女性が立っています。彼女は、手や、腰から下が水に浸っているのに対し、馬はひざから上が水面から出ており、水の深さにまったく整合性がありません(そもそも、馬のひづめを隠すほどの浅瀬であれば、巨大な鯨が水面下にいるのは、無理です)。
近年の板谷さんの絵には文字が挿入されているのも特徴で、今回は
Take a walk in the bright enlight.
と書いてあります。
不可思議で妖しい世界です。
ほかに、招待作品でオヤっと思ったのは、山形弘枝さん(函館市立深堀小)「山岳都市」。
山形さんといえば、不思議な怪鳥と、中世欧洲とも見える夜の街や城砦などが登場する独特の絵なのですが、今回は抽象画です。
藍色の地に、オレンジや緑を帯びた木の幹のような太い幅の面が縦に伸び、その中に、おびただしい正方形や円が点在し、直線が道路地図のようにひかれています。円は、絵の具のチューブをそのままキャンバスに押し付けたものだと思います。
このほか、地道にモティーフを凝視する竹津昇さん(東千歳中)「春待つ大地」や林正重さん(北海道公立学校教職員互助会)「夕照の斜里岳」など。
梅原賢伸さん(留萌管内初山別中)「道 何処へ」には、家族と風土に寄せるやさしい視線を感じます。
長くなったので、以下別項。
2009年1月9日(金)-13日(火)10:00-17:00(最終日-15:00)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
地下鉄東西線「バスセンター」駅10番出口から徒歩4分
ジェイアール北海道バス、中央バス、夕鉄バス「サッポロファクトリー」から徒歩7分(ジェイアールバスと中央バスは、札幌駅から現金のみ100円)
・地方移動展
2009年2月14日(土)-19日(木)9:00-17:00
標津町生涯学習センター「アスパル」(根室管内標津町標津1330-77)
■第38回北海道教職員美術展
■第36回北海道教職員美術展
開始当初は丸井今井札幌本店を会場にしていたそうですが、その後、道立近代美術館にうつり、現在は札幌市民ギャラリーと、移動展1カ所というパターンになっています。
ピーク時の1990年には5部門あわせて335点の入賞・入選作があったそうですが、この数年は減少がいちじるしく、今回は計159点にとどまりました。サイズも小さいものが目立ちます。
会場で関係者の方とお話ししましたが、やはり芸術の授業時間数が減って先生の数自体が少なくなっているのが大きいとのこと。また
「昔みたいに、美術準備室で、授業のないときにじぶんの作品を制作できるような雰囲気ではない」
とのことで、世の中のせちがらい風潮は、どうやら学校現場にも及んでいるようです。
それでも筆者が足を運ぶのは、審査する側の「招待出品」がなかなか見ごたえがあるからです。すでに、写真と書をのぞく3部門は、審査される側よりする側の作品のほうが多くなっています。
まず絵画。
一般公募は、やや持ち直し、昨年の倍にあたる20点が入賞・入選しました。ただ、小品が多く、ちょっとさびしい感じは否めません。
冒頭の画像は、特選に輝いた川畑摩沙子さん(網走管内小清水町小清水中)の「遥か」。緑なす丘が連なるかなた、オレンジ色の空に、けわしい岩山がそびえたっています。
全体的に、オレンジ色が下地に塗られているようで、あたたかみを帯びています。針葉樹の林の濃い緑や広葉樹の緑も美しいです。その中で、岩山は、地平から離れて浮かんでいるように見え、講評にあるとおり、なにか精神的なものすら感じさせます。全体から受ける印象はやわらかいのに、構図的には、どこかフリードリヒのような、ドイツ・ロマン主義的な峻厳さがあるように感じられるのです。
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上の画像、右端は石川孝司さん(北見市立東陵中)「冬の駅」。
網走市の釧網線にある藻琴駅がモティーフです。この近辺にあるいくつかの駅は、オホーツク海に最も近い駅舎として知られ、併設の喫茶店からは流氷が望まれることもあるそうですが、石川さんはかなり以前からこれらの駅をじっくり写生しています。
この絵も、とりたてて目立つ特徴があるとはいえないのですが、その「じっくり」ぶりというか、作者のあたたかなまなざしが伝わってくるようで、好感が持てました。
もう1点、一般入選で気になったのが、橋本高士さん(北見市立上常呂中)「サンテグジュペリに捧ぐ」。
フランスとおぼしき外国の冬の街路がモティーフで、前景の右側には、1人乗りの小型機と、それにもたれかかって立つ男性が描かれています。彼が、「星の王子さま」「夜間飛行」で知られるフランスの作家で、飛行機の操縦中に地中海で消息を絶ったサンテグジュペリなのでしょうか。左の建物の壁には、「星の王子さま」の表紙の絵もあしらわれています(この絵はサンテグジュペリ自らの手になるものです)。
全体的な色調が薄いことは、むしろこの絵の魅力だと思いますが、塗りが薄くてアタリの線が見えているのは残念でした。
奥に見えるのは、招待作品の、板谷諭使さん(東川養護学校)「月の光を浴びながら」。
全道展会員でもある板谷さんは毎年、ふしぎなムードの絵を出品しています。
今回は、月明かりの浅瀬が舞台。背後には、茶色い鯨の尾が天を指し、右側には女性を乗せた白馬がたたずんでいます。手前には小さな舟が浮かび、馬の左右には、紫の小さな炎を頂上につけた細いたいまつが立っています。
前景左には、白いワンピースのような服を着た女性が立っています。彼女は、手や、腰から下が水に浸っているのに対し、馬はひざから上が水面から出ており、水の深さにまったく整合性がありません(そもそも、馬のひづめを隠すほどの浅瀬であれば、巨大な鯨が水面下にいるのは、無理です)。
近年の板谷さんの絵には文字が挿入されているのも特徴で、今回は
Take a walk in the bright enlight.
と書いてあります。
不可思議で妖しい世界です。
ほかに、招待作品でオヤっと思ったのは、山形弘枝さん(函館市立深堀小)「山岳都市」。
山形さんといえば、不思議な怪鳥と、中世欧洲とも見える夜の街や城砦などが登場する独特の絵なのですが、今回は抽象画です。
藍色の地に、オレンジや緑を帯びた木の幹のような太い幅の面が縦に伸び、その中に、おびただしい正方形や円が点在し、直線が道路地図のようにひかれています。円は、絵の具のチューブをそのままキャンバスに押し付けたものだと思います。
このほか、地道にモティーフを凝視する竹津昇さん(東千歳中)「春待つ大地」や林正重さん(北海道公立学校教職員互助会)「夕照の斜里岳」など。
梅原賢伸さん(留萌管内初山別中)「道 何処へ」には、家族と風土に寄せるやさしい視線を感じます。
長くなったので、以下別項。
2009年1月9日(金)-13日(火)10:00-17:00(最終日-15:00)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
地下鉄東西線「バスセンター」駅10番出口から徒歩4分
ジェイアール北海道バス、中央バス、夕鉄バス「サッポロファクトリー」から徒歩7分(ジェイアールバスと中央バスは、札幌駅から現金のみ100円)
・地方移動展
2009年2月14日(土)-19日(木)9:00-17:00
標津町生涯学習センター「アスパル」(根室管内標津町標津1330-77)
■第38回北海道教職員美術展
■第36回北海道教職員美術展