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大地康雄さんは、姓は「おおち」と読み、札幌の画家。
独立美術と全道展のベテラン会員であり、いまも毎年、札幌の中心部の画廊で個展を開き続けている数少ないひとりだ。
1938年(昭和13年)生まれだが、長髪を赤っぽく染め、さっそうと歩いていく姿や、熱く絵画を論じるようすを見ていると、ことしで78歳ということがどうしても信じられない。
さすがに、乗り回していた大型のアメ車は手放して自動車運転免許は返納したとのことだが、とにかく若々しい方である。
もともと、油彩ながら、日本絵画の装飾的なところに影響された、絢爛な「人間模様シリーズ」に取り組んでいた。
この十数年は、屏風型をした半立体の支持体を自作していたが、今年から凹凸をやめて、菱形の支持体になった。このほうが、構図のおさまりが良いようだ。
「扇形だと、周囲の空間が無駄ではないかと思って。ダイヤ形というか、ひし形にするとぴたっと入るんですよ」
と大地さん。
テーマとしては2011年の個展以来、東日本大震災とその復興を掲げている。
―大震災の救世主である女神」を象徴として中央に配し、復興を祈る構図を描き、自然災害に警鐘を鳴らしたい。
扇形を包み込むひし形は「未来へ飛び立とうとする希望」を与えてくれることを願っての表現。
画家はそんな文章を掲げている。
ただし、それを直接的に絵の中に表現しているわけではないし、あんまりそっちに引きずられて「社会派」として作品をとらえても、画家の真価は見えてこないのではないかと、筆者は思う。
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何枚も描くと「よし、何とかいけそうだ」とひとりごちた。
大地さんは後志管内岩内町の出身だが、同郷の画家で道展会員の佐藤潤子さんから示唆を受けて、これからの作品の構図をどうするか、いろいろと考えをめぐらせていたという。
その意欲にまずもって感嘆したが、それらの素描をちらっと見ると、やはり横長のひし形と、横たわる裸婦のようなかたちが描かれてあった。
筆者は考えた。
絵描きという存在は、目や脳で制作しているようにみえて、実はかなりの部分、手で描いているのではないか、と。
ピアニストが「次はなんの音だったっけ」と、思い出そうとしたり、楽譜を見たりしていては、演奏ができないのと同様に、絵描きはまず「手が動く」のではないか、ということをあらためて実感したのだ。
昨年の個展の会場で、震災に話が及んださい、筆者は
「もし復興ということを強調したいのであれば、長いこと大地さんの絵の中で横たわっていた裸婦が、むっくりと起き上がるように描くのもひとつの手ではないか」
という意味のことを提起した。
画家はいたく感心したようすで、若輩者の提案に耳を傾けてくださった。
しかし、エスキースを見ているかぎり、脚をまげて横たわる裸婦が、いわば大地さんが絵に取り組むときの所与であって、そこからでないと鉛筆は走りださないようなのだ。
もし彼の絵をはじめて目にする人がいれば、たとえば冒頭画像の「大震災の象徴(方舟の女神)」(200M変形)の、図になっている白い不定形も、横たわる人物だとわからない人もいるかもしれない。でも、抽象画だと思って、あるいは琳派を受け継ぐ21世紀絵画だと考えて、見ればそれでいいのではないだろうか。
目を引くのは、おそらく初めて登場した中央の同心円。
ジャスパー・ジョーンズの「標的」を想起させるが、大地さんのアトリエにもともとダーツの的があったという。
「叫びの響きに中心ができたように思うんだけど、どうかな?」
みたいなことを、大地さんは話していたようだ。
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こちらは「大震災からの形象(復活)」。M100号変形。
箔足が日本絵画との接点になっている。箔は、純金ではない。
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道内の風景を題材にした小品も並んでいた。
輪郭線と、分割された色面を強調した絵柄は変わっていないが、以前よりも暖色の占める割合が大きくなっているような印象がある。
こちらは、地球温暖化への意識がありそう。
大作は先に挙げた2点。あとは10号以下の小品である。
10F 復活
8F 小樽遠望(異変)
6F 積丹海岸(異変) 摩周湖 渚
4F 洞爺湖(異変) 道庁 展望 標的
SM マリンパーク祝津 郡化社会(薔薇) 小樽港遠望(赤い海) 飛翔 究極 ルーツ
0M 羊蹄山 岩内海岸(異常―赤い海) 琵琶(風) 摩周湖(夕映え) 雷電海岸 洞爺湖 花のある室内 待望 凝縮
不定形 海の幸
「海の幸」はお孫さんが拾ってきた貝殻や陶辺をコラージュにした作品。
2016年11月8日(火)~13日(日)午前10時30分~午後6時30分(最終日~午後5時)
さいとうギャラリー(札幌市中央区南1西3 ラ・ガレリア5階)
■「大地康雄の油絵」展 (2013)
【告知】“方舟シリーズ”(扇図編)「大地康雄の油絵」展 (2012)
【告知】「大地康雄の油絵」展“方舟シリーズ”編(2011)
■「大地康雄の油絵」展 “扇図絵巻”シリーズ編(2009年)
■異次元紀行シリーズ編 「大地康雄の油絵」展 (2008年)
■大地康雄の油絵展(2006年)
■2004年
■2003年(画像なし)
■2002年
■大地康雄の油絵展「人間模様シリーズ」(2001年)
大地さんは1938年、岩内生まれ。
60年岩手大学芸学部(現教育学部)美術専攻卒
63年 第18回全道展初入選(65、66年奨励賞、67年会友推挙、82年会員推挙)
65年 全道勤労者美術展で水産会長賞(札幌市民会館)
65年 第33回独立展初入選(98年新人賞、99年、00年奨励賞、01年独立賞、02年会員推挙)
70~2000年 北海道教職員美術展(74、76年奨励賞、78年特選)=札幌市民ギャラリー
81~86年 在道独立作家展=札幌時計台ギャラリー
82年~2001年 さっぽろ美術展=札幌市民ギャラリー
91年 札幌時計台文化会館美術大賞展=札幌時計台ギャラリー
91~2008年 第58、65、70、75、80回独立展北海道展=道立近代美術館
2002年 文化庁第36回現代美術選抜展推薦=道立釧路芸術館
03年 第23回日本画廊協会展=アートミュージアム・ギンザ
05年 緑陰会の指導者たち展=木田金次郎美術館
10年 輝け独立美術と神田日勝 讃=神田日勝記念美術館
個展
盛岡市自治会館 1965
岩内町公民館 1966、73。90
札幌時計台ギャラリー 1981~94(89年は3階全館で大地康雄自選展)
岩内町ホテルうきよ 1990
ギャラリーノルテ(札幌) 1995~2002
ギャラリーイセヨシ(銀座) 1996
望月画廊(銀座)97、99
兜屋画廊(銀座)98
新井画廊(銀座)2000、02
さいとうギャラリー 2000、04、14、15
シロタ画廊(銀座) 2001
大同ギャラリー 2003、06、08~13
スカイホール 2007
(2003年「屏風」編、04、05年「北の風景と人間模様」編、06~08年「異次元紀行シリーズ」、09、10年「扇図絵巻シリーズ」編、11年「方舟シリーズ」編、12、13年「大震災からの脱却」編)