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■片岡球子 本画とスケッチで探る画業のひみつ (2017年1月4日~3月20日、札幌)

2017年03月19日 01時01分01秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 道内の公立美術館は、ほんとに片岡球子が好きだよなあ。

 1997年に個展が、2003年には岩橋英遠との2人展が、道立近代美術館で開かれている。
 2010年には札幌芸術の森美術館と道立旭川美術館を巡回している。ほぼ7年おきのペースだ。

 16年から17年にかけて同館と道立近代美術館が開いた展覧会は、彼女のスケッチブックの調査分析が進んだことを受けて企画されたようだ。
 いずれにしても、こんなに頻繁に美術館で展覧会の催される美術家は、道内ではほかにいない。

 たしかに道産子の大家と呼ばれるなかでは、抜きん出た個性の持ち主であろう。
 「キャラが立つ」と言い換えてもいい。
 昨年話題になった映画「シン・ゴジラ」でも、彼女の富士の絵が会議室の壁にかけられているのが映っていたが、一瞬で「片岡球子だ!」とわかったほどだ。
 協力した画廊の名がクレジットされていたから、絵は本物であろう。

 しかし、筆者は個人的にそれほど関心はないし、これだけ同じ画家を取り上げることは裏を返せば美術館での展示の機会を失っている美術家がいるということだから、正直なところ「なんだかな~」という気もしている。
 であるから、正統的な解説は、ミュージアム新書など専門家による書籍類に任せて、どうでもいいことをいくつか書き連ねるにとどめたい。
(なお、会場には旭川美術館の展覧会図録が閲覧用として備えられていたが、道立近代美術館の図録はみあたらなかった。これは、どうなんでしょうかね)



 今回の展覧会は、院展初入選作「枇杷」から「面構」シリーズなどを経て晩年の裸婦連作まで、道立近代美術館の所蔵品を壁に並べつつ、中央の空間にはガラスケースを設置して、スケッチブックやメモなどを開いて置いている。
 したがって、スケッチブック類をのぞけば、きわめてオーソドックスな片岡球子展だといえそうだ。
 もちろん、スケッチブックはこれまであまり公開されていない、いわば楽屋裏なので、たとえば欧洲旅行でとりわけミロに感動したといった、興味深い挿話も知ることができる。

 あるページにつづられた決意を、書き写してきた。

本年度院展制作
①男性をあつかったもの 34 4/1
 男性に関する模写を出来る丈研究する

②精神的生活
 A よく眠(ママ)
 B 健全な食事
 C 人間性と云う事をたてまえとして今日の善美をあくなく追つてゆく
 D 人の裏面やみにくさは自身の心の光に照らして、消してゆくこと
 (中略)

③よく学ぶこと
 絵画
 古典の研究(書物 博物館 其の他
 英語 読書 論語

④デッサンと彫刻
 芸大 於山本教室

⑤個展準備
 あわてないで
 周到に

⑥実行力をためす
 火の中水の中もいとうことなかるべし


 勉強熱心な画家の横顔がうかがえる。

 スケッチの多くは、いわゆるマジック(太いフェルトペン)でぐいぐいと塗りつぶされており、この画家が、形の陰影などにはあまり興味を抱いていなかったことがわかる。太い輪郭線でもののかたちを明らかにするという、昔ながらの日本絵画の流儀が、そこでは生きているのだ。



 ところで、片岡球子といえば、必ずといっていいほど挙げられる語が「個性的」である。
 だが「個性的」って、そもそもなんだろう。
 というか、絵画や美術に「個性」が求められるようになったのは、人間と同様、そんなに昔のことではない。

 江戸期以前、狩野派の絵師に襖絵を依頼した武士は、それほど奇抜な絵を所望していたはずはないだろう。
 教会の壁に飾る聖母の絵を希望したキリスト教団とて同じことだ。
 ちょっと違う分野のことを言えば、現代でもアニメーターなどは、とくべつ個性的ながふうは求められていない。

 片岡球子は、絵に個性が求められるようになってからまだ年の浅い時代の画家なのではないかと思う。
 「枇杷」に続く時代の絵は、画家が教えていた横浜の小学校の子どもたちがモデルになっているが、女児たちはみな思い思いの洋装をしている。
 これは、当たり前のようでいて、じつは当たり前の話ではない。15年も前であれば、あるいは、東北の農村などであれば、はかま姿だったり、兵児帯を締めた絣を着ていたり、事情はまったく違っていたはずである。
 筆者が思い出したのはたとえば川合玉堂である。彼は西洋化する以前の日本を、郷愁を込めながら描くことができた。しかし片岡球子はまず、目の前の「日本画らしくない現実」をどう処理するか―という地点から画業を始めなくてはならなかった。画業のスタート地点に「半ば強いられたモダンさ」が存在するのは、同世代の岩橋英遠や少し年上の小倉遊亀などにも共通している。
 そこから日本的な伝統に回帰するにせよ、直線的に帰ることはもはやできない。片岡球子がスケッチブックを開いて坐り、そこから見る風景は、もはや旧来の伝統的なものではないのだ。


2017年1月4日(水)~3月20日(月)
道立近代美術館(中央区北1西17)


片岡球子展(2010)
片岡球子さん死去




・地下鉄東西線「西18丁目駅」から約390メートル、徒歩5分
・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館」から約180メートル、徒歩2~3分。
=札幌駅前ターミナル、時計台前から、手稲・小樽方面に向かうすべてのバス(都市間高速バス「おたる号」「いわない号」などを含む)が止まります。ただし北大経由は通りません

・市電「西15丁目」から約750メートル、徒歩10分

・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(桑園駅前-円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約450メートル、徒歩6分
・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(札幌駅前―長生園前)「58 北5条線」(札幌駅前―琴似営業所前)の「北5条西17丁目」か「開発建設部前」降車、約550メートル、徒歩7分
=札幌駅前の乗り場は、旧西武百貨店の南側

※専用の駐車場はありません。「ビッグシャイン88北1条駐車場(北1西15)」の割引あり


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