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■札幌大谷大学芸術学部美術学科 卒業制作展2025(1月22~26日、札幌)

2025年02月03日 14時16分17秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 このブログではだいぶ以前から、学生の展覧会や卒展の紹介に関しては消極的でした。

 その理由は

・他の紹介すべき展覧会の記事がたまっているのに、それどころではない

・芸術学部(学科)の学生でも数年後にはざっと9割が制作から離れており、ふつうの社会人や主婦として生活を送っている。「若気の至り」ともいえそうな過去をネット検索などで掘り出されるのも迷惑だろう

というものです。
 筆者からみて「ああ、この人は、これからもずっとなにかを作っていくだろうなあ」と思われるような人だけ、ちょこちょこと言及してきました。

 ただ、若手の展示、とりわけ卒展は、学生がそのエネルギーを目いっぱいぶつけた作品が並んでいるのですから、玉石混淆とはいえ、おもしろくないはずがありません。
 また、以前から
「北海道には美大がない」
みたいな言説がくすぶっています。道内に芸術系の単科大学がないのは事実ですが、芸術系の学部は複数あり、大学や専門学校の学生や卒業生が多数活躍しています。へたな道外の芸術系単科大学にくらべても遜色ない成果を出していると、いえるのではないでしょうか。

 というわけで、札幌で見た卒展のレビューをこのシーズンから再開してみます。
 作品の選択などが恣意的と思われるかもしれませんが、ご海容のほどお願いいたします。
 
 まずは札幌大谷大の卒展です。
 2010年の共学化に続いて、12年には短大から4年制に移り、卒業生の活躍が幅広くなったという印象があります。
 現代アート系・映像系についても、北海道教育大の牙城を掘り崩しつつあり、近年はむしろ教育大のほうが団体公募展系の作品が目立ちます。

 
 深瀬李音「暗闇の中で夢をみる」
 大小20枚からなる平面インスタレーション。
 それぞれを赤いひもでゆるくつなぎ、絵と絵の関係性を示しています。
 中央の大きな支持体は、ひつぎを連想させる形態で、これは田村隆一による戦後を代表する詩のひとつ「立棺」を思い出さずにはいられません。
 「立棺」は、戦後の道内美術をリードし、大谷短大でも長く教壇に立った小谷博貞のテーマでもありました。
 
 
 森山美桜「どうでもいいって顔しながらずっとずっと祈っていた」
 650×324センチの油彩で、この巨大さだけでじゅうぶん称賛に値します。
 画題はおそらく祖父母など身近な人と思われ、これについては、個人的な感懐から普遍的なところへとどれぐらい広く深い世界を達成できているかは、正直、なんともいえません。
 ただ、個人的に気になったのは、それぞれのモチーフの影です。
 右上にある卓上の花や、白い飛行機には濃い影が、横たわる女性や背後の和服女性などには薄い影がそれぞれ描きこまれ、画面全体を謎めいたものにしています。
 
 
 渡辺泉「不断なうごめき」
 木彫。なぞの生き物です。
 会場で受け取った冊子には「僕といもむし」うんぬんという作者の言葉が載っていましたが、脚が4本で、あまりいもむしっぽくはありません。
 ただ、もともとの素材が持っている質感に、無理に逆らわずにひとつのかたちを作り出しているのは美質だと思いました。

 背後に見えているのは、吉田夏月「印象」「泡<無意味>」(右から)。
 
 
 山本愛莉「good memories of comfy」
 油彩やオイルパステルによる絵画を配置したインスタレーション的な作品。
 幼少時の記憶を主題にした作品はともすれば独りよがりなものになりがちですが、これは照明の用い方やモチーフの反復が効果的で、心あたたまる世界を構築できていると感じました。

 このほか、画像はありませんが、早坂夏花「想い、それでも」は、アニメキャラふうと写実的な人物像を同一画面に破綻なく同居させたユニークな試み。
 矢野ひとみ「かけら」は、油彩やドローイングによる大小の自画像その数130枚! ここまでたくさんあると、単純な自己愛とも異なるのではないかという、おどろきの感情が先に立ってきます。
 
 
 ファッション・デジタルファブリケーション専攻の3人はいずれも、「衣服とは何か、着るとはそもそもどういうことか」という根源的な問いをはらんでいて興味深かったです。
 
 
 平井柊哉「22時(もしくは18時)、終電」
 札幌市営地下鉄の最終電車が出た後、構内で点滅し、ブザーを鳴り響かせる装置を再現したもの。
 作品として成立するために、もうひとひねりが欲しかった気もしますが、再現度は相当高く、市民ギャラリーの予備展示室の天井からこの装置がつり下げられ、薄暗い空間にぽつんと存在して光と音を発している様子はなかなかの見ものでした。
 あのブザーは、まるで世界の終末のような無慈悲さで鳴り渡りますが、上り下りの全便が発車すると稼働し終わるわけですから、見聞きする機会はそう多くないと思います。
 それにしても、題の「18時」は会場が閉まる時刻なのでしょうが、「22時」は何を指しているのでしょう。あのブザーが鳴るのは0時過ぎです。


2025年1月22日(水)~26日(日)午前10時~午後6時(最終日~5時)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)

https://www.sapporo-otani.ac.jp/


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