村岡陽菜さんは1989年、橋本知恵さんは88年、いずれも札幌生まれで道教大で絵画を学び、2013年に大学院を修了している若手。
20代から30代前半の動きが見えづらい札幌のアートシーンで、このような2人展が開かれること、そして、2人が制作を続けていることを、率直にうれしく思います。
筆者が会場に行ったら、2人が自作を解説した文章と、道教大油彩画研究室の先輩にあたる小林麻美さんが「橋本絵画考」「村岡絵画考」と題した批評を寄せた紙が置かれていました。
こういうテキストがあれば、筆者がつけくわえることはあまりありませんが、かんたんに追加しておきます。
2人の画風やモティーフは、基本的には大学院生時代と変わっていません。
橋本さんは人物。村岡さんは夜景です。
…と書くと、ありきたりの具象画のように思われるかもしれませんが、独自のものがあります。
絵画に登場する人物は、多くが理想化された姿で描かれてきました。聖人や聖職者、あるいは裸婦像などがその例です。
もしくは超現実主義の絵画のように、独特の変形が施されてきました。
橋本さんの絵に描かれた人物は、家族や身近な人です。裸体ではありませんが、薄着だったり、顔のアップだったりします。プロポーション抜群の人物だったり、美男美女だったりするわけではないのです。
それを、写実的(といって、スーパーリアリズムではない)に描いているので、見ているほうは、なんだかどぎまぎします。
しかも、多くの作品で、登場人物はすましてモデルの役割を務めているのではなく、もやもやとした感情を抱いているのがわかります。
「はじまりのおわり」(2015)には、女性が4人登場して顔を寄せ合っています。
いずれも肩をあらわにして、変な表情をしています。中央の女性だけが正面に近いほうに顔を向けていますが、髪を乱し、近い距離に顔を寄せてくる3人に対して不快感を示しているようにもみえます。
「此処では喜劇ばかり」(2015)では、ほおを寄せ合う女性3人が対象です。3人は友だちどうしのように見えて、中央の女性は内心のどこかで、ほおずりをいやがっているようです。
自作解説で橋本さんはこう書いています。
これ、わかるなあ。
「親しいんだけど、でもいやな気持ちもある」
なんて顔つきは、写真で表現するのは難しいので、こういう具象絵画というのは「あり」だなあと思いました。
リュシアン・フロイドの影響はあるかもしれませんが、タッチもモティーフもすっかり別だと思います。
村岡さんの夜景というのは、函館山や横浜港ではなく、札幌や、どこなのか判然としない都市の一角です。
これも、取り上げている人がいそうで、あまりいないと思います。
タッチは、小林麻美さんが評しているとおり「現代を生きる印象派」といってさしつかえないでしょう。
おおまかには写実的ですが、強い絵の具の調子や、にじんだような色遣いは、写実絵画とも写真ともひと味違います。これは、多くが雨の夜を題材にしていて、舗装の水たまりやぬれた部分がイルミネーションを反射していることも一因だと思います。
明暗を強調したダイナミックな色彩の配置です。
題がすべて英語なのも特徴といえそうです。
「remembrance」(2015)は、タクシーが走る街路で、手前に、こちらに背中を向けた工事現場の交通整理の男が描かれています。男の振る、赤く光る棒が、画面に光跡を残しています。
「Ebb and flow」(2015)は、札幌のすすきの交叉点でしょうか。広告を塗装した赤い路面電車がカーブを曲がっているのがわかります。
一方で「stray」(2015)を見ると筆者は、パリを想起しました。なぜだかわかりませんが。
最後に、2人とも、むりに「構成画」にしようと、よけいな要素を画面に盛り込んでいないところに、好感を抱きました。
団体公募展系の絵画には、あいた空間に、ロードコーンなどを描き入れるなど、異なる性格のモティーフを盛り込むことで、絵画世界を豊穣にしようとして、かえって、没個性的な作品になっている例が散見されます。
描きたいことをしぼることで、むしろ豊かな画面を生み出していることは、良いと思いました。
出品作は次の通り。
村岡
By the door(2017) はるなちゃん(同) だるんだるん
だれがほんとを(2016) ものさし鳥の巣
此処では喜劇ばかり(2015) はじまりのおわり(同)
誰がうそだといえるでしょう(2014) スケッチ なつがとおりすぎてゆく
そこにいること(2013)
橋本
2014 : In a gush
15 : remembrance / In a gush / Ebb and flow
16 : weekend / aflare / stray / On the way / closer / Stay / Amicus
2017年1月15日(日)~29日(日)正午~午後8時(最終日~6時)、火休み
北海道教育大学アーツ&スポーツ文化複合施設 HUG (札幌市中央区北1東2 @IwaHug )
■北海道教育大学油彩画研究室 大学院生展 (2013、画像なし)
20代から30代前半の動きが見えづらい札幌のアートシーンで、このような2人展が開かれること、そして、2人が制作を続けていることを、率直にうれしく思います。
筆者が会場に行ったら、2人が自作を解説した文章と、道教大油彩画研究室の先輩にあたる小林麻美さんが「橋本絵画考」「村岡絵画考」と題した批評を寄せた紙が置かれていました。
こういうテキストがあれば、筆者がつけくわえることはあまりありませんが、かんたんに追加しておきます。
2人の画風やモティーフは、基本的には大学院生時代と変わっていません。
橋本さんは人物。村岡さんは夜景です。
…と書くと、ありきたりの具象画のように思われるかもしれませんが、独自のものがあります。
絵画に登場する人物は、多くが理想化された姿で描かれてきました。聖人や聖職者、あるいは裸婦像などがその例です。
もしくは超現実主義の絵画のように、独特の変形が施されてきました。
橋本さんの絵に描かれた人物は、家族や身近な人です。裸体ではありませんが、薄着だったり、顔のアップだったりします。プロポーション抜群の人物だったり、美男美女だったりするわけではないのです。
それを、写実的(といって、スーパーリアリズムではない)に描いているので、見ているほうは、なんだかどぎまぎします。
しかも、多くの作品で、登場人物はすましてモデルの役割を務めているのではなく、もやもやとした感情を抱いているのがわかります。
「はじまりのおわり」(2015)には、女性が4人登場して顔を寄せ合っています。
いずれも肩をあらわにして、変な表情をしています。中央の女性だけが正面に近いほうに顔を向けていますが、髪を乱し、近い距離に顔を寄せてくる3人に対して不快感を示しているようにもみえます。
「此処では喜劇ばかり」(2015)では、ほおを寄せ合う女性3人が対象です。3人は友だちどうしのように見えて、中央の女性は内心のどこかで、ほおずりをいやがっているようです。
自作解説で橋本さんはこう書いています。
道端でカーテンの開いた他人の家庭を偶然見てしまい、その家の人と目が合ってしまったような居心地の悪さのようなものを鑑賞者には感じていただけると幸いです。
これ、わかるなあ。
「親しいんだけど、でもいやな気持ちもある」
なんて顔つきは、写真で表現するのは難しいので、こういう具象絵画というのは「あり」だなあと思いました。
リュシアン・フロイドの影響はあるかもしれませんが、タッチもモティーフもすっかり別だと思います。
村岡さんの夜景というのは、函館山や横浜港ではなく、札幌や、どこなのか判然としない都市の一角です。
これも、取り上げている人がいそうで、あまりいないと思います。
タッチは、小林麻美さんが評しているとおり「現代を生きる印象派」といってさしつかえないでしょう。
おおまかには写実的ですが、強い絵の具の調子や、にじんだような色遣いは、写実絵画とも写真ともひと味違います。これは、多くが雨の夜を題材にしていて、舗装の水たまりやぬれた部分がイルミネーションを反射していることも一因だと思います。
明暗を強調したダイナミックな色彩の配置です。
題がすべて英語なのも特徴といえそうです。
「remembrance」(2015)は、タクシーが走る街路で、手前に、こちらに背中を向けた工事現場の交通整理の男が描かれています。男の振る、赤く光る棒が、画面に光跡を残しています。
「Ebb and flow」(2015)は、札幌のすすきの交叉点でしょうか。広告を塗装した赤い路面電車がカーブを曲がっているのがわかります。
一方で「stray」(2015)を見ると筆者は、パリを想起しました。なぜだかわかりませんが。
最後に、2人とも、むりに「構成画」にしようと、よけいな要素を画面に盛り込んでいないところに、好感を抱きました。
団体公募展系の絵画には、あいた空間に、ロードコーンなどを描き入れるなど、異なる性格のモティーフを盛り込むことで、絵画世界を豊穣にしようとして、かえって、没個性的な作品になっている例が散見されます。
描きたいことをしぼることで、むしろ豊かな画面を生み出していることは、良いと思いました。
出品作は次の通り。
村岡
By the door(2017) はるなちゃん(同) だるんだるん
だれがほんとを(2016) ものさし鳥の巣
此処では喜劇ばかり(2015) はじまりのおわり(同)
誰がうそだといえるでしょう(2014) スケッチ なつがとおりすぎてゆく
そこにいること(2013)
橋本
2014 : In a gush
15 : remembrance / In a gush / Ebb and flow
16 : weekend / aflare / stray / On the way / closer / Stay / Amicus
2017年1月15日(日)~29日(日)正午~午後8時(最終日~6時)、火休み
北海道教育大学アーツ&スポーツ文化複合施設 HUG (札幌市中央区北1東2 @IwaHug )
■北海道教育大学油彩画研究室 大学院生展 (2013、画像なし)