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■臼井愛子写真展「ひかりとあそぶ」 (2019年7月23日~8月1日、帯広)

2019年08月10日 16時26分45秒 | 展覧会の紹介-写真
 帯広の学校で教壇に立つかたわら、写真を本格的に習得するため美大の通信制に学んだ臼井さんの個展。
 会場は大きくふたつのセクションに分かれていて、前半は「MONBETSU 45」というピンホールカメラとフィルムで撮影したスナップのシリーズ「what to configure.」の18点、後半は銀塩プリントに絵の具を塗って仕上げる「雑巾がけ技法」による「さよならはるのひかり」と題した15点。

 ピンホールカメラによるスナップ、というのはなんだか奇妙な言い回しのように感じられるかもしれないが、実際そういう写真なのだ。飲食店にカメラを据えて、3分間など長い時間シャッターを開放する。
 壁など店のしつらえや、飲まずに卓上に置いたままのビールのジョッキはそのままで、飲み食いしたり談笑したりしている人々の姿がブレているという、なんとも不思議な画像が出現する。絞りのF値が3けたなので、隅々までピントが合っているのに、全体がどこかぼやけているような、味のある画像だ。
 一瞬ではなく、一定の長さの時間がそこに凝縮されているので、記録というよりもむしろ記憶のような感情がプリントに化石化しているのではないかという印象を抱く。
 人はお酒の席の、会話のひとつひとつを覚えているわけではないのに、あのとき誰がいてどんな雰囲気だったのかは案外よく記憶しているものだ。これら写真から伝わってくるものは、そういう記憶に近いものだと思う。
 

 一方の「さよならー」は、絵の具を塗るというからカラフルで派手な作品を勝手に予想していたら、絵の具は黒系しか使っておらず、非常に静かな感じ。
 モチーフは木の葉、カーテン、波の光、木漏れ日などで、身の回りのささやかなものに向ける視線が、やさしい。

 会場につぎのようなテキストが貼ってあった。


 心が揺れることがあれば、その瞬間の視界も取り巻く空気も匂いも音も気配も、何もかもを残しておきたいと思う。美しい現実も、悲しい現実も、とっておきたいと思う。そのママ面、写真だけでは思い出せない、失われた記憶が膨大にあると時折自覚する。

 大切にしたい記憶がたくさんあるはずなのに、時間が経つにつれ、それはどんどん形を変えていく。時間軸が前後したり。断片的に消えていってしまったりする。それでいいと思うママ面、その儚げな記憶は現在の自分を構成する大事な要因だということもわかっているつもりだ。

 撮り続けた先に何が残るのか未だによくわからないし、自分自身のための記憶であり記録なのだろうけれど、きっとこの先も撮りたいから撮り続ける。撮りたいと思える瞬間に出会いたいと思う。


 会期中に間に合わなくてすみません。 


2019年7月23日(火)~8月1日(木)午前11時~午後8時(最終日午後6時)、月曜休み
ガレリアオリザ(帯広市大通南6 ミントカフェ)

□ My view Finder yoshikousui.strikingly.com


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