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ごめんなさい、最終日になってしまいました。
あくまで筆者の見方にすぎませんが、これまでの葛西由香さんの絵は、写生に基盤を据えた日本画でありながら、どこかクスリとさせる、笑いの要素を含んだものが多かったと思います。
背景の省略、青海波などの装飾性など従来の日本画的要素も取り込みながら、細かい筆遣いで、ユーモアを表現してきました。「きのこ・たけのこ戦争」として話題になったデビュー作「明治物語」からして、そういう作品でした。
今回は少し様相が異なります。
日常生活のささやかな笑いの要素がなくなってしまったわけではありませんが、いちばん重点を置かれているのが
「孤独をたのしむ」
という姿勢のようです。
新型コロナウイルスの感染拡大で他人と接することが減っているこの2年間。しかし、画家は、それを嘆くのではなく、孤独の良さをしみじみとかみしめているのです。
つぎの作品は、画家が住んでいる高層住宅から見た札幌の夜景です。
出身の網走だと、こういう光景を見ることはないでしょう。高台からマチを見下ろすことはあっても、視界に入るのは低層の建物がほとんどであり、ビルディングがあちこちにあって果てしなく感じられるというのは、大都市独特の眺めだからです。
それでも札幌は西と南に山が連なっていて、あそこの手前で市街地は終わりというのが安心感をもたらします。
筆者は以前、サンフランシスコのギャラリーで、田舎からサンフランシスコに出てきてさびしい思いをしているという若手の絵本のような作品を見た記憶があり、それを思い出しました。
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ほかの個体には聞こえない周波数の音を出すクジラがいるそうです。
その周波数が「52ヘルツ」ということです。
これに関するドキュメンタリー映画の監督へのインタビューが「Newsweek 日本語版」にあったので、リンクを貼っておきます( 誰にも聞こえない周波数で歌う世界一孤独な「52ヘルツのクジラ」の謎)。
ただ、これは、書くかどうか迷ったのですが、「52ヘルツ」でネット検索するといちばん多くヒットするのは、町田すみこ作の小説『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)です。児童虐待をテーマにした小説で、これは誰に向けて書いているのか、そして誰がどう読んでいるのかということが、筆者には気になりました。児童虐待を受けてきた当事者にはつらすぎる話だし、また、虐待とは無縁な家庭ですくすく育ってきた多くの人は「ああ、自分はこんなひどい目にあわずに済んで良かった」と思いながらエンタメとして消費しながら読むのだとすれば、問題の切実さが伝わりにくいような気がするからです。
今回の個展タイトルが、単なる孤独の比喩であって、この小説とは関係なかったらいいなと思いました。
そう。一般論でいえば、孤独もまた良し。
本来、芸術も読書も孤独な行為です。
そこで心を豊かにして、現実社会にまたこぎ出していけばいいんですよね。
2022年1月4日(火)~2月28日(月)午前11時~午後7時(最終日~5時)
※土曜日・日曜日・祝日は休館
グランビスタギャラリー・サッポロ(中央区北1西4、札幌グランドホテル本館1階)
過去の関連記事へのリンク
■日本画の新鋭 葛西由香展 (2020)
■葛西由香個展「日々とあそび」 (2018)
■開廊5周年記念「超日本」展 (2017)
あくまで筆者の見方にすぎませんが、これまでの葛西由香さんの絵は、写生に基盤を据えた日本画でありながら、どこかクスリとさせる、笑いの要素を含んだものが多かったと思います。
背景の省略、青海波などの装飾性など従来の日本画的要素も取り込みながら、細かい筆遣いで、ユーモアを表現してきました。「きのこ・たけのこ戦争」として話題になったデビュー作「明治物語」からして、そういう作品でした。
今回は少し様相が異なります。
日常生活のささやかな笑いの要素がなくなってしまったわけではありませんが、いちばん重点を置かれているのが
「孤独をたのしむ」
という姿勢のようです。
新型コロナウイルスの感染拡大で他人と接することが減っているこの2年間。しかし、画家は、それを嘆くのではなく、孤独の良さをしみじみとかみしめているのです。
つぎの作品は、画家が住んでいる高層住宅から見た札幌の夜景です。
出身の網走だと、こういう光景を見ることはないでしょう。高台からマチを見下ろすことはあっても、視界に入るのは低層の建物がほとんどであり、ビルディングがあちこちにあって果てしなく感じられるというのは、大都市独特の眺めだからです。
それでも札幌は西と南に山が連なっていて、あそこの手前で市街地は終わりというのが安心感をもたらします。
筆者は以前、サンフランシスコのギャラリーで、田舎からサンフランシスコに出てきてさびしい思いをしているという若手の絵本のような作品を見た記憶があり、それを思い出しました。
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ほかの個体には聞こえない周波数の音を出すクジラがいるそうです。
その周波数が「52ヘルツ」ということです。
これに関するドキュメンタリー映画の監督へのインタビューが「Newsweek 日本語版」にあったので、リンクを貼っておきます( 誰にも聞こえない周波数で歌う世界一孤独な「52ヘルツのクジラ」の謎)。
ただ、これは、書くかどうか迷ったのですが、「52ヘルツ」でネット検索するといちばん多くヒットするのは、町田すみこ作の小説『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)です。児童虐待をテーマにした小説で、これは誰に向けて書いているのか、そして誰がどう読んでいるのかということが、筆者には気になりました。児童虐待を受けてきた当事者にはつらすぎる話だし、また、虐待とは無縁な家庭ですくすく育ってきた多くの人は「ああ、自分はこんなひどい目にあわずに済んで良かった」と思いながらエンタメとして消費しながら読むのだとすれば、問題の切実さが伝わりにくいような気がするからです。
今回の個展タイトルが、単なる孤独の比喩であって、この小説とは関係なかったらいいなと思いました。
そう。一般論でいえば、孤独もまた良し。
本来、芸術も読書も孤独な行為です。
そこで心を豊かにして、現実社会にまたこぎ出していけばいいんですよね。
2022年1月4日(火)~2月28日(月)午前11時~午後7時(最終日~5時)
※土曜日・日曜日・祝日は休館
グランビスタギャラリー・サッポロ(中央区北1西4、札幌グランドホテル本館1階)
過去の関連記事へのリンク
■日本画の新鋭 葛西由香展 (2020)
■葛西由香個展「日々とあそび」 (2018)
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