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■野又圭司展 脱出-困難な未来を生きるために (2016年10月5日~12月4日、札幌)=続き。 <ARBEIT MACHT FREI>

2016年12月31日 12時36分12秒 | 展覧会の紹介-彫刻、立体
承前)

 前述したように、野又圭司展の展示点数は8点。
 すでに5点について紹介したので、残るは3点だ。

 奥の、少し低くなったスペースいっぱいに展開されている巨大なインスタレーションが「「経済」という全体主義」(2015)。

 この原型は昨年、リノベーション直前のホテルで開かれた帯広コンテンポラリーアート「マイナスアート」で発表されたものだと思われる。
 建物は、型に入れた砂にボンドを混ぜて固めたもの。一部をマイナスアート会場で販売していたので、欲しい気もしたが、じきに崩れると聞いて、断念したのを覚えている。

 今回の出品作も、おそらく会期中に少しずつ崩れていっているのだろう。
 おなじ形の建物なのに、形状が(崩壊の進み具合が)異なる。
「最初のころにつくったのはもう残っていない。展覧会のたびに作り直さなくてはならないのがつらい作品です」
と野又さん。




 この大きなインスタレーションの、都市の入り口の門には、次のことばが掲げられていた。これは、砂ではなく、銅製。

<ARBEIT MACHT FREI>

 ドイツ語で「労働は人を自由にする」。

 アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の門に書かれたことで名高い。

 この強制収容所に、ナチスの手によってつれて来られたユダヤ人たちは、働かされたが、けっして自由になることはなかった。

 ここにも、社会を強烈に批判するとともに、未来の終末を幻視し予言する芸術家の目が、生きていると思う。




 「レミング(百億の難民)」。

 2014年、ギャラリーRetara でのグループ展「サッポロ・コンセプション」で発表している。

 レミングとは、いうまでもなく、ネズミの一種で、大発生すると集団でがけから飛び降りるなど、自殺のような行動をとることで知られている。

 人類も爆発的に増加している。
 世界人口は70億を超えたが、100億の大台を突破するのも時間の問題だろう。
 しかし地球はそれだけの人間を養いきれないのは間違いない。
 そのとき、食料を求めて難民となった人々を受け入れる土地があるのか。

 城壁の上や帆船の甲板に、おびただしい人の群れが見える。
 野又さんは2千個以上、人のかたちをつくったという。
 地獄のような未来絵図だが、B級ハリウッド映画のような安っぽさはない。
 色彩が省略され、金属で作られているせいか。

 そして、西洋の城のような建物を見ていると、近年大きな人気を得た漫画「進撃の巨人」の世界に似たものを感じてしまう。野又さんは、おそらく読んでいないだろうが。




 8点のうち、この個展のために作られた新作が「EXODUS(脱出)」である。
 
 題は、旧約聖書でも、機動戦士ガンダムでもなく、レゲエミュージシャン、ボブ・マーリィの曲名に由来するという。

Bob Marley - Exodus [HQ Sound]



 また、舟の大きさは一人分だが、これはアトリエの大きさから必然的にこうなってしまったとのこと。

 舟の後部には、稲が植えられている。
 作者なりの、サバイバルと自立の呼びかけなのだろう。
 指をくわえて見ていれば、世界は破滅してしまう。そうなる前に、自らの力で、難局をこぎ抜いていけ。「Fight for survival! (生き残りへ、闘え!)」

 そういう呼びかけだと、筆者は受け取った。


 繰り返しになるが、野又圭司の作品は、いまわたしたちが生きている「世界」ときっちり向かい合いながら制作されたものばかりである。
 身近な人間関係のあたたかさに寄り添いながら作られる「小文字のアート」を、筆者は否定しない。ただ、そういう作品ばかりがあふれる北海道のアートの現状を物足りなく感じるし、このままでは、そもそもそのささやかな幸せの拠ってたつ基盤が根こそぎ掘り返されてしまうだろうという予感も抱く。
 彼の個展は、宮城県気仙沼市と北見市の美術館で行われていたが、札幌・道央では初めてで、このような骨太の作家の個展を企画した札幌彫刻美術館の姿勢も、作家とあわせて高く評価しておきたいと思う。


2016年10月5日(水)~12月4日(日)午前10時~午後5時(入館30分前)、月休み(祝日開館し翌火曜休み)
本郷新記念札幌彫刻美術館(札幌市中央区宮の森4の12)


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