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■國松明日香「回顧と近作」 (2024年6月8日~7月7日、胆振管内白老町)

2024年07月06日 08時55分00秒 | 展覧会の紹介-彫刻、立体
(承前)

 1947年生まれで、鉄による大型野外彫刻が道内各地にあることで知られる札幌拠点の彫刻家、國松明日香さんの個展が、胆振管内白老町にことしオープンした brew gallery で開かれています。
 94年以降の彫刻作品17点と、ガッシュなどによる平面の小品10点が展示されています。

 國松明日香さんは東京藝大を卒業、同大美術研究科彫刻専門課程を修了。20代の頃には版画にも取り組み、第1回C.C.A.Cワールドプリントコンペティション(サンフランシスコ近代美術館)で最優秀賞を受けています。
 彫刻を教えていた道内の短大を辞めるとき、白老町に侍の像を作って設置したのをきっかけに、86年から2年間、飛生とび う の閉校跡をアトリエにして暮らしました。
 飛生はその後、息子さんで彫刻家・美術家の希根太さんが飛生アートコミュニティという活動拠点にしており、夏には芸術祭を開いていることは、よく知られていると思います。

 冒頭画像、手前は「雨の匂い」(2019)。
 奥の壁は「Sea Breeze #1」「Sea Breeze #2」(いずれも2016)です。

  
 次の画像、手前は「雨の匂い」を、角度を変えて見たもの。

 奥の、床が低くなった位置にあるのは「真夜中の山」(2011)。
 壁にある5点組みは「SUNRISE SUNSET」(2019)。

 ステンレス鋼や鉄を素材に、従来の彫刻とは異なる軽やかでリズミカルな世界をつくっています。 

 その作風に関して、筆者が今回はじめて知ったことがあります。

 会場内でインタビューのビデオを流しているのですが、1浪して藝大に入ったものの、彫刻に不可欠とされてきたマッス(量塊)表現が苦手で、劣等感を抱いていたとのこと。自分では版画のほうが向いているかも、と思っていたそうです。

 そんなある日、神社の鳥居を見て、4本の柱だけでできていることに気づき、マッスによらなくても形や空間が作れるのではないかと、力を与えてくれたというのです。
 
 
 「星雲」(2012)。
 これは鉄だけで作っています。

 その後ろは「THE MILKY WAY」(2007)。
 壁の平面は「北北東の風 II」「北北東の風」(2001)。
 ステンレス板や木炭などを用いています。
 
 で、話は戻りますが、インタビューを聞いて筆者は「なるほど!!」と腑に落ちました。
 明日香さんの作品には、日本の伝統とか神道などと結びつく要素があまりないようなので、意外な感じがしましたが、たしかにシンプルな美しさという点は共通です。

 もうひとつ、インタビューで興味深かったのは、若いころに米国美術がたくさん入ってきて、アレクサンダー・カルダーが好きだったという話です。
 

  カルダーは、ゆらゆらと動くモビールで知られ、3次元の彫刻の世界に「時間」という四つ目の次元を持ち込んだ、たいへん重要な作家です。
 動かない彫刻は「マタビル」と称しており、國松明日香さんはそこに「負の量感」の良さを感じたのだそうです。

 4枚目の画像は「風のポロネーズ #1」「風のポロネーズ #2」「風のポロネーズ #3」。
 いずれも1994年。
 鉄棒を熔接した、いわば線だけによる彫刻といえそうです。

 この軽やかな心地よさは、「ポストモダン」などといわれ、重厚長大さがいかにも古くさく見えていた1990年代から21世紀初頭の時代相とどこかシンクロしていたなあと、いまから振り返れば、思わないでもありません。
 もちろん國松明日香さんの作品(もご本人も)は、そういう軽佻浮薄な風潮とは無縁なのは、言うまでもありませんが。
 

 「THE MILKY WAY」。

 飛生に住んでいたころ、夜にグラウンドに出たら、天の川が見えて、すごい光景だと思ったのが発端になっているとのことです。
 街明かりなどがない、暗い夜空でないと、天の川(銀河)は見ることができません(ついでにいえば、月がなく、なるべく夏)。

 なかなかすぐに作品化はできず、9年ぐらい後に、意識せずに作った作品が「自分の見た印象に近いものを感じる」と、このタイトルをつけた由。
 
 天の川なら、夜空を見上げる角度から見たほうがいいだろうと思い、そういうアングルで鑑賞してみました。


 最後の画像は新作の「風笛」(2024)。
 
 
 ほかの出品作は次の通り。

雲の夢 (2024) 
雲の行方 (2024)
雲の行方 #2 (2024)
雲の行方 #3 (2024)
水のほとり (2024)
水脈を聴く (2010)
水脈から(D)(2019)
水脈から(C)(2013)
水脈から(E)(2020)
IKAROS (1998)
水脈に向かう(S)(2013)
Water Dance (2021)
水脈に向かう(P)(2005)


2024年6月8日(土)~7月7日(日)午前11時~午後6時、月・火・水曜休み
brew gallery(白老町大町3-4-11)

過去の関連記事へのリンク
札幌ミュージアム・アート・フェア2020-21
【告知】2 + 2 Two plus Two 北海道・光州美術交流展 (2019、画像なし)

國松明日香の今日展 (2017)

目で楽しむ音楽展 (2015、画像なし)

國松明日香展-風、水面ふるわし、そよぎゆく光 ■続き (2008)



北海道立体表現展(06年、画像なし)
WAVE NOW 06

國松明日香展(05年、画像なし)

國松登と國松明日香展(02年、画像なし)
國松明日香展「彫刻家の内庭」(01年)


※以下、道内各地のパブリックアート
國松明日香「大地」(オホーツク管内遠軽町白滝)
國松明日香「茜雲#2」 (上川管内東神楽町)

國松明日香「テルミヌスの風」
■国松明日香「DANCING CRANE」
「MUSE」
國松明日香「休息する翼-家族」
國松明日香「四季の詩」
■「雪だるまをつくる人」
■「移ろう月」
■「MUSE」
■「北の翼」




・JR白老駅から約250メートル、徒歩4分
※札幌と函館を結ぶ「北斗」、札幌と室蘭を結ぶ「すずらん」の特急列車と普通列車がすべて停車します




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