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続き■フィギュールの森 2022 北翔大学北方圏学術情報センター プロジェクト研究美術グループ成果報告作品展 (3月11~27日、札幌)

2022年03月25日 07時47分39秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(承前)

 エレベーターで3階に上ります。
 3階ギャラリーは、オリジナルメンバーの林亨さんと、十勝管内豊頃町の白濱夫妻の3人が絵画などを展示しています。

 見る順番と逆の紹介になってしまいますが、3人の掉尾を飾る白濱雅也さんの展示は事実上の回顧展になっており、30年以上の画業を振り返るもので、非常におもしろかったです。
 シリーズの数だけでものすごい。

・悪意のメルヘンシリーズ
・マルチチャンネル ペインティングシリーズ
・凝縮額絵シリーズ
・キャベツ畑に捨てられてシリーズ
・POST3.11シリーズ
・北風太陽神シリーズ
・と金シリーズ
・ラジカセペインティングシリーズ
・名付けられていないシリーズ
・Black Japan シリーズ
・ペインティングフォーユーシリーズ
・恵みの島シリーズ
・連歌シリーズ

とあって、それぞれ1~4点ずつが出品されています。

 画像左端は「悪意のメルヘンシリーズ」の「仮面劇EVE」(1985)。
 とにかく情報量がものすごく多いです。
 壁にはおかめ、大仏、警官、ピエロ、武士などの14個の仮面が並び、その前に、胴体にハート形の空洞がある天使がこちらに背を向けて立っています。左脚には鉄鎖が結ばれていますが、球体は地球です。足元の抜け落ちた床からは夜空や土星がのぞいて見えます。左側の鉄格子の窓からはめがねをかけてスーツを着た博士のような豚の頭の人物が顔を出し、その隣の扉からはアタッシュケースを持ってシルクハットを載せたなぞめいた黒ずくめの真摯が室内をのぞき込んでいます。右側には悪魔と天使が…
 きりが無いのでやめますが(笑)、ベルギーの画家アンソールの影響は明らかにせよ、これほどいろいろな要素がてんこ盛りな絵は珍しいでしょう。

 最大の作品は、マルチチャンネル ペインティングシリーズの「叶わぬ夢のような」(92)。
 いかにも大都市の街頭にあったマルチチャンネルモニターを思わせる画面で、「巨人の星」を連想させる人物の目、初期コンピューターゲームのようなアヒルのドット絵、モノトーンの廃工場と煙突などで、これは第2次産業から第3次産業への経済の構造転換を時代背景にしているのでしょう。
 右下に、ペンギンとともに描かれているのは倒されたレーニン像だそうです。この前年の1991年暮れにソヴィエト連邦が崩壊しました。不自由からの解放は慶賀すべきことでしょうが、倒壊した像は、「人類が追い求めていたひとつの夢の終わり」をも意味しています。
 また、下側の絵は、ベッドに横たわる特撮ヒーローを俯瞰気味の視点で描いていますが、フランク・ステラのミニマルアートの引用があります。
 全体的にポップアート的な引用が多いことも含めて1990年代という時代を色濃く反映しており、傑作と呼びたいですが(余談ですが、分割して運べるので搬入がラクそうなのも良い)、このシリーズは長続きしなかったそうです。本人は、村上隆の登場までは、具象的なものを描いていいという雰囲気はなかったと当時を回想しており、現代美術の本流がまだなお「洋画の抽象絵画」と目されていたことと、その直後に取り組んだ作だということが分かります。

 多方面にわたる作風は、「この道一筋」的な傾向が喜ばれる団体公募展には向いていないなと、苦笑させられますが、ともあれ「3.11」が作家の大きな転換点になったことは、あらためてうかがえました。 
  
 
 奥さまの真紀さんも、子どもの頃の絵から近作まで約25点を並べて回顧展的なところがあります。
 ただし、雅也さんほどには身構えた感じがなく、大都市東京から十勝の農村へととっても自然かつスムーズに暮らしを移行させた感じがうかがえます。
 「ゆたかなところ 豊頃町」「ハルニレンジャー(仮)」といったメルヘン的な要素のある絵もあれば、オーストラリアの山火事やモロッコに思いをはせた絵もありますが、どちらも無理なくつながっているような印象を受けました。
 こののんきでマイペースな(ほめ言葉ですよ)メンタリティは、北海道の女性っぽいなあ。

 画像右側は2020年作の「浄化の御守り」の3点だと思いますが、森本めぐみさんが2009年ごろ作っていた小さいほうきに似ているのがおもしろいです(白濱夫妻は当時、北海道で彼女の作品を見ているとはとうてい思えないので、偶然でしょう)。

  
 このお二人に挟まれているのが林亨さん「心を浮かべて」です。
 おなじ大きさの円がランダムに浮游し、絵の前の床に木の球が転がっている(今回は16個)のは従来と同じですが、背景に森や川といった風景が描かれています。
 筆者は1998年ごろから林さんの絵を見ていますが、具象物が描かれたのは初めてではないかと思います。これはかなりの大変化ではないかと思います(文字は具象物ではない)。

 森や川はグリザイユのような手法で描写されていて、安直な叙情に流れることを注意深く排しているように感じました。


2022年3月11日(金)〜13日(日)、18日(金)~21日(月)、25日(金)~27日(日)の正午~午後6時
北翔大学円山キャンパス1、3階(札幌市中央区南1西22=旧ポルトギャラリー)

□展覧会公式サイト https://www.kintart.com/


□Art Labo 北舟/NorthernArk https://mmfalabo.exblog.jp/
□動画作品サイト「北舟公開」 https://arkvoyage.art
□美術作家 白濱雅也の関心事 https://ameblo.jp/shirahamamasaya/
□ツイッター @shirahamamasaya

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林亨展(2002年)
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・地下鉄東西線「西18丁目駅」1番出口から約390メートル、徒歩5分。2番出口から約490メートル、徒歩7分
・同「円山公園駅」5番出口から約460メートル、徒歩6分

・ジェイ・アール北海道バス「北1条西20丁目」降車、約420メートル、徒歩6分
※手稲方面行きが止まります。快速や都市間高速バスは止まりません
・ジェイ・アール北海道バス、中央バス「円山第一鳥居」降車、約680メートル、徒歩9分
※手稲、小樽方面行き(都市間高速バスを含む)全便が止まります

・ジェイ・アール北海道バス「桑8 桑園円山線」の「大通西22丁目」降車、すぐ目の前
※桑園駅-大通西22丁目-円山公園駅―啓明ターミナルを走っている路線です

(この項了) 


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