※文中2カ所手直ししました(12月7日)。
札幌はもともと現代美術(現代アート)をつくる人も見る人もそれほど層が厚いとはいえないでしょう。
2度にわたる国際芸術祭の開催で、以前に比べると裾野は広がってきているとは思いますが。
ただし地元作家で引っ張りだこの状態になる作家となると、どうしても顔ぶれが限定されてくることは否定できない傾向です。
今回の9人展は、札幌の作家による現代美術展でありながら、他の展覧会とはメンバーがあまり重複しておらず、それだけでも開催の意義があるといえそうです。
これは出品者に、建築家と、ゼロ年代以前に活動が目立った作り手が多いという事情によるためではないかと思います。
今回の出品者は赤坂真一郎、石崎幹男、岡倉佐由美、千葉栄、平尾稔幸、平田まどか、福士ユキコ、松橋常世、吉住ヒロユキの9氏。
企画を担当したのは、出品者でもある岡倉さん。彼女は1980年代から21世紀初頭にかけてポップな立体造形やインスタレーションをさかんに発表していましたが、その後はあまり表舞台に登場していなかったようです。
顔ぶれをざっと紹介しておくと、赤坂、平尾、松橋の3氏は建築家。
平田さんはデザイナーで、公共デザインも手がけています。赤坂さんと平田さんはハルカヤマ藝術要塞に出品したこともあるので、ご存じのかたも多いでしょう。
石崎さんは写真家。
千葉さんは、さいとうギャラリーでよく親子3人展を開いています。
福士さんは、札幌市資料館で毎年開いているグループ展「酵母展」のメンバーでした。道立近代美術館前のカエルヤ珈琲店などで絵画の個展も開催しています。
吉住さんはディスプレイデザインなどで活躍してきた人ですが、小さな裸婦のトルソをたくさん並べる手法のインスタレーションで、ギャラリーたぴおのグループ展の常連でした。
さて、個人的にいちばん好きだったのは、石崎さんの写真です。
石崎さんは、広告写真などを手がけており、近年は博物館で資料の撮影に従事していました。
1998年にギャラリーシード(石山通沿いにあったギャラリー。今はない)で開いた写真展の印象が、強制収容所などを静かなモノクロでとらえた作品などで、強烈に残っています。その後も、グループ展などで活発に発表していましたが、2003年を境に発表数が減っていました。
07年にさいとうギャラリーで個展「澱みの時間軸」を開いています。それ以降は記憶にありません。
今回のテーマは「見つめるものが何もない」で、モノクロもしくはそれに極めて近いトーンの、正方形のプリント計20点。
タイトルだけを聞けば、もう何に対してもレンズを向けたくない、ニヒリスティックかつ絶望的な気持ちに陥っている写真家が想像されますが、じっさいに展示されているのは、ミニマルの極みとでもいうべき、海や雪原のシンプルな写真です。構図の切り取り方は、あいかわらず水際だった巧さです。「何もない」と言いつつ、高水準な風景写真を撮っているのです。
見る人の注目を集めていたのは、福士さんの、絵画36点からなる「名画をカエル」。
横山大観、関根正二、ミュシャ、パスキン、岸田劉生といった画家の作品を、登場人物をすべてカエルに置き換えて描いた労作です。
これはすべて、道立近代美術館で開催された展覧会のチラシを元にして制作したそうです。
わかりやすいパロディーですが、名画の登場人物を猫にしたシリーズはすでに海外の画家により出版されています。
根拠がよく分からないのが、作品のサイズ。元の作品の大きさには比例していないようですし、チラシの画像に比べると大きめです。
吉住さんの「時の巡礼」は、大型の彫塑1点と少し小型の12点からなる大作。
「ハクトウワシのかっこよさを表現したかった」
と言う通り、鳥人たちのようすは、ファンタジー系ゲームのメインキャラクターをほうふつとさせます。
(※註 木彫りではないそうです)
赤坂さんは、壁にさした約180個のピンの間に緑の糸を迷路のように張り渡した「記憶の交点から(PLAN 1) From the intersection of memories “PLAN 1”」。
松橋さんは、黒い平面とモノリス型直方体とかなる「視点への試行 I」「視点への試行 II」。
岡倉さんはマネキンやミシン、アクセサリー、三つの脳の模型などをちりばめたポップなインスタレーション「フィルムコレクション」。
平尾さんは、透明な筒を中央に立たせ、釣りざおのような長いファイバー6本を互い違いに貫通させた作品。
平田さんはひもで作った迷路を床の上に置いた「迷惑な迷路」。
(※註 布製という表記は不正確でした。訂正します)
千葉さんは、鑑賞者がボタンを押すと様相が変わるインタラクティブな「フイゴ HERE WE ARE!」「ラブスイッチ」などを、それぞれ出品していました。
2017年11月18日(土)~12月3日(日)午前10時~午後7時
プラニスホール(札幌市中央区北5西2 ESTA=ビックカメラのあるビル=11階)
祭り・FEST展パートⅡ(2003)=岡倉さん出品
「北海道・現代写真家たちの眼'03 彩(いろどり)」 七人の写真家による彩の流星群 (2003)=石崎さんと岡倉さん出品
THE LIBRARY 2002 -Exhibition of the book object-=岡倉さん出品
※以上画像なし
岡倉佐由美・福士千香子展 (2001)
■Six in October (2013)
平田まどか「時空翼」
平田まどか「運ぶ」 ハルカヤマ藝術要塞
■サッポロ・デザイナーズ・ウオーク「ゴンドラック グッドラック」(2006年)=平田さん出品
札幌はもともと現代美術(現代アート)をつくる人も見る人もそれほど層が厚いとはいえないでしょう。
2度にわたる国際芸術祭の開催で、以前に比べると裾野は広がってきているとは思いますが。
ただし地元作家で引っ張りだこの状態になる作家となると、どうしても顔ぶれが限定されてくることは否定できない傾向です。
今回の9人展は、札幌の作家による現代美術展でありながら、他の展覧会とはメンバーがあまり重複しておらず、それだけでも開催の意義があるといえそうです。
これは出品者に、建築家と、ゼロ年代以前に活動が目立った作り手が多いという事情によるためではないかと思います。
今回の出品者は赤坂真一郎、石崎幹男、岡倉佐由美、千葉栄、平尾稔幸、平田まどか、福士ユキコ、松橋常世、吉住ヒロユキの9氏。
企画を担当したのは、出品者でもある岡倉さん。彼女は1980年代から21世紀初頭にかけてポップな立体造形やインスタレーションをさかんに発表していましたが、その後はあまり表舞台に登場していなかったようです。
顔ぶれをざっと紹介しておくと、赤坂、平尾、松橋の3氏は建築家。
平田さんはデザイナーで、公共デザインも手がけています。赤坂さんと平田さんはハルカヤマ藝術要塞に出品したこともあるので、ご存じのかたも多いでしょう。
石崎さんは写真家。
千葉さんは、さいとうギャラリーでよく親子3人展を開いています。
福士さんは、札幌市資料館で毎年開いているグループ展「酵母展」のメンバーでした。道立近代美術館前のカエルヤ珈琲店などで絵画の個展も開催しています。
吉住さんはディスプレイデザインなどで活躍してきた人ですが、小さな裸婦のトルソをたくさん並べる手法のインスタレーションで、ギャラリーたぴおのグループ展の常連でした。
さて、個人的にいちばん好きだったのは、石崎さんの写真です。
石崎さんは、広告写真などを手がけており、近年は博物館で資料の撮影に従事していました。
1998年にギャラリーシード(石山通沿いにあったギャラリー。今はない)で開いた写真展の印象が、強制収容所などを静かなモノクロでとらえた作品などで、強烈に残っています。その後も、グループ展などで活発に発表していましたが、2003年を境に発表数が減っていました。
07年にさいとうギャラリーで個展「澱みの時間軸」を開いています。それ以降は記憶にありません。
今回のテーマは「見つめるものが何もない」で、モノクロもしくはそれに極めて近いトーンの、正方形のプリント計20点。
タイトルだけを聞けば、もう何に対してもレンズを向けたくない、ニヒリスティックかつ絶望的な気持ちに陥っている写真家が想像されますが、じっさいに展示されているのは、ミニマルの極みとでもいうべき、海や雪原のシンプルな写真です。構図の切り取り方は、あいかわらず水際だった巧さです。「何もない」と言いつつ、高水準な風景写真を撮っているのです。
見る人の注目を集めていたのは、福士さんの、絵画36点からなる「名画をカエル」。
横山大観、関根正二、ミュシャ、パスキン、岸田劉生といった画家の作品を、登場人物をすべてカエルに置き換えて描いた労作です。
これはすべて、道立近代美術館で開催された展覧会のチラシを元にして制作したそうです。
わかりやすいパロディーですが、名画の登場人物を猫にしたシリーズはすでに海外の画家により出版されています。
根拠がよく分からないのが、作品のサイズ。元の作品の大きさには比例していないようですし、チラシの画像に比べると大きめです。
吉住さんの「時の巡礼」は、大型の彫塑1点と少し小型の12点からなる大作。
「ハクトウワシのかっこよさを表現したかった」
と言う通り、鳥人たちのようすは、ファンタジー系ゲームのメインキャラクターをほうふつとさせます。
(※註 木彫りではないそうです)
赤坂さんは、壁にさした約180個のピンの間に緑の糸を迷路のように張り渡した「記憶の交点から(PLAN 1) From the intersection of memories “PLAN 1”」。
松橋さんは、黒い平面とモノリス型直方体とかなる「視点への試行 I」「視点への試行 II」。
岡倉さんはマネキンやミシン、アクセサリー、三つの脳の模型などをちりばめたポップなインスタレーション「フィルムコレクション」。
平尾さんは、透明な筒を中央に立たせ、釣りざおのような長いファイバー6本を互い違いに貫通させた作品。
平田さんはひもで作った迷路を床の上に置いた「迷惑な迷路」。
(※註 布製という表記は不正確でした。訂正します)
千葉さんは、鑑賞者がボタンを押すと様相が変わるインタラクティブな「フイゴ HERE WE ARE!」「ラブスイッチ」などを、それぞれ出品していました。
2017年11月18日(土)~12月3日(日)午前10時~午後7時
プラニスホール(札幌市中央区北5西2 ESTA=ビックカメラのあるビル=11階)
祭り・FEST展パートⅡ(2003)=岡倉さん出品
「北海道・現代写真家たちの眼'03 彩(いろどり)」 七人の写真家による彩の流星群 (2003)=石崎さんと岡倉さん出品
THE LIBRARY 2002 -Exhibition of the book object-=岡倉さん出品
※以上画像なし
岡倉佐由美・福士千香子展 (2001)
■Six in October (2013)
平田まどか「時空翼」
平田まどか「運ぶ」 ハルカヤマ藝術要塞
■サッポロ・デザイナーズ・ウオーク「ゴンドラック グッドラック」(2006年)=平田さん出品