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■物語のかけら 塩谷直美・中嶋幸治 (2018年11月3~8日、札幌)

2018年11月07日 21時07分27秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 札幌で、自前のギャラリーを持たずに、独自の企画を意欲的に打ち出している Withart の本間さんが、またもユニークな顔合わせによる展覧会を主催しました。
 

 案内状には、次のようなテキストが添えられていました。

COTEXT-Sに射し込む光をとらえ、刻一刻と時を刻むガラス
人の手を渡って辿り着いた紙から生まれる新たな物語

それぞれが作りだす手仕事の集積から静かな音が響く

作り手から使い手に紡がれていく「物語のかけら」展


 茨城県常陸太田市のガラス作家で、道立近代美術館にも作品が収蔵されている塩谷直美さん。
 札幌と青森県を拠点に、紙を主な素材とした繊細な作品を制作する中嶋幸治さん。

 古い建物のリノベーションによるギャラリーで、この2人が展示しています。
 冒頭画像は、唯一のコラボレーションとなる「かけら」。


 本の形状をした中嶋さんの作品。
 ぜんぶで7点が壁に並んでいます。
 文字が書かれているのではなく、ドローイングが描かれています。
 題は

Cast a cold eye
On life, On death
Horseman, pass by!

 この3行の詩句は、アイルランドの詩人W.B.イエイツ(1865-1939)の代表作 "Under Ben Bulben" の末尾で、彼の墓碑銘に刻まれている有名な言葉なのだそうです。
 札幌の円山に繰り返し登っていた頃に読んだ詩で、生と死を冷たい目で見つめることと円山や北海道神宮を何度も訪ねることとが自分の中でリンクし、頭の中でこの3行がリフレインしていたーというような意味のことを、オープニングのアーティストトークで話していました。
(その頃に撮った写真も、会場にはひっそりと飾られています)



 「となり」。

 塩谷さんは、これまでも札幌で作品を発表したことがありますが、それを含めてほとんどの場合、器の展示販売で、今回のようにオブジェがメインになることはほとんどないそうです。

 「2人展とか基本的に苦手だったんです。北海道まで行くのに『個展じゃないのか~』っていう気持ちでした、正直。でも今は『120%良かった』と思う。それは、なんといっても本間さんのセンス。加えて、札幌のマチとか、11月という季節とかいろいろあるけど、良かったと思う。相手を意識しなかったのが良かったのかもしれない。自分は夫婦でガラスをつくっているので、2人で展示することがよくあるし、友人のこともあるけど、知っている相手だったら作っている段階からきっと意識しちゃってた」

 録音していたわけでないので正確な言い回しではありませんが、こんな話を最後にしていて、塩谷さんっていい人だなと感じました。
 今回は、2人展というのに、搬入の時まで互いに相手がどういう作品を持ってくるか、まったく知らされていなかったそうです(案内状に印刷されていた作品写真だけ)。それがかえって良かったということを塩谷さんも中嶋さんも話していたのでした。


 中央の大きな作品は「in side」。
 そばに転がっているのは「ナッツ」です。

 塩谷さんはフランス・マルセイユに滞在中、一時作品が作れなくなり、詩を書いていたことがあるそうです。
 思い浮かんだ言葉を書いているうち、これを紙にしたらどうなるんだろうと考えて、紙の工作を作りました。作りためた工作をガラスで作ったら表、現できるかもしれないと思いついたとのこと。

 作品集の本を見ると、一つ一つの作品に、短い詩がついています。

 この作品には、次のような詩句が添えられています。

 今日の私は
 一番上のステップに
 腰をおろし
 内側をながめる


 昼に見ると、白い光を内側に宿して、さらに美しいのだと、会場で写真家のSさんに聞きました。



 今回の展覧会は、タイトルにもあるように「言葉」「物語」が重要なカギになっています。
 ただ、蛇足めいたことを記せば、言葉や物語は近代美術にとってはジャンルの純粋性を損なうものであり、むしろ排除すべき要素でした。
 洋画家が「文学的」と他人の作を評するとき、それは悪口だったのです。

 時代は変わり「物語性」は作品世界に豊かな背景をもたらすものとして捉えられるようになってきています。
 美術作品が、物語やテキストの単なる翻訳や挿絵として存在するのではなく、お互いが響き合うように展開し、鑑賞者に何かを投げかけるのが、現代のアートらしい在り方だと、筆者は思います。



2018年11月3日(土)~8日(木)午前11時~午後7時
CONTEXT-S(札幌市中央区南21西8 twitter: @CONTEXT_S )


https://uzawaglass.amebaownd.com/

http://kojinakajima.com/

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・市電「東屯田通」から約150メートル、徒歩2分

・じょうてつバス「南22条西11丁目」から約510メートル、徒歩7分
・地下鉄南北線「幌平橋駅」から約1.35キロ、徒歩17分


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