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近代絵画はますますその発展の余地を狭めているように見受けられる。
団体公募展系の洋画の多くは日本的フォーブと抽象の時代を脱して、マニエリスムやハイパーリアリズムへと傾斜しつつあるようだ。そして「現代アート」といわれる分野は、以前にもましてタブローや彫刻の物質性から離れ、コミュニケーションそのものを「素材」としつつある方へと進んでいる。
そんな21世紀初頭(ゼロ年代)の北海道で、絵画の可能性にかけ、なおかつ模索しようとしていたグループが二つ存在した。
ひとつは「絵画の場合」、もうひとつは「ACT5」である。
前者は団体公募展とほとんど接点のない作家たちによって結成され、絵画を基軸としつつも、テキストや理論担当のメンバーを入れたりコミュニケーションアート的な方向性を探ったりもしていた。
後者は全員が全道展の会員であり、1人をのぞいて全国的な有力団体公募展でも会員を務め、絵画展では展示以外のことにはさして関心を示さなかった。印象論で恐縮だが、絵画の未来をいささか強引な力わざで切り開こうとしていた感を筆者は抱く。ポピュラー音楽の批評でつかわれる語をつかうとすれば「スゴ腕」「バカテク」(ほめ言葉です)という形容詞がつくような表現を突き詰め、戦っていたのだと思う。
ただ、とくに綱領めいたものはなかったし、画家自身が何かのメッセージを表明したこともない。ただただ、理屈よりも画面で勝負していたのだといえるかもしれない。
「ACT5」は2008年、道立近代美術館での、搬入した作品が展示しきれないほどの濃厚な展覧会をもって活動に終止符を打った。
今回、札幌時計台ギャラリーが年内いっぱいで閉鎖となるのにともない、8年ぶりに再び集まったのだが、その画面の強度は変わっていなかった。
この夏、札幌でいちばん見応えのある絵画展だったことは間違いない。
メンバー5人のなかで、そのすごさが誰にでもわかりやすいのは、矢元政行さん(伊達市。行動展、全道展会員)ではないだろうか。
かつて、テレビ番組「たけしの誰でもピカソ」にも登場しただけに、ポピュラリティーがあるのだ。
とにかく、画面に登場する人々の数がすごい。
ボスやブリューゲルの絵の世界がスチームパンクに移行したみたいな趣だ。
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「造船所」(2016年、162×130)。
塔やコンビナートはよく登場するが、船は珍しいかもしれない。
右はその部分。
これは矢元さんの意図ではないような気がするが、描き入れる人間の数があまりに膨大で、完成までに時間が費やされるため、全道展などには、途中経過を出すことが多くなった。この絵も、最初の発表時には、人間は誰もいなかったはずだ。
これはこれで、結果的に新たな試みになっている。
他の出品作は次の通り。
「モニュメント」196×450 2009
「樹」192×42 2011
「風の塔」194×130.3 2015
「ブロッコリービル」183×36 2014
「方舟」240×172 2010
次は木村富秋さん(札幌。独立展、全道展会員)。
この5人の中で木村さんが、近代絵画の伝統に最も近い。
セザンヌらと同様に、線や色彩、形といった諸要素がすべてであり、基本的に絵のモティーフは二義的なものである。
この思想を推し進めていくと、画面は必然的に抽象化傾向を帯びる。
木村さんの絵は、トルソや人体のようなものを描いてはいるが、その背景は抽象画のように、自由に線が走り、色面が配される。
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絶妙な中間色の配置や線の構成など、これほど「巧い」という語が似合う画家もめずらしい。
ただ、今回出品されたF200号の大作「懐かしい水辺へ」(2016)は、これまでの木村さんの絵画の特質を保ちつつも、2人の人物を大きく中央に配置した点で、明らかな差異が見てとれる。
これらの人物は腕が切れているなど、写実的な描写ではない。とはいえ、しっかと立つ姿が、希望のようなものを漂わせているように感じるのは筆者だけだろうか。
他の出品作は次の通り。
白い花 (S50 2015)
海からの光(S80 2014)
夏の光(S80 2016)
ラ・ラ・ラ(F80 2016)
葉月の庭(F30 2016)
秋の祈り(F30 2015)
流れ歌(F10 2016)
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5人のメンバーのうち、福井路可さんは、長く住んだ室蘭を離れて東京にアトリエを構えている。数年前、全道展会員を辞し、現在は国展(国画会)の会員で絵画部長を務めている。
画像は「夜の風、明日の海-15.4-」(216.2×306.3 2015)。
福井さんの絵は、表面に貼った板を焦がすなどして、もっぱらマチエールと支持体の組み合わせで大きな空間を組み立てている。
そこに立ちのぼるのは、風や、海の香りなど、むしろ視覚以外の感覚を聯想させるものである。
描き込みは抑え、すくない要素でどれだけ豊かな空間を作り出せるのか。試行が続く。
他の出品作は次の通り。
夜の風、明日の海-15.4-(216.2×306.3 2015)
雨の音-15.2-(53×33.3 2015)
海の音-16.7-(53×33.3 2016)
夜の風、明日の海-13.4-(220.1×307.3 2013)
昨日の海-13.7-(27.3×41)
明日の海-13.7-(27.3×41)
水の音-13.7-(65.2×45.5)
風の音-13.7-(65.2×45.5)
長くなったので、のこる2人、輪島さんと森さんについては、別項に続く。
2016年8月1日(月)~5日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
関連記事へのリンク
■ACT5 最終章(2008年6月)
■ACT5 06年
■ACT5 02年(画像なし)
■行動展北海道地区作家展 (2016年3月、画像なし)
■矢元政行小品展 混沌なる風景 (2015)
■矢元政行「記憶の中の情景」(2010)
■第62回行動展 (2007年)
■矢元政行展(2003)
=以上画像なし
■木村富秋展「心の色、変わりゆく形」 (2013)
■木村富秋展 (2008年)
■木村富秋小品展(2007)
■木村富秋展(2003)
【告知】新世紀の顔・貌・KAO IV 30人の自画像 (2011、画像なし)
■福井路可展 (2002)
■福井路可展 (2001、画像なし)
団体公募展系の洋画の多くは日本的フォーブと抽象の時代を脱して、マニエリスムやハイパーリアリズムへと傾斜しつつあるようだ。そして「現代アート」といわれる分野は、以前にもましてタブローや彫刻の物質性から離れ、コミュニケーションそのものを「素材」としつつある方へと進んでいる。
そんな21世紀初頭(ゼロ年代)の北海道で、絵画の可能性にかけ、なおかつ模索しようとしていたグループが二つ存在した。
ひとつは「絵画の場合」、もうひとつは「ACT5」である。
前者は団体公募展とほとんど接点のない作家たちによって結成され、絵画を基軸としつつも、テキストや理論担当のメンバーを入れたりコミュニケーションアート的な方向性を探ったりもしていた。
後者は全員が全道展の会員であり、1人をのぞいて全国的な有力団体公募展でも会員を務め、絵画展では展示以外のことにはさして関心を示さなかった。印象論で恐縮だが、絵画の未来をいささか強引な力わざで切り開こうとしていた感を筆者は抱く。ポピュラー音楽の批評でつかわれる語をつかうとすれば「スゴ腕」「バカテク」(ほめ言葉です)という形容詞がつくような表現を突き詰め、戦っていたのだと思う。
ただ、とくに綱領めいたものはなかったし、画家自身が何かのメッセージを表明したこともない。ただただ、理屈よりも画面で勝負していたのだといえるかもしれない。
「ACT5」は2008年、道立近代美術館での、搬入した作品が展示しきれないほどの濃厚な展覧会をもって活動に終止符を打った。
今回、札幌時計台ギャラリーが年内いっぱいで閉鎖となるのにともない、8年ぶりに再び集まったのだが、その画面の強度は変わっていなかった。
この夏、札幌でいちばん見応えのある絵画展だったことは間違いない。
メンバー5人のなかで、そのすごさが誰にでもわかりやすいのは、矢元政行さん(伊達市。行動展、全道展会員)ではないだろうか。
かつて、テレビ番組「たけしの誰でもピカソ」にも登場しただけに、ポピュラリティーがあるのだ。
とにかく、画面に登場する人々の数がすごい。
ボスやブリューゲルの絵の世界がスチームパンクに移行したみたいな趣だ。
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塔やコンビナートはよく登場するが、船は珍しいかもしれない。
右はその部分。
これは矢元さんの意図ではないような気がするが、描き入れる人間の数があまりに膨大で、完成までに時間が費やされるため、全道展などには、途中経過を出すことが多くなった。この絵も、最初の発表時には、人間は誰もいなかったはずだ。
これはこれで、結果的に新たな試みになっている。
他の出品作は次の通り。
「モニュメント」196×450 2009
「樹」192×42 2011
「風の塔」194×130.3 2015
「ブロッコリービル」183×36 2014
「方舟」240×172 2010
次は木村富秋さん(札幌。独立展、全道展会員)。
この5人の中で木村さんが、近代絵画の伝統に最も近い。
セザンヌらと同様に、線や色彩、形といった諸要素がすべてであり、基本的に絵のモティーフは二義的なものである。
この思想を推し進めていくと、画面は必然的に抽象化傾向を帯びる。
木村さんの絵は、トルソや人体のようなものを描いてはいるが、その背景は抽象画のように、自由に線が走り、色面が配される。
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ただ、今回出品されたF200号の大作「懐かしい水辺へ」(2016)は、これまでの木村さんの絵画の特質を保ちつつも、2人の人物を大きく中央に配置した点で、明らかな差異が見てとれる。
これらの人物は腕が切れているなど、写実的な描写ではない。とはいえ、しっかと立つ姿が、希望のようなものを漂わせているように感じるのは筆者だけだろうか。
他の出品作は次の通り。
白い花 (S50 2015)
海からの光(S80 2014)
夏の光(S80 2016)
ラ・ラ・ラ(F80 2016)
葉月の庭(F30 2016)
秋の祈り(F30 2015)
流れ歌(F10 2016)
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5人のメンバーのうち、福井路可さんは、長く住んだ室蘭を離れて東京にアトリエを構えている。数年前、全道展会員を辞し、現在は国展(国画会)の会員で絵画部長を務めている。
画像は「夜の風、明日の海-15.4-」(216.2×306.3 2015)。
福井さんの絵は、表面に貼った板を焦がすなどして、もっぱらマチエールと支持体の組み合わせで大きな空間を組み立てている。
そこに立ちのぼるのは、風や、海の香りなど、むしろ視覚以外の感覚を聯想させるものである。
描き込みは抑え、すくない要素でどれだけ豊かな空間を作り出せるのか。試行が続く。
他の出品作は次の通り。
夜の風、明日の海-15.4-(216.2×306.3 2015)
雨の音-15.2-(53×33.3 2015)
海の音-16.7-(53×33.3 2016)
夜の風、明日の海-13.4-(220.1×307.3 2013)
昨日の海-13.7-(27.3×41)
明日の海-13.7-(27.3×41)
水の音-13.7-(65.2×45.5)
風の音-13.7-(65.2×45.5)
長くなったので、のこる2人、輪島さんと森さんについては、別項に続く。
2016年8月1日(月)~5日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
関連記事へのリンク
■ACT5 最終章(2008年6月)
■ACT5 06年
■ACT5 02年(画像なし)
■行動展北海道地区作家展 (2016年3月、画像なし)
■矢元政行小品展 混沌なる風景 (2015)
■矢元政行「記憶の中の情景」(2010)
■第62回行動展 (2007年)
■矢元政行展(2003)
=以上画像なし
■木村富秋展「心の色、変わりゆく形」 (2013)
■木村富秋展 (2008年)
■木村富秋小品展(2007)
■木村富秋展(2003)
【告知】新世紀の顔・貌・KAO IV 30人の自画像 (2011、画像なし)
■福井路可展 (2002)
■福井路可展 (2001、画像なし)