室蘭在住で、美唄にもゆかりの深いベテラン画家、北浦さんの個展。
北浦さんの回顧展は、昨年まで4年連続で、「版画」「人物」「静物」「風景」と、テーマ別に、おなじ会場でひらかれてきた。今回は、ふたたび「風景」がテーマ。となると、出品作はかなり重複するのでは-と思っていたが、あにはからんや、「2007年作」と附記された油絵がなんと9点もある。「出がらし感」のない、新鮮な展観となった。
筆者は、好き嫌いでいえば、北浦さんの風景画は大好きである。
印象論でいうならば「清潔」で「知的」だ。
だからこそ、この5年間で4回も美唄まで足を運んだのだ。
じゃあ、どうして「清潔」で「知的」なのか、となると、話はけっこうむつかしい。
筆者は以前、北浦さんが、現実の風景を、構図がすっきりと決まるように、再構成しているのではないかと考えていた。
そうしたら、北浦さんご自身が、そうではないとおっしゃる。描いているのは、現実そのままである、というのだ。
今回の展覧会では、もうひとつの魅力である、色に着目してみた。
筆者はじぶんでは絵筆を執らないので、あまりえらそうなことは言いづらいのだけど、風景画を描く際に難問になるのは、山と空、海と空…などの境界線ではないかと思う。
わたしたちは、風景を見る際に、概念をとおして見ているから、山と空、海と空などの境界が、きちんと存在しているかのように認識している。しかし、写真に撮ってみるとわかるが、その境界は、じつは大して明確ではないことのほうが多い。
では、山や海の存在をはっきりさせるには、どうしたらよいか。
絵の初心者で、黒々と輪郭線をかく人がいるが、これはいかにも素人くさい。かといって、うまく塗らないと、筆触が、境界にはみ出てきて、非常に落ち着きの悪い画面になることは必定だ。
彩度の高い色どうしを隣り合わせれば、分かれ目ははっきりする。ただ、色と色とがぶつかり合ってこれも落ち着かない画面になる可能性がある。
北浦さんの絵を見ると、たとえば山と空の間は、わずかにあいていて、下地の濃い色が顔をのぞかせていることがある。
いわゆる輪郭線とはちょっと異なるのだが、それと似たはたらきをして、画面を引き締めている。
しかし、ここで筆者はもうひとつの難問にいきあたる。
下地の色を濃くすれば、画面全体の輝かしさも損なわれるはずなのだが、北浦さんの絵は、とてもクリアな色調に覆われているのだ。
チューブから出したままの色は、生っぽいといって、きらわれることが多い。北浦さんの絵の緑などは、とても輝かしいのにもかかわらず、生っぽさはみじんもない。
この生っぽさを消すために、風景画家はいろいろ苦労しているはずである。さんざん絵の具を練ったり、ホワイトを混ぜたり、タッチを小さくしたり…。
とはいえ、あまり技法論に走っても、北浦さんの絵の魅力を語ったことにはならないだろう。
今回、とくに心ひかれたのが「芦別岳(空知川の岸辺)」だった。
この題から、国木田独歩を思い出す人は多いだろう。でも、あの小説では、じつは空知川は、音でしか登場しない。
独歩が北海道で得た開放感と希望、そして、挫折感と徒労感の予兆。
北浦さんの絵は、そういうわだかまりはなく、どこまでも明晰で、伸びやかだ。
画面には人間はまったく描かれない。にもかかわらず、どこか、人間への信頼感みたいなものもつたわってくる。
その明るさは、けっして単純さなのではなく、30そこそこの青年だった独歩にはない、成熟なのだと思う。
北浦さんは来年は札幌で個展をひらくらしい。
美唄は遠いと思った人(ほんとは、札幌駅から特急で三十数分だから、モエレ沼とか芸術の森より近いぐらいなのだが)、ぜひ見てください。
展示作品はつぎのとおり。
「美唄市役所裏(素描)」 25.0×34.0 1954
「美唄駅前(素描)」 同上 1954
「三菱美唄鉱業所」 同上 1954
「美唄労災病院建築現場(素描)」同上 1954
「冬木立」 24.0×33.3 1955
「美唄市立病院(版画)」 26.8×19.6 1963
「冬のポプラ(版画)」 15.0×44.5 1967
「美唄・楓ヶ丘・S」 F100 1993
「樹林秋景」 F30 1993 (株)岸本組蔵
「馬」 F10 1995
「美唄浅春」 P100 1998
「斜里岳」 F120 1999
「美唄浅春B」 P50 2001
「旭岳」 F120 2004
「雄阿寒岳遠望」 F120 2006
=以上、特記したもの以外は美唄市蔵
「美唄橋から」 M30 2006
「芦別岳(空知川の岸辺)」F50 2007
「秋の大沼公園(駒ケ岳)」F30 2007
「陣屋町の春」 S20 2007
「幌萌町の桜」 S20 2007
「洞爺湖新緑」 F20 2007
「朝の樺戸連山」 F20 2007
「東明公園の春」 P20 2007
「達布山から」 P20 2007
「菱沼の岸辺」 P80 2007
=以上、作者蔵
「スケッチ美唄(8点)」各20.0×29.6 2006 美唄市蔵
「スケッチ美唄・第2集(8点)」同上 2007 作者蔵
07年8月31日(金)-9月6日(木)9:00-17:00
美唄市民会館(西4南1)
■北浦晃自選による油彩画展 テーマ別III・風景(06年9月)
■北浦晃 自選による油彩画展テーマ別・1・「人物」 (04年)
■北浦晃 自選による版画100選 (03年10月)
■北浦晃個展 (03年8月、画像なし)
■北浦晃油絵個展(01年、画像なし)
略歴
1936年 栃木県安蘇郡堀込町(現佐野市)生まれ
39年 赤平市、41年美唄市を経て、67年室蘭市に移住
54年 美唄東高校在学中、第9回全道展入選(64年会友賞、75年会員、97年退会)
58年 北海道学芸大学(現教育大学)卒業、美唄中学校に勤務(67年まで)
70年 札幌時計台ギャラリー個展(以後札幌個展12回)
75年 札幌時計台文化会館美術大賞展出品(90年同展出品)
84年 北海道の美術84イメージ「道」展優秀賞(道立近代美術館)
84年 室蘭市文化連盟芸術賞受賞
88年 「鏡の国の美術館」展出品(道立近代美術館)
91年 東京銀座・文藝春秋画廊個展(94年同個展)
92年 「生まれ出づる悩み」展出品(岩内町、荒井記念美術館)
96年 油絵自選展(室蘭市文化センター)
98年 蒲原静子・山田一夫・北浦晃三人展「11月の風」(以後室蘭で隔年開催)
99年 横浜市、ギャラリー伊勢佐木町個展
2000年 第7回新作家展出品(東京セントラル美術館。以後同展出品)
02年 第9回新作家展K氏賞受賞(東京都美術館)
02年 北浦晃自選による油彩画展(美唄市総合体育館)
03年 札幌市、ギャラリーどらーる個展
03年 北浦晃自選による版画100展(美唄市民会館大会議室)
04年 北浦晃自選による油彩画展・テーマ別・I・人物(美唄市民会館大会議室)
05年 札幌時計台ギャラリー個展
05年 北浦晃自選による油彩画展・テーマ別・II・静物(美唄市民会館大会議室)
06年 北浦晃「スケッチ美唄」美唄新聞社より発行
07年 北浦晃自選による油彩画展・テーマ別・III・風景(美唄市民会館大会議室)
07年 個展「北海道の風景」(室蘭市文化センター)
現在 新作家美術協会委員・日本美術家連盟会員
北浦さんの回顧展は、昨年まで4年連続で、「版画」「人物」「静物」「風景」と、テーマ別に、おなじ会場でひらかれてきた。今回は、ふたたび「風景」がテーマ。となると、出品作はかなり重複するのでは-と思っていたが、あにはからんや、「2007年作」と附記された油絵がなんと9点もある。「出がらし感」のない、新鮮な展観となった。
筆者は、好き嫌いでいえば、北浦さんの風景画は大好きである。
印象論でいうならば「清潔」で「知的」だ。
だからこそ、この5年間で4回も美唄まで足を運んだのだ。
じゃあ、どうして「清潔」で「知的」なのか、となると、話はけっこうむつかしい。
筆者は以前、北浦さんが、現実の風景を、構図がすっきりと決まるように、再構成しているのではないかと考えていた。
そうしたら、北浦さんご自身が、そうではないとおっしゃる。描いているのは、現実そのままである、というのだ。
今回の展覧会では、もうひとつの魅力である、色に着目してみた。
筆者はじぶんでは絵筆を執らないので、あまりえらそうなことは言いづらいのだけど、風景画を描く際に難問になるのは、山と空、海と空…などの境界線ではないかと思う。
わたしたちは、風景を見る際に、概念をとおして見ているから、山と空、海と空などの境界が、きちんと存在しているかのように認識している。しかし、写真に撮ってみるとわかるが、その境界は、じつは大して明確ではないことのほうが多い。
では、山や海の存在をはっきりさせるには、どうしたらよいか。
絵の初心者で、黒々と輪郭線をかく人がいるが、これはいかにも素人くさい。かといって、うまく塗らないと、筆触が、境界にはみ出てきて、非常に落ち着きの悪い画面になることは必定だ。
彩度の高い色どうしを隣り合わせれば、分かれ目ははっきりする。ただ、色と色とがぶつかり合ってこれも落ち着かない画面になる可能性がある。
北浦さんの絵を見ると、たとえば山と空の間は、わずかにあいていて、下地の濃い色が顔をのぞかせていることがある。
いわゆる輪郭線とはちょっと異なるのだが、それと似たはたらきをして、画面を引き締めている。
しかし、ここで筆者はもうひとつの難問にいきあたる。
下地の色を濃くすれば、画面全体の輝かしさも損なわれるはずなのだが、北浦さんの絵は、とてもクリアな色調に覆われているのだ。
チューブから出したままの色は、生っぽいといって、きらわれることが多い。北浦さんの絵の緑などは、とても輝かしいのにもかかわらず、生っぽさはみじんもない。
この生っぽさを消すために、風景画家はいろいろ苦労しているはずである。さんざん絵の具を練ったり、ホワイトを混ぜたり、タッチを小さくしたり…。
とはいえ、あまり技法論に走っても、北浦さんの絵の魅力を語ったことにはならないだろう。
今回、とくに心ひかれたのが「芦別岳(空知川の岸辺)」だった。
この題から、国木田独歩を思い出す人は多いだろう。でも、あの小説では、じつは空知川は、音でしか登場しない。
独歩が北海道で得た開放感と希望、そして、挫折感と徒労感の予兆。
北浦さんの絵は、そういうわだかまりはなく、どこまでも明晰で、伸びやかだ。
画面には人間はまったく描かれない。にもかかわらず、どこか、人間への信頼感みたいなものもつたわってくる。
その明るさは、けっして単純さなのではなく、30そこそこの青年だった独歩にはない、成熟なのだと思う。
北浦さんは来年は札幌で個展をひらくらしい。
美唄は遠いと思った人(ほんとは、札幌駅から特急で三十数分だから、モエレ沼とか芸術の森より近いぐらいなのだが)、ぜひ見てください。
展示作品はつぎのとおり。
「美唄市役所裏(素描)」 25.0×34.0 1954
「美唄駅前(素描)」 同上 1954
「三菱美唄鉱業所」 同上 1954
「美唄労災病院建築現場(素描)」同上 1954
「冬木立」 24.0×33.3 1955
「美唄市立病院(版画)」 26.8×19.6 1963
「冬のポプラ(版画)」 15.0×44.5 1967
「美唄・楓ヶ丘・S」 F100 1993
「樹林秋景」 F30 1993 (株)岸本組蔵
「馬」 F10 1995
「美唄浅春」 P100 1998
「斜里岳」 F120 1999
「美唄浅春B」 P50 2001
「旭岳」 F120 2004
「雄阿寒岳遠望」 F120 2006
=以上、特記したもの以外は美唄市蔵
「美唄橋から」 M30 2006
「芦別岳(空知川の岸辺)」F50 2007
「秋の大沼公園(駒ケ岳)」F30 2007
「陣屋町の春」 S20 2007
「幌萌町の桜」 S20 2007
「洞爺湖新緑」 F20 2007
「朝の樺戸連山」 F20 2007
「東明公園の春」 P20 2007
「達布山から」 P20 2007
「菱沼の岸辺」 P80 2007
=以上、作者蔵
「スケッチ美唄(8点)」各20.0×29.6 2006 美唄市蔵
「スケッチ美唄・第2集(8点)」同上 2007 作者蔵
07年8月31日(金)-9月6日(木)9:00-17:00
美唄市民会館(西4南1)
■北浦晃自選による油彩画展 テーマ別III・風景(06年9月)
■北浦晃 自選による油彩画展テーマ別・1・「人物」 (04年)
■北浦晃 自選による版画100選 (03年10月)
■北浦晃個展 (03年8月、画像なし)
■北浦晃油絵個展(01年、画像なし)
略歴
1936年 栃木県安蘇郡堀込町(現佐野市)生まれ
39年 赤平市、41年美唄市を経て、67年室蘭市に移住
54年 美唄東高校在学中、第9回全道展入選(64年会友賞、75年会員、97年退会)
58年 北海道学芸大学(現教育大学)卒業、美唄中学校に勤務(67年まで)
70年 札幌時計台ギャラリー個展(以後札幌個展12回)
75年 札幌時計台文化会館美術大賞展出品(90年同展出品)
84年 北海道の美術84イメージ「道」展優秀賞(道立近代美術館)
84年 室蘭市文化連盟芸術賞受賞
88年 「鏡の国の美術館」展出品(道立近代美術館)
91年 東京銀座・文藝春秋画廊個展(94年同個展)
92年 「生まれ出づる悩み」展出品(岩内町、荒井記念美術館)
96年 油絵自選展(室蘭市文化センター)
98年 蒲原静子・山田一夫・北浦晃三人展「11月の風」(以後室蘭で隔年開催)
99年 横浜市、ギャラリー伊勢佐木町個展
2000年 第7回新作家展出品(東京セントラル美術館。以後同展出品)
02年 第9回新作家展K氏賞受賞(東京都美術館)
02年 北浦晃自選による油彩画展(美唄市総合体育館)
03年 札幌市、ギャラリーどらーる個展
03年 北浦晃自選による版画100展(美唄市民会館大会議室)
04年 北浦晃自選による油彩画展・テーマ別・I・人物(美唄市民会館大会議室)
05年 札幌時計台ギャラリー個展
05年 北浦晃自選による油彩画展・テーマ別・II・静物(美唄市民会館大会議室)
06年 北浦晃「スケッチ美唄」美唄新聞社より発行
07年 北浦晃自選による油彩画展・テーマ別・III・風景(美唄市民会館大会議室)
07年 個展「北海道の風景」(室蘭市文化センター)
現在 新作家美術協会委員・日本美術家連盟会員
拙作についての長文の論考を有難うございました。「再構成」のこと「境界線」のこと「空知川」のことなど、後日、委細、文にて。
新作家展(10/17-31・都美術館)の作品に梃摺っているところです。こちらは http://www.shinsakka.jp で見てやってください。
ご指摘いただくであろう点については、訂正することにして、北浦さんの絵については、まだまだ考察することにします。しかし、考えることを抜きで、楽しみたいとも思います。