星瑳道都大中島ゼミの卒業生と在校生を中心とした毎年恒例の展覧会として、12月に札幌市民ギャラリーで開くゼミ展と、春の「ナカジテクス」展がある。後者は、テキスタイルの雑貨や小物を、さいとうギャラリーで展示販売するもので、さらに2013年からは、シルクスクリーンによる作品を中心にした「ナカジプリンツ」展もギャラリー犬養を会場に開催されるようになった。
今年のナカジプリンツは、参加者が47人と過去最多。2階のメイン室と、1階のピアノ部屋、女中部屋、浴室、さらにふだんあまり使わない和室も含め、ギャラリーの全室に、バラエティーに富んだ作品があふれかえっている。
冒頭の画像は、2階の中央部分に置かれた、石井誠さんの小さな立体。
石井さんは京都を拠点に活動中。「フネ」「キカンシャ」「クルマ」などと名付けられている。
同じく2階。
左側は、先日ト・オン・カフェで個展を開いたばかりの獅子原和子さん。
四隅を丸く処理した支持体に、曲線が主体の絵を描いています。
右側は、虫などの切り絵で知られる佐藤隆之さん。
針金でこしらえたカラスなどもありました。
星槎道都大の学生でもOBでもない作家も大勢出品しているのが、ナカジプリンツの懐の深いところです。
このフロアには、指導に当たる中島義博さん、ユニークなつけ襟やストッキングなどを大量に出品した瀬川綺羅さん、抽象的な版画を制作する石川亨信さんらのコーナーもあります。
吉永眞梨香さんの作品もあったような。かわいいけど、意味を考えたらおかしすぎる「たこ電」のハンカチやポストカードが人気です。
「アソビテキスタイル」のトートバッグやTシャツがナカジテクスのファンにおなじみの橘内美貴子さん。
動物がかわいらしくキャラクター化される風潮にあえてあらがって、シマエナガやヒグマ、モモンガなどがかわいくない姿をしているシリーズを新たに登場させています。
1階の紹介にうつります。
松本ナオヤさんは「おやすみ」などモノトーンの絵画やポストカードを出品。
コーナーの下のほうには、石膏像が置いてあります。
異才が多い中島ゼミ関係者の中でも個性的な田中咲さん。
昭和レトロふうのぬりえ絵本のほか、「かけおちしませんか 椅子と空飛んでみたいんです」などユニークな絵がたくさん並んでいます。
ところで、ナカジプリンツがどうして楽しいのか、考えてみました。
一般の絵画展・版画展とはっきりと異なるのは、作品の数がきわめて多いこと。
とくに美術館では、絵と絵の間は、お互いが干渉し合わないように、間隔をゆったり開けて陳列するのが通例です。
しかし、ナカジプリンツは、ただ展示するというよりは、即売も大きな目的なので、とにかくびっしりと作品を並べます。そのため、おもちゃ箱をひっくり返したような、あるいは、学校祭のようなにぎやかさが、全館にわたって感じられるのではないでしょうか。
さて、和室です。
石黒開さん「みつけた」。
※訂正。藤田いぶきさんの作品です。おわびして訂正いたします。
水槽をモティーフに、夏休みの自由研究を思わせる工作のような作品を手がける人はときどきいますが、これほど美しくすっきりとまとまったものは珍しいです。ガラスと水と光が織りなす音楽のようです。
この部屋には、むらためぐみさんのパネル作品、上村塁さんの版画、風間雄飛さんの版画やプリント・トートバッグなどが並んでいました。
喫茶コーナーに近い、手前の浴室は、この数年ものすごいペースで制作・発表を続けているモリケンイチさんの個展のような格好になっていました。
モリさんはおもにパリ在住時代のエスキースやドローイングなどを、かなり破格の値で販売していました。
版画やブックカバーもありました。
近年のモリさんは、平滑で単色の背景に、人物を、皮肉を交えて配置した絵が多いですが、こうしてみると、本当に引き出しの多い人だな~と、あらためて驚かされます。
ムリして若者言葉を使うと(笑)「エモい」画風ともいえそうですよね。
1階女中部屋は、なぜかこの部屋が似合う本田征爾さんの水彩画など。例によって、ふしぎな空想のカラフルな生物たちが画面を泳ぎます。
福田悠野さん、穂野香さん姉妹の作品もなかなか目を引きました。
目立っていたのは、寺田朱里さんの絵。アクリルなので、中島ゼミの所属ではないのかもしれません。
女性の顔を、化粧するように、土木機械が改造するという作品です。
最後はいちばん奥の小部屋。
道都を卒業して滋賀県に戻って活動中の谷口貴陽さんの小品絵画が並んでいました。
以前にも増して、カラフルになったような感じがします。
川口巧海さんの作品も、なんだかこの部屋に似合うような気がします。
今回はデカルコマニーという技法を、効果的に用いた作品がありました。
ロールシャハテストにも似て、人の無意識の世界を手探りしているかのようです。
名前や画像はあげませんでしたが、ほかにもおもしろい作品がいっぱいありました。
中島先生によると今回は、在学生が多数参加しているのが特徴とのこと。やはり新顔が多いと、見るのも楽しいです。
そして「アートを買う」ことに関して、この展覧会が、ハードルを下げてくれていることは、北海道の美術界で、ほんとうに大きな貢献をなしていると思うのです。
お金持ちでなくても、目利きでなくとも、気軽に、それほど高くない価格で「アートを自分のモノにする」という習慣が、ナカジプリンツのおかげで、ちょっとずつ広がってきているのではないでしょうか(ヤナイが買っているのは安いモノばかりで、なんだか恥ずかしいですが…)。
筆者の仕事の都合で、日曜夜まで見に行くことができず、紹介が遅くなったことをおわびします。
2018年6月6日(水)~11日(月)午後1時~10時(最終日~8時)
ギャラリー犬養(札幌市豊平区豊平3の1)
■第4回
■第3回 有限会社ナカジプリンツ (2015)
【告知】第1回 有限会社ナカジプリンツ (2013)
今年のナカジプリンツは、参加者が47人と過去最多。2階のメイン室と、1階のピアノ部屋、女中部屋、浴室、さらにふだんあまり使わない和室も含め、ギャラリーの全室に、バラエティーに富んだ作品があふれかえっている。
冒頭の画像は、2階の中央部分に置かれた、石井誠さんの小さな立体。
石井さんは京都を拠点に活動中。「フネ」「キカンシャ」「クルマ」などと名付けられている。
同じく2階。
左側は、先日ト・オン・カフェで個展を開いたばかりの獅子原和子さん。
四隅を丸く処理した支持体に、曲線が主体の絵を描いています。
右側は、虫などの切り絵で知られる佐藤隆之さん。
針金でこしらえたカラスなどもありました。
星槎道都大の学生でもOBでもない作家も大勢出品しているのが、ナカジプリンツの懐の深いところです。
このフロアには、指導に当たる中島義博さん、ユニークなつけ襟やストッキングなどを大量に出品した瀬川綺羅さん、抽象的な版画を制作する石川亨信さんらのコーナーもあります。
吉永眞梨香さんの作品もあったような。かわいいけど、意味を考えたらおかしすぎる「たこ電」のハンカチやポストカードが人気です。
「アソビテキスタイル」のトートバッグやTシャツがナカジテクスのファンにおなじみの橘内美貴子さん。
動物がかわいらしくキャラクター化される風潮にあえてあらがって、シマエナガやヒグマ、モモンガなどがかわいくない姿をしているシリーズを新たに登場させています。
1階の紹介にうつります。
松本ナオヤさんは「おやすみ」などモノトーンの絵画やポストカードを出品。
コーナーの下のほうには、石膏像が置いてあります。
異才が多い中島ゼミ関係者の中でも個性的な田中咲さん。
昭和レトロふうのぬりえ絵本のほか、「かけおちしませんか 椅子と空飛んでみたいんです」などユニークな絵がたくさん並んでいます。
ところで、ナカジプリンツがどうして楽しいのか、考えてみました。
一般の絵画展・版画展とはっきりと異なるのは、作品の数がきわめて多いこと。
とくに美術館では、絵と絵の間は、お互いが干渉し合わないように、間隔をゆったり開けて陳列するのが通例です。
しかし、ナカジプリンツは、ただ展示するというよりは、即売も大きな目的なので、とにかくびっしりと作品を並べます。そのため、おもちゃ箱をひっくり返したような、あるいは、学校祭のようなにぎやかさが、全館にわたって感じられるのではないでしょうか。
さて、和室です。
※訂正。藤田いぶきさんの作品です。おわびして訂正いたします。
水槽をモティーフに、夏休みの自由研究を思わせる工作のような作品を手がける人はときどきいますが、これほど美しくすっきりとまとまったものは珍しいです。ガラスと水と光が織りなす音楽のようです。
この部屋には、むらためぐみさんのパネル作品、上村塁さんの版画、風間雄飛さんの版画やプリント・トートバッグなどが並んでいました。
喫茶コーナーに近い、手前の浴室は、この数年ものすごいペースで制作・発表を続けているモリケンイチさんの個展のような格好になっていました。
モリさんはおもにパリ在住時代のエスキースやドローイングなどを、かなり破格の値で販売していました。
版画やブックカバーもありました。
近年のモリさんは、平滑で単色の背景に、人物を、皮肉を交えて配置した絵が多いですが、こうしてみると、本当に引き出しの多い人だな~と、あらためて驚かされます。
ムリして若者言葉を使うと(笑)「エモい」画風ともいえそうですよね。
1階女中部屋は、なぜかこの部屋が似合う本田征爾さんの水彩画など。例によって、ふしぎな空想のカラフルな生物たちが画面を泳ぎます。
福田悠野さん、穂野香さん姉妹の作品もなかなか目を引きました。
目立っていたのは、寺田朱里さんの絵。アクリルなので、中島ゼミの所属ではないのかもしれません。
女性の顔を、化粧するように、土木機械が改造するという作品です。
最後はいちばん奥の小部屋。
道都を卒業して滋賀県に戻って活動中の谷口貴陽さんの小品絵画が並んでいました。
以前にも増して、カラフルになったような感じがします。
川口巧海さんの作品も、なんだかこの部屋に似合うような気がします。
今回はデカルコマニーという技法を、効果的に用いた作品がありました。
ロールシャハテストにも似て、人の無意識の世界を手探りしているかのようです。
名前や画像はあげませんでしたが、ほかにもおもしろい作品がいっぱいありました。
中島先生によると今回は、在学生が多数参加しているのが特徴とのこと。やはり新顔が多いと、見るのも楽しいです。
そして「アートを買う」ことに関して、この展覧会が、ハードルを下げてくれていることは、北海道の美術界で、ほんとうに大きな貢献をなしていると思うのです。
お金持ちでなくても、目利きでなくとも、気軽に、それほど高くない価格で「アートを自分のモノにする」という習慣が、ナカジプリンツのおかげで、ちょっとずつ広がってきているのではないでしょうか(ヤナイが買っているのは安いモノばかりで、なんだか恥ずかしいですが…)。
筆者の仕事の都合で、日曜夜まで見に行くことができず、紹介が遅くなったことをおわびします。
2018年6月6日(水)~11日(月)午後1時~10時(最終日~8時)
ギャラリー犬養(札幌市豊平区豊平3の1)
■第4回
■第3回 有限会社ナカジプリンツ (2015)
【告知】第1回 有限会社ナカジプリンツ (2013)