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■松原成樹展 ルナール「博物誌」 (2019年6月10~12、17~19日、北広島)

2019年07月05日 08時55分07秒 | 展覧会の紹介-工芸、クラフト
(今後、すでに終わった展覧会について、ちょっとずつアップしていこうと思います)

 松原成樹さんは北広島に窯を持つ陶芸家。
 個展では、一般的なうつわではなく、独特の造形を発表する。
 表面を紙やすりでみがいており、一見陶というより石の彫像のように見える。

 今回のテーマは、フランスの文学者ジュール・ルナール(1864~1910)の文集『博物誌』だ。

 冒頭画像は「蛇」。
 これは『博物誌』では

長すぎる。

という、短すぎる文章で紹介されている。
 松原さんは、とぐろを巻いた姿で表現した。


 小鳥は3羽いた。
 そのうち1羽は、屋外に置かれている。

 会場に行ったことのある人はおわかりだろうが、黒い森美術館の周囲はうっそうとした林である。
 緑の中に、本物のように止まっている白い鳥。

 松原さんのルナール好きは筋金入りで、会場には、戦後すぐに出版された訳書のほか、臨川書店から出ている全集本も会場に置かれていた。
 その本に収載されているのは彼の日記で、会場の壁には、『博物誌』はもちろん日記の一節を印字した紙も張られていた。

 ちなみに小鳥は、つぎのような日記の一節。

奇跡というものが
起こるとすれば
私にとっては 小鳥が
近づいてきて 二言三言
話しかけてくれる
ことだろう


 奥に見えるのが「あひる」。
 手前は「ぶた」。

 ところで『博物誌』というのは、説明がむずかしい書物かもしれない。
 短篇集というよりも『枕草子』『徒然草』のような短い文章をまとめたもので、最終的には86編が収められている。
 動物園で観察したようなものではなく、ルナールが暮らしていたフランスのいなかで見た昆虫や家畜、野生の鳥などがテーマになっている。

 ただし、美文調でもなければ、詩的というほどでもなく、また鋭い皮肉や諷刺がこめられているわけでもない。
 動物が主人公といっても、ラ・フォンテーヌの寓話のような擬人化がなされているというより、もうちょっと客観的な叙述がなされている文章が多い。
 筆者の好みを言えば、この軽さよりも、ドイツロマン派の神秘性のほうが個人的には好きだったりする(笑)。

 ルナールといえば『にんじん』が有名だが、母親が息子につらくあたる場面ばかりの物語のようで、あまり食指が動かない。あんなイジメの話がどうして少年少女文学全集などによく入っているのか、わからない。
 『ぶどう畑のぶどう作り』は読んだことがなく、『別れも愉し』は若い頃に読んですっかり忘れてしまった。

 この「ちょっと軽妙な感じ」は、たとえばコクトーやフィリップなど、19世紀末から20世紀前半にかけてのフランス文学の一潮流かもしれないと思う。

 つぎの画像は、かたつむり。


 風邪のはやる季節には、出不精で、きりんのようなあの首をひっこめたまま、かたつむりは、つまった鼻みたいにぐつぐつ煮えている。

 いい天気になると、さっそく散歩に出かける。といっても、舌を足代わりにしてしか歩けない。

 なお、筆者の手元にあるのは岩波文庫(辻昶つじとおる訳)なので、そこから引用しているが、松原さんは岸田国士訳の新潮文庫を愛読しているので、訳文は微妙に異なる。

 たとえば、岩波文庫で、ちょうは

 このふたつ折りのラブレターは、花の所番地ところばんちをさがしている。

だが、新潮文庫は

 二つ折りの恋文が花の番地を捜している。

となっている。
 松原さんは「恋文」という、いささか古風なことばのほうが好きなようだ。

 この個展で筆者の目に見えたのは、あいかわらずの松原さんの底なしの読書量と教養、そして、動物や昆虫をただリアルに表現するのではなく、まるみを帯びてざっくりとした造形に仕上げる松原さんの塑像力ともいうべきものである。
 おそらくそこに、ある種の普遍性につながっていくものがあるのだろうと思う。


2019年6月10日(月)~12日(水)・17日(月)~19日(水)午前10時半~午後3時半
黒い森美術館(北広島市富ケ丘509-22)


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参考
ガレリアセラミカの関連サイト http://inax.lixil.co.jp/Culture/ceramica/1999/05matsubara.html


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