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続き■塩田千春展ー魂がふるえる (2019年6月20日~10月27日、東京・六本木)。2019年秋の旅(29)

2019年10月22日 09時32分17秒 | 道外で見た展覧会
(承前)

 このインスタレーション「集積―目的地を求めて」も好きなんだよなあ。


 ベルリンという、世界からアーティストが集まる大都市を拠点としながら、世界中をまわって発表や制作を続けるこの作家らしい視点。

 移動。旅。
 あるいは難民。
 国境の変更。
 流亡。
 アイデンティティ(の喪失)…。

 そういった、グローバリゼーションの時代に特徴的な要素が、センチメンタルな描写ではなく、ストレートに表現されていると思う。

 そして、ただスーツケースが集積しているだけでなく、赤い糸でつるされているのも塩田千春らしいし、そのつるす高さが、奥に向かって少しずつ上がっていることでインスタレーション全体に動感を与えている。

 前項でも述べたが、床面に落ちる影がつくる模様が、印象的だ。

 影は壁にも映っている。

 スーツケースはゆらゆらと揺れている。
 不安定なわたしたちのように。

 ひとつひとつのスーツケースが、固有の物語を宿している。







 さて、5枚目の画像。

 今回の個展は大規模なものであるだけに、作者のこれまでのパフォーマンスの記録や映像作品、展示の資料写真などもふんだんに紹介されている。

 これは、2001年の横浜トリエンナーレ。
 当時は屋内会場で写真を撮るなんてことは考えられなかったんだよなあ(明確に禁じられていたわけではなかったと思うが)。
 非常になつかしい。

 筆者も含め、この展示「皮膚からの記憶」で塩田千春の名を知った人は多いだろう。

 泥で染まった巨大なドレスに、絶えず水が降り注ぐという大規模なインスタレーションで、初開催だった横浜トリエンナーレを象徴する作品の一つとなった。

 図録には、この本になった1999年のインスタレーション「アフター・ザッツ」について、次の言葉が引かれている。

「ドレスは身体の不在を表し、どれだけ洗っても皮膚の記憶は洗い流すことはできない」


 ちなみに、塩田千春は2009年に開かれた「ハコトリ」に映像作品を出しているのだが、そのことは図録には記載がない。
 ほかに、彼女が道内で発表したことは、残念ながらないようだ。







 ドローイング類も多くが展示されている。
 うまいと思うし、描かずにはおれなかったことも伝わってくる。




 インスタレーション「内と外」

 壁の崩壊以降、破壊と建設を続けるベルリンの街にインスパイアされた作品。





 新作のインスタレーション「小さな記憶をつなげて」

 膨大な数のミニチュアを赤い糸でつなげた作品。

 窓の外に広がる東京の景色との対比がすごい。


 過去、死、生、時間。

 そういった普遍的な課題、難問に、臆せずぶつかっていく姿勢が、作品から力強く感じられることが、塩田作品の魅力なのかもしれないと思う。



 ところで、展覧会会場を出てから、プラス35分は最低確保していただければーと思う。理由は次項で。



2019年6月20日(木)~10月27日(日)午前10時~午後10時、火曜のみ午後5時まで。会期中無休
※ただし10月22日(火)は午後10時まで(いずれも最終⼊館 30分前)
森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー)

・東京メトロ日比谷線「六本木駅」直結
・都営地下鉄大江戸線「六本木駅」徒歩6分
・東京メトロ千代田線「乃木坂駅」徒歩10分


関連記事へのリンク
ハコトリ(6) 弥生町・蔵で野又圭司、田村崇、塩田千春、田口行弘の作品を見る(2009)
横浜トリエンナーレ2001(画像なし)

2019年秋の旅(0) さくいん



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