三木稔の名は邦楽を嗜む者には、知らない人はないだろう。日本音楽集団との関わりや邦楽器のための作品など、幅広い作風で知られる。「日本楽器法」という著書も知られる通り、日本に関わりの多い作曲家だ。しかし、三木稔氏のビッグネームは、世界中にその作品や活動とともに知れ渡っていた。
最近、2008年に作曲された三木作品の「三味線協奏曲」のCDが発売となり、早速購入した。
この作品は三木稔による11曲目の協奏曲だという。三味線演奏家・野澤徹也氏のために書かれた、最初で最後の三味線コンチェルトだ。
約12分の大曲は、ソロの三味線以外は、西洋オーケストラではなく、篠笛、笙、尺八、琵琶、二十絃箏、十七絃箏、打楽器による「邦楽器オケ」である。
全般に穏やかなテンポでまとめられており、モーツァルトのコンチェルトのような穏やかさを感じる。しかし、聞き流しそうになるが、三木独特のリズムの嵌め方が複雑なような気がする。また日本風なハズミの中に、三味線ソロが、桜の花びらでも舞わせているかのような輝かしいパッセージが印象的。
しっとりとした雰囲気なのは、冒頭が三下りのためか。途中、笙の持続音にのって調弦が変わって、何となく華やかさを取り戻す。ここからは二上りになったのだろう。
そしてなんと言っても圧巻は、曲の終結部の直前、独奏の華・カデンツァ。三木作品の「奔手」を彷彿とさせる華やかさのなかに「気持ちのいい」としか言いようのない、三味線の超絶技巧がちりばめられている。カデンツァは、本来独奏者が即興的に演奏されたものだが、この三味線協奏曲のカデンツァも野澤作であるようだ。三木作品を数多く演奏してきた野澤氏ならではの華やかさだ。
かと思うと、いつのまにか暖かさをたたえたような何とも気分のいい穏やかさで、曲を閉じる。聴き応えのある三味線作品の大作だ。
三木稔氏といえば一昨年、地元・上田の混声合唱団で三木作品を演奏会で取り上げ、ご本人をお呼びする計画でいたそうだ。しかし、合唱団の指揮者に話を聞くと、体調を悪くされ来県はかなわなかったそうだ。そして12月8日、前立腺ガンのため、81歳の生涯を閉じられた。
このCDのジャケットは、自筆譜がデザインされている。
曲の冒頭部をよく見ると「野澤徹也とオーラJのために」と書かれている。三木自身の三味線協奏曲創作への意欲が、野澤徹也氏という人物を通して、ほとばしるように湧き出したのであろう。
記念すべき1枚である。